川 ゚ -゚)は真実を何も知らないようです 本編

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真っ白な部屋に堂々と存在するピエロ人形は、恐怖の対象だ。 其れが視界に映るだけで、酷い吐き気と頭痛が同時に私の身体を犯す。 さらに、ツンとした刺激臭が鼻腔を刺激する。 うっ、また嘔吐しそうだ。 川; ゚ -゚)「グェッ、ハアハア……」 部屋中に音を反響させるタイルが敷き詰められており、嘔吐した汚物の着地音が私の世界に響く。 窓も扉も存在しないこの世界に、何故私は存在する? 其れすらも解らない。 川; ゚ -゚)「胸糞悪い気分だ……」 序に言ってしまえば、この立派なピエロ人形を畏怖している理由も解らない。 解らない尽くしでどうしようもない。 何か、ヒントが欲しい。 このままじゃ精神的に辛い。 川; ゚ -゚)「何故、私は深紅のドレスを着ている?」 嘔吐物で少し汚れてしまった深紅のドレスは、慣れていないせいか、非常に動きにくい。 其ればかりか、奴隷が装着してそうな鎖付きの首輪と、蜜壷から延びている鎖が動作に制限を掛ける。 首輪の鎖は、天井の中心に存在する正方形の穴から出ており、穴の奥は漆黒の闇が広がっていることが確認できる。 蜜壷から伸びている鎖は、ピエロ人形の正面に存在する宝石箱の中に続いているようだ。 あの宝石箱には一体何が入っているのだろうか? 川; ゚ -゚)「私は確か、買い物してて、それから……」 ・・・・・・駄目だ、思い出そうとすると頭が割れそうになる。 過去のことも一切思い出せない。 自身の頭の中に存在する記憶は、自分の名前だけ。 それ以外は、この部屋と同じで、真っ白だ。 川; ゚ -゚)「とりあえず、何かしら行動してみようか」 私は、首輪から伸びている鎖を引っ張った。 すると、鎖はスラスラと伸びていくのと比例して、蜜壷から伸びる鎖は私の中に侵入していく。 身体が震える程の歓喜を覚える。 暫く余興に浸ってから、今度は蜜壷から伸びる鎖を引っ張る。 今度は、首輪の鎖が引っ張られた。 私は其の行為にも快感を覚える。 何これ、病み付きになりそう……。 ------------- --------- ----- 川; ゚ -゚)「とりあえず、この鎖の仕掛けは解ったが……」 私は、はしたない思考を捨て、真面目に脱出するルートを考えた。 つまり、この鎖の長さには限度が有る。 何処かに鎖を巻きつけ、限界まで天井の鎖を引っ張れば、上の穴から脱出できる。 しかし、この部屋には鎖を巻き付けられそうな物体は存在しない。 存在するのは、人と同じサイズのピエロ人形と小型の宝石箱、10:00と書かれた白く小さな箱型のデジタルタイマー。 川; ゚ -゚)「しかし、あの宝石箱には何が入っている?」 川; ゚ -゚)「とりあえず、鎖を手繰ってこっちに持ってこよう」 蜜壷から伸びる鎖を引っ張る。 すると、その宝石箱の中から赤子の泣き声が上がる 余りに予想外な現象に私は混乱した。 川; ゚ -゚)「え、何で泣き声?え?」 これはピエロ人形に畏怖してるとか関係ない。 今すぐ彼を救わなければ。 ん?彼? 何故、あの泣き声だけで男だと判る? 何故、救いたいと思った? 理由は解らない。 ただ、あの子は助けなければならないと本能が告げる。 私はピエロ人形に接近する。 彼と私の距離が短むにつれ、嘔吐と頭痛が酷くなる。 川; -)「ハアハア……ゲェェ!!」 びちゃびちゃと汚物をぶちまける。 純白のタイルが、下品な色に染まってゆく。 美しい色彩だった深紅のドレスも、汚物塗れになった。 でも、そんなの関係ない。 私はそれでも、行かなければならない。 川; -)「うっ……」 余りの頭痛に失神しそうになるも、私は踏ん張った。 あの子に会わなきゃ・・・・・。 其の使命感だけが、私の足を前に進ませる。 ------------- --------- ----- 川; -)「ハア、ハア……」 「おぎゃ、おぎゃー……」 川; -)「ふふ、可愛いな」 掌サイズの小さな、小さな、命を眺めて口元が緩む。 赤子は臍から鎖が出ており、私と繋がっている。 これは一体何の意味があるのか? 私を此処に閉じ込めた輩は何を望んでいる? まぁ、しかし。嘔吐と頭痛に耐えながら接近した価値はある。 この愛しい気持ちは一体なんだ? 未だかつて無いほどの、この幸福感は一体なんだ? 其れと同時に、強烈な睡魔が私を襲う。 意識を失う前に視界に映ったデジタルタイマーには、9:59と表示されていた。 川; -)「……」 ------------- --------- ----- 私は覚醒する。 相変わらず真っ白な部屋にピエロ人形が堂々と存在し、私を威圧する。 そして、ある異変を感知した。 川; ゚ -゚)「あ、あれ?」 あの子がいない。 可愛いあの子がいない。 愛おしいあの子がいない。 一体、何所に行ってしまったんだ? 川 ; -;)「うぅ、何所に行ってしまったんだ……」 涙をぼろぼろ流しながら、辺りを見回す。 不安とあの子を失う恐怖が私を襲う。 そんな自身でも意味不明な感情が、私の全てを支配する。 嗚呼、なんて苦しくも、悲しい気持ちなのだろう。 川 ; -;)「あっ!!」 あの子が居る。 あの忌々しいピエロ人形の前でスヤスヤと眠っている。 何故、私の方で寝ない? 私がそんなに不満か? 川 ; -;)「うぅ、うっ!!」 嘔吐しそうになり、口元を手で押さえた。 情緒不安定な私を尻目に、スヤスヤと畏怖する存在の前で眠る赤子。 暫くして吐き気が収まったので、汚物塗れのドレスで涙を拭く。 勿論、汚物を避けながら涙を拭き取った。 しかし、拭いても、拭いても、涙が溢れてくる。 どうして、見ず知らずの子なのにこんなに悲しいのだろうか? 川 ; -;)「うう……あの子をこっち側に戻さなきゃ・・・・」 鎖を引っ張ろうかと考えたが、それでは赤子が可哀想なので却下した。 やはり此処は、私が行くしかない。 ------------- --------- ----- 川* ゚ -゚)「よし、よし……」 「スースー……」 小さな赤子の頭を人差し指で撫上げる 寝顔を見る度、心が安らぐ。 さっきまでの頭痛や吐き気が嘘の様だ。 この子は、私を支えてくれるとっても大切な存在だ。 絶対に、手放さない。 川* ゚ -゚)「君は何て名前だい?」 「スー……スー……」 川* ゚ -゚)「お父さんとお母さんは居ないのかい?」 「うー……」 起こさない様に問いかけていたつもりだったが、目が覚めてしまったようだ。 赤子は小さな、小さな、身体をプルプルと震えさせていた。 なんだか、様子がおかしい。 川; ゚ -゚)「寒いのかい?」 「むー……」 手中で、寒そうに身体を震わせる赤子を見て心配になった。 私は汚れたドレスなどを全て脱ぎ、裸体になる。 理由は、人肌で温めれば、この子が寒さに震えなくて済むと考えたからだ。 私は暫くの間、赤子を優しく包み込むように抱いた。 川* ゚ -゚)「どうだ?寒くないかい?」 「きゃっきゃっ♪」 どうやら寒さは感じてないらしい。 この子の笑顔を見れれば、私はどうなってもいい。 いつの間にか、そんなことを本気で考え始めていた。 これを母性本能と言うのだろうか? 私には解らないし。理解もできない。 でも、其れを実行しようとする自分が存在する。 嗚呼、不思議な気分だ。 ------------- --------- ----- 私はデジタルタイマーを凝視する。 時間は9:13と表示されていた。 これはどういう意味だ? 川; ゚ -゚)「まさか、爆弾じゃないだろうな……?」 今の状況を分析すると、この回答しかあり得ない。 むしろ、それ以外の答えは不自然だった。 川; ゚ -゚)「マズイ、これはマズイ……」 私の手中でスヤスヤと穏やかに眠る赤子を他所に、私は混乱する。 何か解決策がある筈だ。 いろんな角度からデジタルタイマーを観察し、回答を出そうと試みる。 そして、一瞬で其の回答が見つかった。 川; ゚ -゚)「なんだ?この紙は?」 デジタルタイマーの表示画面の裏側に、一枚のメモ書きが張ってあった。 其の紙を丁寧に剥し、凝視する。 ---------------------------------------- アロペーよ、貴方は自身の役割を果たしなさい。 貴方は、この赤子の為に命を捧げなさい。 其れが貴方の役割でもあるし、貴方の幸福だ。 このタイマーのカウントが0になるまで頑張りなさい。 此れは、貴方が望んだことだ。 私は嘘を言わない。 ---------------------------------------- 川; ゚ -゚)「なんじゃこりゃ……?」 文章から察すると、私はアロペーと呼ばれているらしい。 とりあえず、この文章の通りなら爆弾では無いのだろう。 しかし、意味不明だ。 私を監禁した奴等は何が望みなんだ? 理解に苦しむ。 ------------- --------- ----- タイマーは8:43を表示する。 特に新しい発見も見つからなく、進展しない。 ただ、時間だけが消費される。 とても退屈な時間だ。 川 ゚ -゚)「さて、あの子はまだ眠っているかな?」 手中で眠る赤子を観察する。 初めて対面した時と比べて、成長しているのは気のせいだろうか? 否、気のせいじゃない。確実に大きくなっている。 しかし、たった一時間ちょっとで此処まで成長するものなのか? 「むにゃ……むにゃ……」 得体の知れない恐怖が私を襲う。 しかし、この子の寝顔を見ると、こんな感想が頭を過る。 私はこの子を守らなければならないし、成長を見届けなければならない。 母性本能と使命感が混じったような感覚に包まれた。 川* ゚ -゚)「よしよし、もっと大きくなるんだぞ」 赤子の腹を中指で摩りながら問いかけた。 「……ゲップ」 赤子の回答に、クスリと微笑む。 ------------- --------- ----- それから暫く、平和な時間を過した。 この子の成長する姿を楽しみながら、私は頬を染める。 川* ゚ -゚)「よしよし」 「きゃっきゃ」 吐き気や頭痛は一切無い。 ピエロ人形を見ても何とも思わなくなっていた。 ただ、疑問も増えた。 あのピエロ人形をこの部屋に置いておく意味はなんだ? 何故、時間が立つにつれ、ピエロ人形の周辺の床が罅割れていくのか? そして、タイマーが7:30を過ぎた頃、事件が発生する。 ------------- --------- ----- 「ギィ……ギィ……」 私は、不気味な鳴き声で覚醒する。 覚醒と同時に、激しい頭痛と吐き気が私を犯す。 視点がグルグルと螺旋を描くように廻る。 その定まらない視界から、何とか情報を得ようと奮闘する。 そして、私は知る。 今まで首をダランとだらしがなくさせ、動く気配がなかった【ソレ】が命が宿ったかのように身体を奮わせる。 【ソレ】の顔は此方を凝視し、殺意が宿った血走りの瞳が私の瞳と重なる。 私の本能が訴える。 【ピエロ】に私の全てが奪われると。 川; ゚ -゚)「守らなきゃ……守らなきゃ……」 私は咄嗟に赤子を庇う様に、身体をまるめる。 絶対に守り抜いて見せる。その決意が行動に現れた。 【ピエロ】は其の姿を見て、ケタケタと狂気に歪んだ笑顔を振り翳しながら私に接近する。 自身の心臓がバクバクと唸る。 恐怖と頭痛と吐き気で、裸体の身体が震える。 コツン……コツン…… 【ピエロ】の足音が段々と大きくなる。 それに合わせて心臓の鼓動も大きくなる。 そして…… 足音が消えた。 川; ゚ -゚)「……」 怖い。 ただ、其の一言に尽きる。 【ピエロ】は擦れた声で、何かを歌っているようだ。 カ------- 鳥ハ ----------ト---------レ? カゴ--------ノ 夜明--------滑ッタ ---ロ-------レ? 声が聞き取れない。 必死に音を拾おうとするが、無駄だった。 どうやら、歌うのを止めたらしい。 ドゴッ!! 川; -)「ぐっ!!」 背中に激痛が走る。 どうやら、【ピエロ】が私を攻撃しているようだ。 理由は解っている。狙いは赤子だ。 確信は持てないが、本能がそれを告げる。 私はどんな目に遭ってもいい。 だが、この子を失うのは堪えられない。 それから暫く、【ピエロ】からの猛攻に堪え続けた。 ------------- --------- ----- タイマーは4:00を表示し、アラームが鳴る。 其れと同時に【ピエロ】の猛攻は止み、そいつは姿を消した。 残ったのは激痛と体中にできた痣、そして無傷の赤子だ。 川 ; -;)「良かった、良かったよぅ・・・・・」 安堵した私を凝視して、赤子は笑う。 赤子は初期の頃に比べ、かなり育っており、表情もハッキリと判るまで成長している。 ( ><)「スー……スー……」 あと少しで私の役目は終わる。 役目が終わったら、私はどうなってしまうのだろうか? いや、私はもう理解している。 結末は既に決まっている。 勿論、誰かに教えてもらった訳じゃない。 そう、私は自分の存在を思い出した。 川* -)「……」 徐々に床の罅が拡大する。 だけど、私は恐れない。 今は時間の限り、ビロードと一緒に居たい。 ------------- --------- ----- そして遂に、00:00とタイマーが表示される。 床の罅は全ての領域にまで広がっており、あと少し力を加えれば崩壊しそうなほどになっていた。 川ヽ -)「ビロードを……守りきったぞ」 天井から大量の水が流れ込んでくる。 衝撃で私とビロードが離され、赤子は落下し、暗い穴に落ちていった。 一方私は、軽くなった体が急上昇し、水が流れ込んでくる暗い穴に吸い込まれた。 穴の中は案の定、一色の闇。 これが死後の世界か。 身体が闇に蝕まれていく。 闇と私の意識が同化してゆく。 嗚呼、私は死ぬんだな。 でも、私は幸せだ。 だって私は、女として最高の幸せを掴んだのだから。 -----川 ゚ -゚)は真実を何も知らないようです 完 ---- [[戻る>http://www43.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/71.html]]  [[ネタバレへ]] #comment(nsize=40,vsize=10,size=40)
真っ白な部屋に堂々と存在するピエロ人形は、恐怖の対象だ。 其れが視界に映るだけで、酷い吐き気と頭痛が同時に私の身体を犯す。 さらに、ツンとした刺激臭が鼻腔を刺激する。 うっ、また嘔吐しそうだ。 川; ゚ -゚)「グェッ、ハアハア……」 部屋中に音を反響させるタイルが敷き詰められており、嘔吐した汚物の着地音が私の世界に響く。 窓も扉も存在しないこの世界に、何故私は存在する? 其れすらも解らない。 川; ゚ -゚)「胸糞悪い気分だ……」 序に言ってしまえば、この立派なピエロ人形を畏怖している理由も解らない。 解らない尽くしでどうしようもない。 何か、ヒントが欲しい。 このままじゃ精神的に辛い。 川; ゚ -゚)「何故、私は深紅のドレスを着ている?」 嘔吐物で少し汚れてしまった深紅のドレスは、慣れていないせいか、非常に動きにくい。 其ればかりか、奴隷が装着してそうな鎖付きの首輪と、蜜壷から延びている鎖が動作に制限を掛ける。 首輪の鎖は、天井の中心に存在する正方形の穴から出ており、穴の奥は漆黒の闇が広がっていることが確認できる。 蜜壷から伸びている鎖は、ピエロ人形の正面に存在する宝石箱の中に続いているようだ。 あの宝石箱には一体何が入っているのだろうか? 川; ゚ -゚)「私は確か、買い物してて、それから……」 ・・・・・・駄目だ、思い出そうとすると頭が割れそうになる。 過去のことも一切思い出せない。 自身の頭の中に存在する記憶は、自分の名前だけ。 それ以外は、この部屋と同じで、真っ白だ。 川; ゚ -゚)「とりあえず、何かしら行動してみようか」 私は、首輪から伸びている鎖を引っ張った。 すると、鎖はスラスラと伸びていくのと比例して、蜜壷から伸びる鎖は私の中に侵入していく。 身体が震える程の歓喜を覚える。 暫く余興に浸ってから、今度は蜜壷から伸びる鎖を引っ張る。 今度は、首輪の鎖が引っ張られた。 私は其の行為にも快感を覚える。 何これ、病み付きになりそう……。 ------------- --------- ----- 川; ゚ -゚)「とりあえず、この鎖の仕掛けは解ったが……」 私は、はしたない思考を捨て、真面目に脱出するルートを考えた。 つまり、この鎖の長さには限度が有る。 何処かに鎖を巻きつけ、限界まで天井の鎖を引っ張れば、上の穴から脱出できる。 しかし、この部屋には鎖を巻き付けられそうな物体は存在しない。 存在するのは、人と同じサイズのピエロ人形と小型の宝石箱、10:00と書かれた白く小さな箱型のデジタルタイマー。 川; ゚ -゚)「しかし、あの宝石箱には何が入っている?」 川; ゚ -゚)「とりあえず、鎖を手繰ってこっちに持ってこよう」 蜜壷から伸びる鎖を引っ張る。 すると、その宝石箱の中から赤子の泣き声が上がる 余りに予想外な現象に私は混乱した。 川; ゚ -゚)「え、何で泣き声?え?」 これはピエロ人形に畏怖してるとか関係ない。 今すぐ彼を救わなければ。 ん?彼? 何故、あの泣き声だけで男だと判る? 何故、救いたいと思った? 理由は解らない。 ただ、あの子は助けなければならないと本能が告げる。 私はピエロ人形に接近する。 彼と私の距離が短むにつれ、嘔吐と頭痛が酷くなる。 川; -)「ハアハア……ゲェェ!!」 びちゃびちゃと汚物をぶちまける。 純白のタイルが、下品な色に染まってゆく。 美しい色彩だった深紅のドレスも、汚物塗れになった。 でも、そんなの関係ない。 私はそれでも、行かなければならない。 川; -)「うっ……」 余りの頭痛に失神しそうになるも、私は踏ん張った。 あの子に会わなきゃ・・・・・。 其の使命感だけが、私の足を前に進ませる。 ------------- --------- ----- 川; -)「ハア、ハア……」 「おぎゃ、おぎゃー……」 川; -)「ふふ、可愛いな」 掌サイズの小さな、小さな、命を眺めて口元が緩む。 赤子は臍から鎖が出ており、私と繋がっている。 これは一体何の意味があるのか? 私を此処に閉じ込めた輩は何を望んでいる? まぁ、しかし。嘔吐と頭痛に耐えながら接近した価値はある。 この愛しい気持ちは一体なんだ? 未だかつて無いほどの、この幸福感は一体なんだ? 其れと同時に、強烈な睡魔が私を襲う。 意識を失う前に視界に映ったデジタルタイマーには、9:59と表示されていた。 川; -)「……」 ------------- --------- ----- 私は覚醒する。 相変わらず真っ白な部屋にピエロ人形が堂々と存在し、私を威圧する。 そして、ある異変を感知した。 川; ゚ -゚)「あ、あれ?」 あの子がいない。 可愛いあの子がいない。 愛おしいあの子がいない。 一体、何所に行ってしまったんだ? 川 ; -;)「うぅ、何所に行ってしまったんだ……」 涙をぼろぼろ流しながら、辺りを見回す。 不安とあの子を失う恐怖が私を襲う。 そんな自身でも意味不明な感情が、私の全てを支配する。 嗚呼、なんて苦しくも、悲しい気持ちなのだろう。 川 ; -;)「あっ!!」 あの子が居る。 あの忌々しいピエロ人形の前でスヤスヤと眠っている。 何故、私の方で寝ない? 私がそんなに不満か? 川 ; -;)「うぅ、うっ!!」 嘔吐しそうになり、口元を手で押さえた。 情緒不安定な私を尻目に、スヤスヤと畏怖する存在の前で眠る赤子。 暫くして吐き気が収まったので、汚物塗れのドレスで涙を拭く。 勿論、汚物を避けながら涙を拭き取った。 しかし、拭いても、拭いても、涙が溢れてくる。 どうして、見ず知らずの子なのにこんなに悲しいのだろうか? 川 ; -;)「うう……あの子をこっち側に戻さなきゃ・・・・」 鎖を引っ張ろうかと考えたが、それでは赤子が可哀想なので却下した。 やはり此処は、私が行くしかない。 ------------- --------- ----- 川* ゚ -゚)「よし、よし……」 「スースー……」 小さな赤子の頭を人差し指で撫上げる 寝顔を見る度、心が安らぐ。 さっきまでの頭痛や吐き気が嘘の様だ。 この子は、私を支えてくれるとっても大切な存在だ。 絶対に、手放さない。 川* ゚ -゚)「君は何て名前だい?」 「スー……スー……」 川* ゚ -゚)「お父さんとお母さんは居ないのかい?」 「うー……」 起こさない様に問いかけていたつもりだったが、目が覚めてしまったようだ。 赤子は小さな、小さな、身体をプルプルと震えさせていた。 なんだか、様子がおかしい。 川; ゚ -゚)「寒いのかい?」 「むー……」 手中で、寒そうに身体を震わせる赤子を見て心配になった。 私は汚れたドレスなどを全て脱ぎ、裸体になる。 理由は、人肌で温めれば、この子が寒さに震えなくて済むと考えたからだ。 私は暫くの間、赤子を優しく包み込むように抱いた。 川* ゚ -゚)「どうだ?寒くないかい?」 「きゃっきゃっ♪」 どうやら寒さは感じてないらしい。 この子の笑顔を見れれば、私はどうなってもいい。 いつの間にか、そんなことを本気で考え始めていた。 これを母性本能と言うのだろうか? 私には解らないし。理解もできない。 でも、其れを実行しようとする自分が存在する。 嗚呼、不思議な気分だ。 ------------- --------- ----- 私はデジタルタイマーを凝視する。 時間は9:13と表示されていた。 これはどういう意味だ? 川; ゚ -゚)「まさか、爆弾じゃないだろうな……?」 今の状況を分析すると、この回答しかあり得ない。 むしろ、それ以外の答えは不自然だった。 川; ゚ -゚)「マズイ、これはマズイ……」 私の手中でスヤスヤと穏やかに眠る赤子を他所に、私は混乱する。 何か解決策がある筈だ。 いろんな角度からデジタルタイマーを観察し、回答を出そうと試みる。 そして、一瞬で其の回答が見つかった。 川; ゚ -゚)「なんだ?この紙は?」 デジタルタイマーの表示画面の裏側に、一枚のメモ書きが張ってあった。 其の紙を丁寧に剥し、凝視する。 ---------------------------------------- アロペーよ、貴方は自身の役割を果たしなさい。 貴方は、この赤子の為に命を捧げなさい。 其れが貴方の役割でもあるし、貴方の幸福だ。 このタイマーのカウントが0になるまで頑張りなさい。 此れは、貴方が望んだことだ。 私は嘘を言わない。 ---------------------------------------- 川; ゚ -゚)「なんじゃこりゃ……?」 文章から察すると、私はアロペーと呼ばれているらしい。 とりあえず、この文章の通りなら爆弾では無いのだろう。 しかし、意味不明だ。 私を監禁した奴等は何が望みなんだ? 理解に苦しむ。 ------------- --------- ----- タイマーは8:43を表示する。 特に新しい発見も見つからなく、進展しない。 ただ、時間だけが消費される。 とても退屈な時間だ。 川 ゚ -゚)「さて、あの子はまだ眠っているかな?」 手中で眠る赤子を観察する。 初めて対面した時と比べて、成長しているのは気のせいだろうか? 否、気のせいじゃない。確実に大きくなっている。 しかし、たった一時間ちょっとで此処まで成長するものなのか? 「むにゃ……むにゃ……」 得体の知れない恐怖が私を襲う。 しかし、この子の寝顔を見ると、こんな感想が頭を過る。 私はこの子を守らなければならないし、成長を見届けなければならない。 母性本能と使命感が混じったような感覚に包まれた。 川* ゚ -゚)「よしよし、もっと大きくなるんだぞ」 赤子の腹を中指で摩りながら問いかけた。 「……ゲップ」 赤子の回答に、クスリと微笑む。 ------------- --------- ----- それから暫く、平和な時間を過した。 この子の成長する姿を楽しみながら、私は頬を染める。 川* ゚ -゚)「よしよし」 「きゃっきゃ」 吐き気や頭痛は一切無い。 ピエロ人形を見ても何とも思わなくなっていた。 ただ、疑問も増えた。 あのピエロ人形をこの部屋に置いておく意味はなんだ? 何故、時間が立つにつれ、ピエロ人形の周辺の床が罅割れていくのか? そして、タイマーが7:30を過ぎた頃、事件が発生する。 ------------- --------- ----- 「ギィ……ギィ……」 私は、不気味な鳴き声で覚醒する。 覚醒と同時に、激しい頭痛と吐き気が私を犯す。 視点がグルグルと螺旋を描くように廻る。 その定まらない視界から、何とか情報を得ようと奮闘する。 そして、私は知る。 今まで首をダランとだらしがなくさせ、動く気配がなかった【ソレ】が命が宿ったかのように身体を奮わせる。 【ソレ】の顔は此方を凝視し、殺意が宿った血走りの瞳が私の瞳と重なる。 私の本能が訴える。 【ピエロ】に私の全てが奪われると。 川; ゚ -゚)「守らなきゃ……守らなきゃ……」 私は咄嗟に赤子を庇う様に、身体をまるめる。 絶対に守り抜いて見せる。その決意が行動に現れた。 【ピエロ】は其の姿を見て、ケタケタと狂気に歪んだ笑顔を振り翳しながら私に接近する。 自身の心臓がバクバクと唸る。 恐怖と頭痛と吐き気で、裸体の身体が震える。 コツン……コツン…… 【ピエロ】の足音が段々と大きくなる。 それに合わせて心臓の鼓動も大きくなる。 そして…… 足音が消えた。 川; ゚ -゚)「……」 怖い。 ただ、其の一言に尽きる。 【ピエロ】は擦れた声で、何かを歌っているようだ。 カ------- 鳥ハ ----------ト---------レ? カゴ--------ノ 夜明--------滑ッタ ---ロ-------レ? 声が聞き取れない。 必死に音を拾おうとするが、無駄だった。 どうやら、歌うのを止めたらしい。 ドゴッ!! 川; -)「ぐっ!!」 背中に激痛が走る。 どうやら、【ピエロ】が私を攻撃しているようだ。 理由は解っている。狙いは赤子だ。 確信は持てないが、本能がそれを告げる。 私はどんな目に遭ってもいい。 だが、この子を失うのは堪えられない。 それから暫く、【ピエロ】からの猛攻に堪え続けた。 ------------- --------- ----- タイマーは4:00を表示し、アラームが鳴る。 其れと同時に【ピエロ】の猛攻は止み、そいつは姿を消した。 残ったのは激痛と体中にできた痣、そして無傷の赤子だ。 川 ; -;)「良かった、良かったよぅ・・・・・」 安堵した私を凝視して、赤子は笑う。 赤子は初期の頃に比べ、かなり育っており、表情もハッキリと判るまで成長している。 ( ><)「スー……スー……」 あと少しで私の役目は終わる。 役目が終わったら、私はどうなってしまうのだろうか? いや、私はもう理解している。 結末は既に決まっている。 勿論、誰かに教えてもらった訳じゃない。 そう、私は自分の存在を思い出した。 川* -)「……」 徐々に床の罅が拡大する。 だけど、私は恐れない。 今は時間の限り、ビロードと一緒に居たい。 ------------- --------- ----- そして遂に、00:00とタイマーが表示される。 床の罅は全ての領域にまで広がっており、あと少し力を加えれば崩壊しそうなほどになっていた。 川ヽ -)「ビロードを……守りきったぞ」 天井から大量の水が流れ込んでくる。 衝撃で私とビロードが離され、赤子は落下し、暗い穴に落ちていった。 一方私は、軽くなった体が急上昇し、水が流れ込んでくる暗い穴に吸い込まれた。 穴の中は案の定、一色の闇。 これが死後の世界か。 身体が闇に蝕まれていく。 闇と私の意識が同化してゆく。 嗚呼、私は死ぬんだな。 でも、私は幸せだ。 だって私は、女として最高の幸せを掴んだのだから。 -----川 ゚ -゚)は真実を何も知らないようです 完 ---- [[戻る>http://www43.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/71.html]]  [[ネタバレへ>http://www43.atwiki.jp/boonshousetsu/pages/73.html]] #comment(nsize=40,vsize=10,size=40)

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