嫌な予感しかしなかった。
('A`)「……念のため、念のため」
隣の本へと目を滑らせる。
『愛の観察日記 その2』
『愛の観察日記 その3』
『愛の観察日記 その4』
『愛の観察日記 その5』
『愛の観察日記 その6』
本棚全てがこの系統で埋め尽くされているようだ。
愛が重い。まるで何かの呪いのようだ。
('A`)
呪いに引き寄せられるかのように、ドクオは一冊を手に取った。
適当な部分に目を通してみる。
『弟者さん、いつも格好良いです。
あの阿婆擦れ嘘つき女にはもったいないです。
今日もあの女の部屋で2時間23分会話していましたね。ちゃんと録音しておきました。
私のことも話してくれて嬉しかったです。永久保存版にします。』
見開きいっぱいに書かれたその日のできごと。
何時何分にトイレへ行ったのかまで詳しく書かれていた。
('A`)「ヤンデレが許されるのは二次元だけだよな」
本を元の場所に戻す。
保存状態も良くないので、そのうちこの文字は全て消えるだろう。
('A`)「次は左側か」
部屋から出るとき、小さなテーブルの上に置かれていた小さなビンが目に入った。
倒れているそのビンに近づいてみる。ラベルの文字はもう読めない。
('A`)「何か、死骸がいっぱいだな……」
不気味なほどに死骸が多い。
大きな骨はネズミか何かだろう。
('A`)「深くは考えないほうがいいな」
ドクオは気分を変え、部屋を出ることにした。
もうこれ以上の厄介はごめんだ。
左側。一番奥の扉を開ける。ここも始めの部屋のような匂いはしない。
だが、窓が閉まっていたためか、若干のかび臭さが鼻をつく。
('A`)「殺風景だな」
そう呟いた直後に見たのは、机の上にある劣化した写真だ。
从 ゚∀从(´<_` )
二人が映っている。
幸せそうだ。
('A`)「あの男の方の部屋かな?」
言ってみたが、ドクオの目には一階の男と女といた男の区別がつかない。
しかたがないので、机の中をあさってみる。
写真や手紙が出てくる中、日記のようなものは見つからなかった。
('A`)「ハズレ、か」
最後まで正解をひくことのなかった運のなさに、思わず笑みがこぼれた。
幸いなのは、恐ろしい目にあったのが始めの部屋だけだった。ということだろうか。
ドクオは部屋をでる。
本当の幸いは、気づかなかったことだろう。
ハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハイン
ハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハイン
ハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハインハイン
壁を埋め尽くすように書かれたその文字に。
('A`)「ここか」
最後の部屋もごく普通の部屋だ。
殺風景でもなく、恐ろしいものがあるわけでもない。
整理整頓のされた綺麗な部屋だ。
真っ直ぐに机へ向かう。上にはない。引き出しを開ける。
('A`)「お、これだ」
一冊の日記を手に取った。
念のためにと思い、携帯電話で照らしながら日記を見てみる。
『せっかく、オレが計画をたてて実行したのに、クーは相変わらず弟者しか見ていない。
あの馬鹿はハインに依存してるから、どれだけ愛を語ったって無駄なのに。
オレはあいつと同じ顔だ。オレでもいいんじゃないのか。
オレならお前を大切にするのになぁ。弟者がいなけりゃいいのかなぁ』
綺麗で几帳面な字が愛を語っていた。
('A`)「あの人のかな? ま、男のものであるのは確かだろ」
観察日記の失敗をいかし、日記を閉じる。
後はこれを手渡すだけだ。
それでゲームクリアだ。
意気揚々と階段を降りる。
横目にあの男が見えた。
('A`)「どうぞ」
( ´_ゝ`) アア、ソウダ コレダ
男が手を伸ばす。
幽霊が日記を持てるのかと、不安になったが無駄な心配だったようだ。
( ´_ゝ`) アア、ソウダッタンダ
日記が落ちる。
男は泣いていた。
( _ゝ ) オレハ コロサレタンダ
ビシッ バキッ
(;'A`)「ひっ」
( ;*_ゝ#) オンヲ ワスレヤガッテ
(;'A`)(ヤバイ、ヤバイヤバイ!)
ドクオは玄関扉にすがりついた。
何度もノブを回し、押し、引く。
(;'A`)(開いてくれ! 頼む! 神様、仏様!)
( ;*_ゝ#) ダレニモ ジャマサレナイヨウニ ショウガイハ スベテコワシテヤッタノニ
(;'A`)(くる、くる。きてるううううう)
激しいラップ音に混じって、ドクオが扉を前後に動かす。
( ;*_ゝ#) ヒドイハナシダ
(;'A`)(うおおおおおおおおお)
男の手がドクオに触れる直前、扉が開いた。
('A`)「開いた!」
転がるように外へ逃げ、真っ直ぐ走る。
後ろを振り向くなんて恐ろしいことができるはずない。
('A`) ハアハア
木の枝が引っかかることも気にせず、村に向かって走った。
('A`)
ようやく村につき、森を見る。
暗い森はいつものようにそこにある。
('A`)「……夢、なわけないか」
じっとりとした冷汗が先ほどまでの現実を突きつけている。
携帯を開き、時刻を確認する。
【2:50】
たった二十分程度の出来事だったようだ。
('A`)「……寝よう」
朝がくれば忘れてしまえる。
明日、この村を出れば簡単に忘れてしまえる。
ドクオは自分に言い聞かせ、自宅へと帰った。
ヒック……
( ><)「ドクオさん起きるんです!」
(*‘ω‘ *)「寝坊助っぽ!」
(-A`)「んー?」
目を開けると、そこには元気な子供達がいた。
( ><)「遊ぶんです! 早く起きるんです!」
(*‘ω‘ *)「早く顔を洗うっぽ」
J( 'ー`)し「朝ご飯を食べるまで待ってあげてねー」
(*‘ω‘ *)「しかたないっぽ……」
('A`)「あーおはよう」
( ><)「おはようなんです」
太陽の光が眩しい。
ぼんやりとした頭を覚ますために、洗面所へ向かい顔を洗う。
(´A)|(A` )
川 ; -)ネエ|(A` )そ
('A`;)「え?」
再び鏡を覗きこんだが、そこにはいつも通りの冴えない自分の顔がある。
( ><)「まだなんです?」
(;'A`)「お、おう今行く」
ドクオは子供達に急かされながら朝食を食べる。
母の味は簡単な朝食にも、じんわりと染み出ていた。
J( 'ー`)し「はい、行ってらっしゃい」
('A`)「はーい」
( ><)「はいなんです」
(*‘ω‘ *)「行ってくるっぽ」
从#゚J( 'ー`)し「帰りの電車には間に合うようにね」
(;'A`)「母さんっ?!」
J( 'ー`)し「どうしたの?」
++
ドクオは頭を抑えた。
朝からおかしなものを見ている。調子が悪いのかもしれない。
( ><)「どうしたんです?」
(;'A`)「……い、いや何でもないよ」
ドコニイルカ シラナイカ?
(;'A`)
ミツカラナインダ
('A`;)
(*‘ω‘ *)?
声が聞こえた。
けれど姿は見えない。
(;'A`)(何なんだ。何だってんだ)
森を目に映す。
(;'A`)(何でここにいるんだ)
( ><)「ドクオさん、今日は変なんです」
(*‘ω‘ *)「そうっぽ」
(;'A`)「大丈夫だよ。うん。大丈夫」
携帯を取り出し、電話番号を押す。
( ><)「どこにかけるんですか?」
(;'A`)「ちょっとね」
押したのは110だ。
あの屋敷にある白骨死体について通報するのだ。
(;'A`)(オレの良心があいつらのことを放置するのかって、責めてるんだ。そうに違いない)
供養するなり、身内に届けるなりしてしまえば見えも聞こえもしなくなるだろう。
(*‘ω‘ *)「あ、こんにちわっぽ」
('A`)(え?)
ちんぽっぽが頭を下げた方を見る。
( ´_ゝ`)
( ><)「はじめましてなんです!」
どこの人かとビロードが聞く。
だが男は答えず、ただニヤニヤとした表情をドクオへ向けた。
(;'A`)「う、うわあああああ」
携帯を放り投げ、ドクオは走りだした。
(;'A`)(ビロード達にも見えてた? あれは、あれは何なんだ?!)
どこへ向かうのかは考えていなかった。
あの男から逃げられるのならば、どこへでもよかった。
( ´_ゝ`) ドコニイクンダ
(;'A`)(どこか遠くへ!)
( ´_ゝ`) ソウカ
(;'A`)(早く!)
( ´_ゝ`) ナラ
(;'A`)(ここから逃げ――)
( ´_ゝ`) サヨナラ ダナ
('A`)「」
痛みがあった。
生暖かい何かを感じて、ドクオはそのまま意識を失った。
( A )
( ´_ゝ`) アソコハ オレラノ オレラダケノ バショダ
男は笑う。
( ´_ゝ`) シニキヅイタノハ オレダケダカラ
( ´_ゝ`) ミンナト カエルヨ
( ><)「ドクオさん……?」
(*‘ω‘ *)「血? どういうことっぽ?」
二人に見つけられたドクオの死体には、無数の傷があった。
何か鋭い刃物で刺されたのだろうと説明されたが、肝心の凶器は見つからなかった。
死の直前に、子供達が見たという男を捜索した。
だが、その男は数年前に父親を殺した後、行方不明になっていた。
ドクオが警察に連絡を取ろうとしていたところから、
何らかの形で男のことを知ってしまったのだろうと推測された。
(。><)「きっと、ゆーれーに殺されちゃったんです……」
(*‘ω‘ *)「……仇を取るっぽ」
(。><)「え?」
(*‘ω‘ *)「ドクオさんの仇打ちに行くっぽ!」
( ><)「そ、そんなことしたら、ボク達も死んじゃうんです!」
(*‘ω‘ *)「ならビロードは待ってるといいっぽ!」
歩きだしたちんぽっぽの背中をビロードが追う。
( ><)「わ、わかんないんです。でも、ボクも行くんです」
(*‘ω‘ *)「今夜、お塩とにんにくを持って行くっぽ」
( ;><)「にんにくは吸血鬼なんです……」
(#‘ω‘ *)「と に か く 行くっぽ」
( ;><)「わかったんです」
その夜、二人はあの森へ足を踏み入れた。
悲しみを訴える女の泣き声と、
探し彷徨う男と、
怒り狂う女と、
この屋敷を守る男に会うために。
('A`)は(異常者の屋敷を)侵してしまったようです 完
最終更新:2011年02月24日 23:27