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A-i-ya-



「うーーん…。うーーん…」

椅子に座りこみながら、どちらかと言えば端正な顔を歪ませて唸る茶髪の青年。
――ただし、それは別にその辺りの野草でも食べた腹痛といった訳ではなく。

昏倒したバルキリーを病院内で調達したロープで縛り上げ、
病院内の「医務室」に寝かし付けた後の事。
茶髪の青年…。小川健太郎は彼女の扱いにほとほと困り果て、その頭を抱えていた。
先程の、バルキリーの様子を思い出す。

先程の包帯男にも似た、濁り切った焦点の合わぬ瞳。
無敵結界なしとは言え、魔人の肉体を易々と斬り裂く手刀に、
包帯男の右腕を枯れ枝のごとくへし折った蹴りの一撃。
暴風という表現すら生温い、狂気の発露としての体術。
――巻き込まれれば、もはや『死』あるのみ。

それらはどれ一つとっても、健太郎を恐怖させるには充分過ぎるものであり。
その危険性から、意識を取り戻す前に置き去りにする事も少しは考えたが。
そうするには余りにも薄情に過ぎると思い直し、ここに踏み留まっていた。
一歩間違えれば、ああなっていたのは自分なのかもしれなかったのだから。

ただ、健太郎には薬物中毒者を治療する知識などない。
とはいえ、何かしら出来る事くらいはあるはずである。
彼女を介抱するなり、治療できる人物や方法を探すなり。

そうして、健太郎は今バルキリーと共に医務室にいた。
――だが、そんな彼のやっている事と言えば?


「えーっと…。あれ?また汗を掻いてる…。
 もう一度、拭かなきゃ。うん、そうだね」

この場にいない、誰かに必死に言い訳をするかのように。
ぶつぶつと呟きながら、全身から流れ出す汗をタオルで拭き続ける位のものである。
ただし、その拭き方は妙にいやらしいものを感じさせるものであり。
おまけに、彼女の縛り方も彼の用心なのか趣味なのか、
手足を後ろで一つに纏めた実にマニアックな縛りになり果てている。
――やっている事は、もはや性犯罪者一歩手前…。

「う、うん。もう身体はいいよね…。
 後は絞り直して頭に乗せればこれでよしっと!」

それは、まるで暴走しかけた自分に必死に言い聞かせてるかのように。
別のタオルを水道水に濡らして絞り直し、額に乗せてシーツを被せる。
ただし、その視線はなぜか妙に名残惜しそうに彼女の胸元に集中していた。

「………おっぱい……」

黒いボンテージに覆われた、素晴らしき二つの膨らみを凝視して健太郎は呟く。
――そう。おっぱい、である。

仰向けとなり自重で潰れた事により、豊満さをより強調する事になった胸の双丘。
だがその重量よりに垂れる事もなく、弾力が失われる事もなく。
釣鐘状の見事な形と大きさを兼ね備えたそれが、無防備に晒されている状態は。
年頃の青少年である健太郎にとって、魅力的かつ刺激が強すぎるものであり。

ガールフレンドである来水美樹には、決して持ち合わせない逸品であった。
以前対峙した、爪とでっかい胸のおねーさんを凌駕する見事さである。
――気を抜けば、すぐにその視線が胸へ、胸へと釣られてしまう…。

「だめだ。おっぱいに集中しては駄目だ。容態に、容態に集中するんだ。
 うん。僕は健全な青少年だし、あの黄色い人のような紳士になるんだ」

過去において、行く先々で草や川、石に会話を試みたという逸話があったり。
所構わず穴を掘ったりと奇行を繰り返し、美樹にすら「気でも違ったの?」
とさえ見做された事もある彼が、元より精神的に健全かどうかはさておき。
健太郎は必死に視線を胸から逸らし、顔へと固定を試みるものの。

「……容態………容態…………っ……おっぱい」
「わーーーっ!」

込み上げる欲望に、そろそろ自制が効かなくなりつつあり。
頭を激しく左右に振って打ち消す有様は実に滑稽であるが。
覗かれている本人に聞かれる危険性など、全く考えてもいないのが愚かしい。
バルキリーの端正な眉が、この声に答えてか微かに動いていた。

「そうか、これは健全な青少年の心を乱す罠なのか…。
 くそ、負けないぞ!僕には美樹ちゃんがいるんだ!」

きりっと表情と直し、看病(?)を続ける健太郎。
もはや青(い衝動を持て余す年頃の)少年である。

健太郎は、ただ彼女の目覚めを待ち続ける。
もし知り合いに治療出来る者やその手掛かりや道具があるなら、
目覚めた後に聞いてみても良いだろう。
ただ、それらしい薬または道具と言うのであれば、
自らの支給品にもそれらしい注射銃もあるにはあったのだが。
どこをどう確認してみても、取扱説明書も何も無い状態であり。
効果も知らず迂闊に用いるのは危険でしかない為、
ただちに使う事は控えていた。

そもそも、この注射銃は「殺し合い」の為に支給されたのだ。
間の抜けている健太郎でも、それだけは忘れていなかったのだ。

支給品にあった、見るからに怪しげな液体の入った注射銃を見つめる。
どうみても罠の臭いがするのだが、解毒剤や治療薬の類という可能性も充分にある。
不用意に試す訳にもいかず、さりとて破棄するには捨て難い。
変わった形の小さな注射銃を目の前に置いて、再びうんうんと唸っていると。
――目の前の女性が、うっすらと眼を開けた。

「んっ……ぁぁ……」
「良かった、お姉さん…」

覚醒したバルキリーが、どこか恍惚とした声を上げ。
安堵の溜息を付くも束の間。

「あ……、は、はは………………。
 あははははははははははははははっ!!!!
 見つけたぁ!!」

正気とは程遠い、むしろ対極にある壊れ切った笑い声を上げ始め。
バルキリーの濁り切った瞳に、獲物を見つけた狂喜と殺意の光が宿り。

「あ、やば…。」
「かはああああああああああああアアアッ!!」

その身体を何度も捩り、強引に縛めを引き千切ろうと四肢に渾身の力を込めた。
縄が解けた後、バルキリーが健太郎に何をしだすかなどと、考えるまでもない。

幸いにも、健太郎の変態的な縛りが功を奏し。
ロープが直ちに弾け飛ぶ事こそなかったものの。
ぎりぎりと悲鳴を上げるロープは、限界がそう遠くない事を示し。
解放されれば、健太郎にS級女の子モンスターなどという
出鱈目な存在を抑えられる自信は全くない。
そうなれば、言うまでもなく最期である。

「まずい。逃げよっかな…」

だが、逃げた所で直ぐに追い付かれて殺されかねない。
どちらにせよ詰むのは時間の問題である。
つまり、もうどうにもなりはしないのだ。

「ええい、こうなったら…」

そして、これしか生き延びる道がないのであれば?
健太郎は決心するや否や、バルキリーの首筋に注射銃を押し当て。

「ていっ」
「あっ…」

バルキリ―がロープを力任せに引き千切るのと、ほぼ同時に。
健太郎は、中の液体を躊躇い無く彼女に打ち込んだ。

「あっ……ぁぁぁ……」

どこかしら艶っぽい吐息のようなものを漏らし。
戦乙女は恍惚とした表情で、一筋の涎を口端から垂らしながら。
力なくベッドの上へと崩れ落ちた。

「ふう。一か八かだったけど…。なんとか、上手くいったの…かな?」

駄目で元々。期待した通り治療薬の類であるなら問題はなし。
麻薬の類であっても、一時的に禁断症状を抑える事位は出来るだろう。
毒薬ならこれはもう仕方がない。僕だってただ殺されるのは嫌だし。
そうどこか容赦のない判断を下し、健太郎はやぶれかぶれの賭けに出た訳だが…。
――その結果は?

バルキリーの双眸から、たちまちにぎらついた殺意の光が消え。
一見、正気を取り戻したかに見え、ほっとしたのも束の間。

その瞳は熱いまま、潤んだ別の色彩を帯び始め。
その顔が紅潮し、吐く荒い息に甘いものが混じり出し。

「あ、あ、ああああああああああああアアっ?!」
「あ……」

不意を撃たれた感覚に驚くとも、激痛に身を捩るともつかぬ仕草で。
バルキリーは両腕で己の身体をかき抱き、激しく悶えながら。
驚愕とも悲鳴とも付かぬ絶叫を、喉よ潰れよとばかりに張り上げた。

「うあっ…、あ、はぁっ…あっ…。んんっ、あうっ、ふっ…はあっ…!!
 な、何を…打っ…ああ、ああああああっ!!」

――疼く、疼く、疼く。
どうしようもなく、身体が疼く。狂いそうな程に。
全身の真皮を剥き出しにされ、神経という神経を大気に晒されたような。
だが、そこには一切の痛みや苦しみというものはなく。
むしろ、暑さや冷たさ等の、触れて感じるもの全てが
別の一つの感覚に置き換わり、極限にまで鋭敏になったような。
バルキリーはこの得体の知れない感覚の暴走に、恐怖すら覚えた。

今では、シーツと身体が擦れるかすかな感覚はおろか、
髪が優しく風に撫でられるだけでも、我慢が出来ない。
そして、唐突に湧き上がった満たされぬ欲に、
身体の芯から焼かれそうになる。

これならまだ、苦痛の方がましだというもの。
傍にいるのが誰であれ、それで思う存分に満たしたくなるという
下劣な欲望が湧き上がるが、それを理性を総動員させて抑え込む。
それに押し流されてしまえば、自分が自分でなくなりそうだから。

その異常な感覚に身を捩り、何かと身体が擦れ合う事で。
さらに疼きが酷くなるという果てしない悪循環に陥り。
ただただ感覚の暴走に翻弄されていた。

ただ、健太郎からしてみれば。
喘ぐような、悶えるような、荒く激しい息を吐き。
声を上げるのを必死に堪え、目を瞑って歯を食いしばり。
気遣う健太郎が近づく事に酷く怯えるような、
それでいて奥底では激しく求め訴えるような。
その仕草全てが、酷く男の本能を刺激するものとして目に映り。

「え……と。僕にもよくわからないものなんだけど…」
「そ、そんな怪しげなも、ひっ、うあああっ…あ、あかっ…ひっ…んんっ…!」

――一体、どのような薬を打ってしまったのだろうか?
込み上げる不安と焦燥の中、バルキリーの症状から効果を推測する。

「…麻薬ですかあ?」
NO!NO!NO!NO!NO!
――脳内の声が否定する。

麻薬なら、一時的に禁断症状程度は抑えてくれるだろう。
あるいはさらに凶暴化して理性を失うかもしれないが、
今の状態は、そのどちらでもない。

先程までその全身から滝のように流れていた冷や汗が、
今はどこかしら熱を帯びた玉のような汗と化し。
容態が思わしくないのは確かだが、身体の不調というよりは
どこかしら好調すぎるような、いわく言い難い何かが感じられ。

「…毒薬ですかあ?」
NO!NO!NO!NO!NO!
――脳内の声が、再び否定する。

確かに苦しんではいるので、毒と言えなくもないが。どこか違う気がする。
どちらかと言えば、内側から込み上げる強烈な何かに、堪えているような。
そう。こういった表情は、どこかで見(て、激しく興奮し)た事がある。

――脳内の記憶を、再度検索する。
そう、それは…。

昔、友人に貰ったエロ本の数々に載っていた、
裸のお姉さん達のものと全く同じなんだ…。
激しい動悸に、甘い吐息。熱に浮かされた顔に、上気し切った肌。
全てが男の本能を惑わせ、刺激させるものであり。
それから考えられる症状は、もはや一つしかない。
つまり、彼女は…。

「もしかして媚薬ですかーッ!?」
YES!YES!YES!OH MY GOD!
――脳内の声が、全力で肯定する。

かつて拷問戦士により拷問の一環として薬漬けにされ、
今度は素敵医師により再発した麻薬による禁断症状。
そこに小川健太郎によってさらに注入された、媚薬による強烈な快楽。
その相乗効果が、先程からバルキリーの心身を蝕み続けていたのである。

「んゆーっ!…うあ、あっ…くぅぅ!!
「い、いやあっ…。ひっ、うあ、ぅっ…ん、あくっ…。あ、ああああああっ!!」

喰いしばった歯の隙間から、果てしなく甘い声が漏れ続け。
涎も汗も流れるままに任せるその有様は。
もはや、健太郎を助けた時のような凛々しさは欠片も見当たらず。
バルキリーは度し難い感覚の嵐に、ただ翻弄されるだけの
か弱い乙女になり果てていた。

「こっ、壊れ、る…。あひっ…あ、あううんっ…!!」
「どうしよう。どうしたらいいんだ…」

身体の痙攣がより激しいものに、そしてより狂ったものへと変化する。
バルキリーの限界は近く、その症状が致命的なものである事だけは
健太郎にも理解は出来る。ただ、だからと言ってどうする事も出来ず。

ただ手をこまねいていると、やがて彼女は睨みつけるように。
だが、意を決したように健太郎を正面から見据え――。

「頼む。抱いて、くれ…」
「はい?」

バルキリーの唯でさえ興奮に上気した顔が、更に赤みを帯び。
だが明らかに怒気を孕んだ声は、決して艶のあるものではなく。
欲情というよりは、苦渋そのものをその貌にたたえ。

「…抱けと、言ってるっ!!」
「ええええええええええっ?!」

健太郎の両肩を掴み、がくがくと前後に揺すりながら。
血を吐くように、脅すように、欠片も媚を売る事はなく。
バルキリーは健太郎に求め訴えた。

「…良いの?」
「…良い訳が、なっ…い。
 私も…、マスターに…、レオ以外に、身体など、許したくっ……は、ないっ。
 だが、こ、のままだ…とおかしっ、くなるっ!
 今、捕えられ、られたレオ、を…。私、の主を助け、るにっ…は。
 そっ、うなる訳にはっ、いかないんだ!」

捨てられた子犬のような不安げな瞳で見つめる健太郎に。
戦乙女は瞳に涙を滲ませながら、悲壮な決意を訴える。
彼女には大事な、救うべき者が人質としてここにおり。
自分が助けられる状態でいる為に、あえてこの身に恥辱を受けるのだと。

「あ…、ごめん」

己がしでかしたあまりの所業を自覚し、居た堪れない気分になり。
健太郎は罪悪感の余り気を落とすものの。

「…謝罪は、後でいいっ。
 そっそれに打ったのが、そっ…そういう薬な、ら。
 収まるまでっ、すれば…、しばら、くはっ抑えられ、るんだろう?
 人助、けだと、おっ…もえば、いいっ…。
 たっ、頼むっ。もう限界をこ、こ超えかけている、ん、だ…。
 こここれ以上、じ、焦らさな、いでく、れ…」

哀願するように。心の底から恥入るように。
優しく諭しながらも、健太郎を誘い。

「うん、わかった…」
「た、たた頼むっ…」

バルキリーは健太郎を招き寄せ。
健太郎はバルキリーを受け入れ。

「美樹ちゃん…」
「レオ…」

 ――二人はここにいない、お互いの想い人の名を口にしながら。

「…ごめん」
「すまない」

――共に罪悪感を抱きながら、貪り尽くすように何度も肌を重ね合った。


<キングクリムゾン!……これは酷い


          ◇          ◇          ◇


二人はあまりの気まずさにより、着替えもせぬままに背中を向け合っていた。
行為の直前に思わず互いに口にした名前は、共にはっきりと聞こえており。
つまりは共に不貞を働いてしまったのだと、そう認識せざるを得ず。
その事実による罪悪感が、二人の肩に重くのしかかったのである。

――お互いに、聞くべき事やすべきことなど山ほどある。

この催しに乗っているか否か?
お互いに仲間や敵等の知り合いはいるのか?
どのようにして、この会場から脱出すべきか?

だが、下手に口を開けばお互いに口にした恋人の話題になりかねず。
そして、それは今最も触れてほしくない話題でもあり。
二人は貴重な時間を潰し、こうして沈黙し合っていた。
やがて、その微妙な空気に堪えられなくなり――。

「…ええと、その。良かった、かい?」
「!!」

淀み切った、重すぎる空気を変えるべく。
ぎくしゃくした仕草で、健太郎は作り笑いで話題を作ろうと試みる。

「その…、初めてみたいなのに、全然痛そうじゃなかったですから。
 本当に、大丈夫ですか?こんなになってしまっているのに…。」

言われて健太郎の視線の先を見れば。
赤い粘性を帯びた言うもはばかるものが、シーツに盛大に日の丸を作り上げていた。
それはこの場で行われた行為が何か、大人なら誰でも容易く想像できるものであり。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

バルキリーは口を開こうにも、羞恥による混乱の余り全てが言葉にならず。
ただただ、声にもならぬ声を上げるばかりである。

――目の前には、動かぬ不貞の証拠がある。
できれば即座にこれを取り払い、目の前の男ごと簀巻きにして放り捨て、
証拠隠滅してしまいたい衝動に駆られるが。
そこまでされる罪が、彼にある訳ではない。
むしろ、彼なりにではあるがこちらを気遣ってさえいるのだ。
それは流石に酷に過ぎるというものであろう。

「むしろ、色々手慣れているみたいで、凄い乱れ方でしたし。
 本当に初めてで――」

――混乱の極みに達していた思考が、ようやく一つのものへと纏まる。
すなわち、触れて欲しくない部分にずけずけと遠慮なく踏み込んで来る、
健太郎の無神経さに対する激しい怒りに。

――向き直り、右腕を無造作に振りかざす。
健太郎の頬に手刀がかすめ、髪の一筋がはらりと落ちる。
健太郎は、即座に沈黙して硬直した。

「これ以上、それには触れるな馬鹿者!」

健太郎の触れた話題が、ほぼ最悪に近いものであり。
先程の乱れきった情事を思い出したくもないバルキリーは、
暴力による警告で彼に教え込む。
これ以上、しつこく話せばどうなるか分かるだろうな、と。

「…すまない。気遣わせてしまったが、何も問題はない。
 体調の方なら、大分落ち着いた。禁断症状も、今の所はない。
 元々、さっきのあれには麻薬に近い効果もあったのだろうな。
 助けて貰った事には感謝している。
 だから、そう落ち込まないでくれ」

ただ、結果として彼に助けられたのも事実であり。
震え上がる健太郎を、そっと慰める。
非常にやり辛い…。

だが、すぐにバルキリーは表情を引き締め。

「…それよりもだ。
 あれだけ最中に言ったのに、我慢出来なかったのだな…。」

憤慨しているというよりは、むしろ憮然とした様子で。
バルキリーは大きな溜息を付きながら、健太郎を静かに問い詰める。
沈黙による無視を、決して許さぬように。

「あ、その…。凄く、良過ぎたから夢中で…。じゃなくて!
 これって、やっぱり…。もしもの時は、せ、責任取ります!
 美樹ちゃんは怖いけど、認知しますし面倒も見ますから!」

超絶的に空気が読めぬとまで評される健太郎にも、流石にこればかりには気付き。
やらかした事態の深刻さから、蒼褪めた顔で健太郎は土下座して謝罪するものの。
お互いに懸念する方向性が全く違う事に気付き、彼女は二度目の溜息を洩らす。

「…なるほど。お前なりに、反省や謝罪の意志はあるのだな…。」
「だが、その様子だと全く知らなさそうだから言っておこう。
 私は女の子モンスターだ。人間とは同じように見えても種族が違う。
 だから、その懸念はありえない。そちらについては安心してもいい。」

お姉さんにどう接すればよいのだろうか?
美樹ちゃんにどう言い訳をすればよいか?
そもそも、この二人に包囲されて、果たして生きていられるのだろうか?
未来への危機に頭を抱えていた健太郎がほっ、と安堵の息を漏らすのも束の間。

「ただし、その代わり…。
 人間のそれは、我々にとっては『毒』となる。」

――どこか遠く、寂しそうな瞳で。
この場にはいない誰かを想う顔で。
バルキリーは訴える。彼女の身体にもたらす結果を。

「えええええっ?!それって余計に酷いじゃないですかー!」
「余裕が無かったとはいえ、拒みきれなかった私も悪い。
 それに…、快楽より苦痛の方が堪え易いからな。気にするな。
 薬なら抜かねばならんが、毒なら耐えればいいだけの話しだ。」

健太郎の上げる驚愕の声に、事も無げに返すものの。
次第に荒くなる吐息と、全身から再び流れ出す汗は、
それは身体状態の深刻な不調を如実に現し。

「だから、何も問だ…、くっ、つうぅぅ…。ああああああああっ!!」
「だ、大丈夫ですかお姉さん?」

気丈に振舞うバルキリーにも、やがて我慢の限界が訪れ。
小さく、苦痛の呻き声を漏らす。

「はぁ…はぁ…大、丈夫だ…。心配するな、これぐら、ぐっ?!
 内から、焼けるっ!!」

熱い。どうしようもなく、熱い。
今度は体内に灼熱の溶岩を流し込まれたような。
猛毒が奥深くねじ込まれ、内臓が溶け出すようなその激痛に。
バルキリーは再び倒れ、ベットの上で蹲る。
その顔は紙のように白く、まるで生気というものがない。

「全然、大丈夫じゃないじゃないですか!
 今からでも掻き出せば。って、奥なら吸い出した方が…。
 僕、手伝います!!」

<…………


下腹部を押さえて蹲るバルキリーの両膝を掴み。
「毒」を吸い出そうと、健太郎は真剣な表情でその顔を近づけるものの。
それが一体どういう状態になるのか、バルキリーは即座に光景を想像し。

「ち、近寄るな馬鹿者!これ以上、私に触れるな!触らないでくれ!」
「痛っ!痛っ!痛っ!や、止めて下さいっ!」

バルキリーはなけなしの体力を振り絞り。
健太郎の顔面を何度も足蹴にして、追い払おうと試みる。
その白過ぎた顔は、今度は羞恥の余り鮮血よりも紅く――。
そして湯気が出そうなほどに熱く、煮え滾っていた。

身体は既に折れている。
度重なる情交によって。
レオとの時とは比較にならない、蕩ける程の快楽がその身に焼き付いてしまっている。
これ以上、健太郎に辱しめを受ければ、心までもがその濁流に押し流されそうで。
このまま生命を落とすより、さらに取り返しの付かない事になる予感を胸に抱き。
バルキリーは彼の好意を頑なに拒む。最後の一線を死守すべく。

「もういい!その気持ちだけで充分だ!
 だからもう、頼む…。これ以上、私を辱めないでくれ…。」

その上気し切った顔に大粒の涙さえ浮かべ、懇願するも。
苦痛は一層堪え難いものとなり。

「はぁ……はぁ…、あ、く、つうぅ?うああああああああっ!!」

再び、苦痛の呻き声を上げる。
快楽が苦痛に置き換わっただけで、事態は何ら変わらない。むしろなお酷い。
このまま手をこまねいていては、良くて苦痛のあまり精神に異常をきたすか、
悪くすれば毒で死にかねないだろう。

「駄目だ、逝かせない!
 今、助けるよ。お姉さん…。」

健太郎は意を決し、再びバルキリーに迫る
純粋に、ただ彼女を救うべく。



<(飛ばすか?留めるか?)



「あ、やめ…」

 来るな……、来るな……。
 これ以上触れられたら、
 今お前に辱められたら、
 私は二度と、私は二度と…!!
 二度とレオを………………。

バルキリーはもう一度健太郎を引き剥がそうとするも。
全ての体力を使い果たし、抵抗する力さえも失い。
彼を近付けてしまう。そして…。

「さわらないで……。…お願い、やめて……」

本来の彼女を知る者からすれば、想像もつかないような。
か弱い哀訴をも綺麗に無視して。
健太郎は、おもむろに唇をあてがい。

「んんっ!いやあっ…!」

バルキリーは、せめて心だけは奪われまいと。
昔日のレオとの日々を思い出す事で、必死に繋ぎ止めようと試みる。

半人前だった頃の彼を導き、何度となくその命と成長を助けた時の事。
薬漬けにされて錯乱した己を、今度はレオが救い出してくれた時の事。
レオの従魔となり、仲間と共に戦い強くなる充実感を見出した時の事。
レオと何度も契りを交わし、女性としての自分を自覚し始めた時の事。

――だが、その努力も程なくして全て無駄に終わり。

バルキリーは、度重なる絶頂でついに気を失い。
健太郎はただ、彼女の延命を心より望み。
その毒を一滴残らず、丁寧に吸い出した。


<いいや!『限界』だッ!飛ばすねッ!バイツァ…。もとい、キングクリムゾンッ!


          ◇          ◇          ◇


「…んっ……。私、は…?」

爽快には程遠い、気だるい目覚めの中で。
バルキリーは己の身体状態を、今一度確かめていた。

――身体が、酷く重い。
薬と毒に侵され、思い出す事もはばかる無体の数々で、
乱高下を繰り返した体温と脈拍。疲労困憊にある身体。
そこから回復しきったとは、到底言い難い。

ただ、軽く気を失っていた分、少しだけ休息が取れた事と。
毒を完全に吸い出された為か、幾分か楽にはなっていた。
薬物中毒による禁断症状や、媚薬による疼きも消え失せ。
今は小康状態を保っている。今の所は、だが。

ただ今は、正気を失う事もなく。
まともに空気が吸えるというだけでも有り難い。
幾分ふら付きながらも、ゆっくりと立ち上がり。
ゆっくりと深呼吸をしようとした所で――。

「……これ、は?」

胸に若干の窮屈さを感じ、またそこ以外の頼りなさから目線を下げると。
バルキリーは、男性もののYシャツを着せられている事に気付いた。
そしてシャツについた匂いに、少しだけ覚えがある。これは確か…。

「ええ、と。おはよう。
 お姉さんの服が汗だくだったから、僕のを着せたんだけど…。
 迷惑だったかな?」

傍にはYシャツの主が、先程と同じ捨てられた子犬のような瞳で。
バルキリーを心底気遣いながら、やや遠巻きに様子を伺っていた。

これからの叱責に怯えるような、
それでいて離れられないような。
そのどこか愛らしいペットのような仕草に、
バルキリーは胸の何かが刺激され。

「あっ……」
「お姉さんの服は、近くに干してありますから。
 大丈夫そうだし、そのシャツは差し上げます。
 では、僕は先に行きますので」

そう言い残し、慌てて立ち去ろうとする健太郎の肩を背後から掴む。

「待て。このまま一人で出掛けようというのか?
 …私を、置いていくつもりか?」

健太郎が去っていく事に、何故か堪え難い寂しさと悲しさのようなものを感じ。
気が付けば、バルキリーは自分でもよくわからない事を口にしていた。

「え…。お姉さんなら僕より強そうだから一人でも大丈夫かな、と。
 お姉さんだって僕の事は嫌っているっぽいだから、
 これ以上一緒にいるのもいやかなー、と思って」
「そうだな。確かに色々と無体を働かれたからな」

特に他意はなかったが、その一言は健太郎を落ち込ませるには充分であり。
気落ちする健太郎を尻目に、バルキリーは考える。
確かに、健太郎の言う事は間違ってはない。

万全とは言い難いが、それでも一人でなんとかなる分には体力も回復している。
それに、目の前の男は媚薬を打ち込んだり、
体内に毒を捻じ込んだり、吸い出したりと、
散々な辱めを与えられた相手でもある。

追い払うどころか、この場でその報いを与えてしまっても良い位なのだ。
だが、バルキリーはどうしても健太郎の事が嫌いにはなれず。

「だが、悪気があった訳でもなかったのだろう?
 なら、構わない。元より、私から誘ったのだ」

それどころか、気が付けば彼を庇う言葉さえ発している。
そんな自分自身に、戸惑いすら感じていた。

「…え?ええ。ええ。そうですよ!僕は健全な青少年ですからっ!」
「やり方はどうあれ、結果として私は助けられたのだ。
 名前は…、すまない。なんといったか?」

しどろもどろになる健太郎に、微笑ましいものを感じつつ。
その名を呼ぼうとして、そして初めてバルキリーは気付く。
考えてもみれば、名前も知らないような青年に抱かれ、
あまつさえこのような無体を繰り返していたのか、と。

そのあまりの愚かしさに、苦笑を浮かべながら。
健太郎です、と短く答えた彼に、バルキリーは己の名を教え。

「了解した。健太郎、あなたに感謝する。
 ひいては、この恩を返すまで傍にいたい。
 もし、あなたさえ良ければだが」

『恩を返す』という言葉を、ことさらに強調して。
バルキリーはその手を健太郎に差し伸べた。
ただ、それはまるで自分自身に言い聞かせているような響きがあり。

「えー、そんな大袈裟ですよー。
 まあ、でもお姉さんさえ良ければ別に構いません。
 それに、実は一人じゃ心細かったですから。
 ではお願いします、お姉さん」

バルキリーは、健太郎に拒まれなかった事に何故か心よりの安堵を覚え。
二人はようやく、今後の方針について情報交換を始めた。


          ◇          ◇          ◇


気が付けば、健太郎の事ばかり考え始めている。
囚われている、最愛の主であるレオの事ではなく。
つい先ほどまで、名前すら知らなかった男の事を。
健太郎に抱かれてしまってから、情でも移ってしまったとでも…。
果たして、そんな事がありえるのだろうか?

バルキリーはそんな、急激な心の変化に戸惑いを感じていた。
健太郎の事を考えるたびに動悸は激しくなり。息は苦しく。
心に落ち着きが無くなっていく。
そして、彼が失われる事がなによりも恐ろしく…。
そもそも、どうすればよいのかがわからなくなる。

そう、この感情は一度だけ経験があるのだ。
これはまるで――。

だがそれはあれだけの経験があったのと、助けてもらった恩から来るものであり。
ただ健太郎に義理を果たすだけなのだと、そんな事などあるはずがないのだと。
あるいは、麻薬中毒による後遺症を、別の何かと錯覚しているのだと。
そう思い込み、深くは考えない事にした。

しかし、バルキリーは唐突な感情の変化の原因にこそ、
注目すべきであったのだ。

二人には知る由はないが、彼が打ちこんだ得体の知れない媚薬――。
それは、かつて使徒アベルトが用いた禁断の効果を持つものであり。
並の女性なら数分もしない内に精神を壊しかねない程の激痛と快楽を、
注射した女性に与え続ける効果を持つ毒であった。

だが、さらに悪質なのはその解毒内容であり。
犠牲者は男の精を受けいれば解毒は可能なのだが、
抱かれた男には絶対服従してしまう副作用を持つ。

バルキリーが先程から好意を抱いているのも、実は媚薬による副作用であり。
魔人である健太郎は、当然彼ではないものの、存在としては彼に近いが故に。
健太郎に恋愛感情を抱いてしまうという副作用をもたらしてしまっていた。
こうして、二人の歯車はゆっくりと歪み始め…。
だが、二人にその自覚は一切なく。

不貞を犯したという背徳感と後ろめたさ。
そして心身に様々な爆弾を抱えながら。

二人はそれぞれの想い人を探すべく、無人の病院を後にした。

【サカイ/一日目・昼】
【小川健太郎@Ranceシリーズ】
[状態]:魔人、上はTシャツのみ
[装備]:日本刀
[道具]:支給品一式、ヒララレモン、
    アベルト謹製の媚薬×2(うち一本は使用済)@RanceⅥ-ゼス崩壊-
[思考]基本:美樹ちゃん捜索
     1:やっちゃった…。
     2:お姉さん、美樹ちゃんには黙っておいてくれるかな…。
     3:後遺症とか大丈夫なのかな?
[備考]:戦国ランス正史終了後からのスタートです。
    ただし、己が魔人であるという自覚が全くありません。
    カッターシャツをバルキリーに差し出した為、
    上はTシャツのみの状態となってます。

【バルキリー@GALZOOアイランド】
[状態]:小康状態、疲労(中度)、健太郎への恋愛感情(自覚なし)
[装備]:健太郎のYシャツ
[道具]:支給品一式、不明支給品×2
[思考]基本:レオを助け出したい。健太郎に協力する。
     1:どうしよう。健太郎の事が忘れられない…。
     2:男は皆、豊かな胸が好きなのだろうか…。
     3:このYシャツ、良い匂いだな…。
[備考]:バルキリーのジャンキー状態は現在の所抑えられているだけで、
    時間が立てば禁断症状により再発する可能性があります。
    完全に症状を消し去るには、全身の血を入れ替える等の特殊な
    医療行為を行うか、転生等で身体を完全に変える必要があります。
   :媚薬の効果は解毒されましたが、副作用で健太郎に惚れています。
   :女の子モンスターなので、脱いだ衣服は時間経過と共に再生します。
   :健太郎の呟きは、おぼろげに聞こえていました。

[共通備考]:病院の医務室に、バルキリーの衣服が放置されています。
      また、引きちぎられたロープと汗等で汚れたシーツがそのままにされてます。


【アベルト謹製の媚薬@RanceⅥ-ゼス崩壊-】
注射して吸入する。健太郎がバルキリーに投与したのはこの媚薬である。
並の女性なら精神を破壊されねない程の激痛と快楽を与え続ける効果を持つ。
男性の精で解毒は出来るが、抱かれた男には絶対服従してしまうようになる。
アベルトは、かつてこの薬をウルザとリズナ(アリスロワ未登場)に使用した。
添付ファイル




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