「クロス・ライン」揺陸松子編①


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ソヴィエート=モンゴロイド連合共和国の最東端に位置するジャパネスク領。
俗に“極東”と呼ばれる地域には、世界政府統一後の今も尚、ブシドーと呼ばれる独自の戦闘様式を受け継ぐサムライウォーリアーたちが生き残っていた。
多くの者たちは世界政府による新・国際平和憲法の定めに従い、和平の名の下に自らの牙を捨て、文化の平定を徐々に受け入れながら緩やかに「世界」と同化していった。
しかしその一方で、未だ自身の内に眠るサムライスピリッツを忘れられぬ者たちも大勢いる。
ある者は領内に設置された治安維持部隊“将軍の懐刃”の志願兵として、和平を乱す不届き者に対し「正義」の名の下に暴力を行使し、
またある者はそんな世界政府のやり方に反発すべく、レジスタンスを結成し無謀な戦いの場へ赴いた。

また、世界政府統一前の大規模な大戦、大陸の1/3を焼き払い、文字通り世界の地形を変えるほどに熾烈を究め、
後に人々から“断罪の焔<ジャッジメント>”と呼ばれることになる第三次世界大戦において優秀な戦績を収めた猛者たちはグレート・ブリタニア・ユナイテッド・ステイツが
監理・運営する世界政府直属軍事機関“星条の黙示録<ユニ=アポカリプシ>”への入隊が許可され、
未開地域での開拓事業や、未だ世界政府に対する軍事的反抗を続けるオセアニア連合王国、通称“魔大陸<パンデモニウム>”での戦闘行動を行っていた。
何にせよ、世界は——ラテン・アメリカ帝国の決戦部隊“ケツァルコアトルの翼”が不穏な動きを見せているとの懸念はあるものの
——世界政府の強引とも取れる国家平定と新・国際平和憲法の施行によって未だかつて無い平和が訪れていた。
しかし、世界全体を見渡しての「平和」も、ごく一部、例えば極東のある地域、俗に学園都市と呼ばれるコミューンの内部にまで目配せをすれば、
やはりそこには一個の人間によるごく小規模な「暴力」が存在するのである。

その日、学園都市に住むある少女は軽い偏頭痛と大きな苛立ちを覚えていた。
きっかけはこの日の早朝に何者かから届いた一通のメールだった。


——電波塔で待つ


ただ一言そう告げられたシンプルなメールは、しかし少女にとっては大きな苛立ちの原因となった。

実はこの少女、その身体に異能の力を秘した“超越者<トレイサー>”の一人であり、このような挑戦状をほぼ毎日のように受けていたのである。
“超越者”の存在が認められるようになったのは先の第三次世界大戦以降であるが、戦争による影響、即ち科学兵器による後遺症なのか、
それとも戦後の復興作業の中での環境の変化による突然変異なのか、あるいはその両方か、識者の中でも意見は分かれている。

兎にも角にも、“超越者”である少女は今日も闘いの場へと赴く。無論、無視して平穏な日々を過ごすことも出来ただろう。
しかし、少女にはそういった発想はなかった。
なぜなら、この少女もまた、心の奥底でサムライスピリッツを捨て切れない、ブシドーの持ち主だったからだ。
「で、どれだけ待たせれば気が済むんですの?」
「さぁな。俺もこんなしょうもない決闘の立会人に指名されてウンザリしてんだ」

決闘の指定場所、律儀にも指定時間丁度に到着した少女は、しかし一向に現れない挑戦者に対し苛立ちを募らせていた。
(あまりイライラさせないでほしいですわね。溢れ出る破壊衝動を抑えるのも大変でしてよ?)
立会人と称する黒いフードの男と共にただただ空虚な時間が流れていく。

「ねぇ、もう帰ってよろしくて?まいん実況に遅れそうですわ?」
「まあそう言うな。きっとエアバスが事故でも起こしたんだろう。最近増えてるらしいからな。何でも“螺旋の海楼”を名乗るレジスタンスどもの仕業だとか」
「まったく、下らないわね……」
「“超越者”であるお前には分からんかもしれんがな、行き場のない反抗心はやがて暴発し他者に伝染するんだよ。
最近にもいただろう、太陽光発電はパネルから反射した光エネルギーに含まれる紫外線が人体に悪影響を与えるから即時撤廃し地熱発電に切り替えろって、
発電施設に爆弾仕掛けたバカどもが。理由はなんだっていいのさ、とにかくこの閉塞した世の中ってやつで何かを為さなきゃ気が済まないんだ」
「反抗心……ねぇ。私は平凡にこの有り難い平和を享受したいだけなのですが」
「果たして本当にそうかな?お前はなぜここにいる?お前の中にも抑えきれない衝動があるんじゃないのか?なんと言ったか、学園都市のお偉方の話では“超越者”には本能的に戦闘行動を求める遺伝子が組み込まれているそうじゃないか」
そう、実際“超越者”にはなぜか通常の人間よりも暴力的な思考に走る者が多い——無論、皆が皆そうというわけではないが——

そして、この少女もまた、決して抗えない本能が燻っているのだ。
だからこそ、この場に立っているし、その指摘に対して何も言い返せない。
「そういえば……お前聞いたことあるか?」
立会人の男の言葉に無言で先を促す。

「これは飽くまで噂なんだがな、実は“超越者”にはランクがあってな、まあつまりは戦闘能力によってランクD〜ランクSまで強さの基準があるらしい。
そしてな、ここからが面白い話なんだが、世界政府の連中は密かに目を付けた“超越者”どもをランク付けしてな、わざと決闘になるように仕向けて賭博の対象にしてるらしいぜ」
「それはNHKで生中継されますの?もしくはUSTで配信されるとか」
「さぁな。そこまでは知らん。だがな、他の噂では戦闘行動を繰り返すことによって能力ランクが上昇する例が確認されてるらしい。もしかしたら、お前も何か変な実験のようなものに参加させられてるのかもな」
「はっ、バカバカしい…」

などと話していると、ふいに人の気配がした。

「あら、やっとお出ましですの?一体どれだけ待たせれば——」
気配のした方を振り返り言葉を失う。
そこには、同年齢と思われる一人の少年が佇んでいた。見た目はごく普通の、どこにでもいるような少年だ。
ただし、左腕は何かに食い千切られたように無残な姿を晒し、全身から血が噴き出していたのだが。
「あなた……何なんですのその様は……」
「……」
生きているのが不思議なほどの惨状であるが、しかしその少年は震える唇で告げる。
「に、逃げろ……アイツはヤバすぎる……いるんだ、本物のバケモノが……ッ!」
「何ですの、何を言ってますの!?」
「最初は……ただのガキだと思ってたんだ……だが、アレはもはや人間じゃない、あんなものが俺たちと同じ人間なわけがないッ!!」
「と、とにかく救急車を!」
「いや、もう遅いみたいだぜ?あれ見てみろよ」

一人冷静な立会人に促され見上げた先には、一人の少女が立っていた。
小学生低学年ぐらいの背丈であるが、なぜか背中には天使の翼のようなものを背負っており、実際の背丈よりも何倍も大きく見える。
色素の薄い透き通るような肌、艶めかしく風に揺れる金色のロングヘア、黙っていれば美少女と言っても過言ではないほどに整った顔立ちをしているが、
しかしその目は血のような赤に染まり、口元には狂気の笑みが浮かんでいる。

「な、なんですのあれは……あれがバケモノとかいうモノですの?——しかし、私は今何を思って……」
そう、驚愕の事態に直面し、それでも少女は何か得体の知れない感情を抱きつつあった。
(——本気を出してもよろしくて?)
大怪我を負った決闘相手や、目の前に現れた謎の少女、それらを前にして、少女の心臓は未だかつて無いほどに震えていたのだ。
「ククッ……よろしくてよ。やってあげましょう。私の力、今こそ本気で開放して差し上げますわッ!!」


——刹那、相対する異形の少女の周囲から無数の紋章陣が展開される。“超越者”がその異能を発動させる際に現れるトリガーのようなものだ。
数十に及ぶ紋章陣というファンタジーな光景に反して、陣の中心からえらく俗物的なものが出現する。

銃火器だ。

大小様々、形式も年式もバラバラないくつもの銃火器が、陣の中から銃身だけを覗かせこちらを捕捉している。
そう、確認した時には既に引き金は引かれていたらしい。

————!!
形式も年式もバラバラな発泡音が周囲に鳴り響き、人類によって開発された殺人兵器が“超越者”の力によって暴力の嵐を吹き荒れさせる。

「うお!?マジかよ!!」
ゴッバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
どうやら衝撃によって立会人の男はノーバウンドで吹き飛ばされたようだ。
では、その攻撃力を向けられた当人はどうか。
大量の硝煙と砂埃が晴れた中、そこには先ほどと変わらぬ姿で立ち続ける少女の姿があった。

——否、左腕を前に突き出し、巨大な紋章陣を展開している。

「間一髪といったところですわね。まさかそんなファンタジックな成りでそんな無粋な近代兵器をお使いになるとは
……ともあれ、私の“守護女神の防壁<シール・ド・イージス>”の前では何の役にも立ちませんわね」
少女はさらに、右腕からも陣を展開させる。
「次は私のターンでしてよ——」

展開した陣の中に直接腕を突っ込むと、中から自身の「武器」となるべきモノを取り出す。
全長5メートル、太さ20センチを越える巨大な「槍」だ。
「“血塗りの神槍<スピア・ザ・グングニル>”、これが私の“攻撃力”ですわ。
フフッ……この“何でも貫き通す槍”と“何ものをも貫通させない盾”で、あなたをタナトスの深淵へ送り渡して差し上げましょう」

そう、これこそが彼女の持つ異能の力“矛盾許容<エクス=パラドクス>”、この世のあらゆる矛盾を具現化する力である。
「この世界の不条理、とくと味わいなさいッ!!」
少女は走る、己の全力を試すため、そして、その先にある世界を見るために——


というところで目が覚めた。
なんということだろう。
昔から想像力が豊かな方であると自覚はしていたが、まさかよりもよってこんな、
「ラノベだったら俺にも書けるんじゃね?まずはWEB小説としてアップして同人誌にまとめたら爆売れしてゆくゆくはアニメ化だろうな」
みたいなノリで書き始めて後から読み返したら即座に自殺したくなるような中二病丸出し設定の夢を見るだなんて。

「フロイト先生でも苦笑しながらアイオーンを薦めてくるレベルですわね」
独りごちながら枕元のノートPCを引き寄せる。
サブとして使っているVAIOだ。
まず最初に繋ぐのはfavstarというサイト、自己顕示欲の強い“アルファ”と呼ばれる人種が集うコミュニティサイトだ。
「ホホホ、順調にお星様が集まってますわね。よろしくてよ」
己の“人気”を確認すると「いつもの場所」にアクセスする。

kira_kuiiin みなさんごきげんよう。 #Destroy

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