( ^ω^)プライベート・キングダムのようです その2


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                    □□□

前半の半分が過ぎた頃、甲高い笛の音が鳴り響いた。
ジョルジュとモララーの連携により一点を先取したのだ。
二人は雄たけびを上げて走り回り、抱き合った。僕は思わず溜め息をつく。白い息が流れ出る。

いつの間にか、隣に座って声を張り上げていた一つ年下の後輩がいなくなっている。
後ろを振り向くと、その場で腿を上げて身体を温めていた。またもや溜め息をつく。

すると審判を務めている顧問がその後輩の名前を呼び、交代するように命じた。
大量の汗をかいて満足気にベンチへと帰ってくる選手とハイタッチを交わして、嬉しそうに後輩は試合に参加した。

( ^ω^)(僕も試合に出せよ。ジョルジュとモララーばかりチヤホヤしやがって)

相手チームのベンチにも監督が何かを言っている。
ドクオの名前が呼ばれた。ドクオは身を震わせて、さきほどのこちら側の出来事と同じことをしてピッチ内へと入った。
身体を動かしていたのか、声を張り上げていたのか。身体から湯気が立ち上っている。

( ^ω^)(ああ、僕も試合に出たい。活躍してみせるのに。ああ。ああ)

ベンチに座り込んだまま、じっと願う。僕を出してくれ。
露出した肌を手で摩る。少しだけ暖かくなるが、すぐに冷えてしまう。

                    □□□

前半が終了して、僕の周りには水分を補給する選手で溢れている。
各々が自分のプレーについてや味方の動きについて話し合っている。

僕はただそんな中、一人で座ったまま動かなかった。
何も話さず、ただじっとしていた。誰も僕には話しかけてこなかった。

                    □□□

僕が出場できたのは、結局後半も残り十五分といったところでだった。
不意に名前を呼ばれたので一瞬反応できなかったが、すぐにピッチ上へと足を踏み入れた。

僕のポジションは右サイドバックであった。
ゴールを護るばかりでなく攻撃にも参加するポジションだ。

中盤でボールが奪われた。味方がミスをしたのだ。使えないやつめ。
正面から相手のフォワードがドリブルをしてくる。数少ない一つ下の相手だ。僕との一対一だ!
突破されると、あとはキーパーとの一対一になってしまう。そうなると非常に危険だ。

相手フォワードは足元にボールをコントロールしながら身体を揺すっている。
しっかりと相手を見る。右、左、と相手が大きく身体を動かした。

( ^ω^)(左!)

相手がボールを蹴る、そう思った瞬間にぶつかって行った。
足を突き出して、ボールだけを狙う。すると相手はボールを左に蹴りださず、内側から外側に跨いだだけであった。
素早い動きでそのまま右方向へと相手は抜けていく。しまったと思うがもう遅い。

振り向いて追いかけるが一向に追いつけない。無理だ間に合わない。僕は足を止めた。
キーパーが両手を広げて前へと飛び出した。ボールが蹴られる。
キーパーの頭上をボールが越えていって、ゴールネットへと突き刺さった。笛が鳴る。

味方の落胆と、相手の歓喜が渦巻いたフィールド上に僕はただ立ち尽くしていた。

                    □□□

('A`)「今日も疲れたな」

帰り道、ドクオが僕にそうやって話しかけた。
返事をしなかったけれど、ドクオは言葉を続ける。

('A`)「やっぱりモララーとジョルジュは上手だ。あと、ジョルジュが周りを上手く使えるようになってきた。
    いつも一人で切れ込んでいくやつだったからね、それじゃあパターンが読まれてしまうんだ。
    今じゃ選択肢も広がったし、今度の試合はいいところに行くんじゃないかな」

僕は何も言わない。ただ黙って歩き続けた。紅白戦のスコアが頭に浮かぶ。四対三。
僕らのチームがが三だ。その内ジョルジュが二得点、モララーのアシストで決めた一年生が一得点。
相手は、四。僕と対峙した一年生のフォワードが三得点を上げていた。残りの一点に僕は関係ない。

('A`)「にしても、あの一年いい動きするなあ。今度の試合も確かレギュラーだったっけ?
   ジョルジュにあの一年か……次こそは、フォワードのポジションとれるかなあ」

( ^ω^)「……」

('A`)「お互いもっと練習しような」

ドクオのその一言が勘に触った。お互い、だと? 僕はちゃんとやっている!

( ^ω^)「あ? 練習? してるお。ふざけてんのかお」

('A`)「え? ああ、そうだね。もっと、もっと練習しなきゃね」

(#^ω^)「ふざけてんじゃねえお! 練習してるお! 今日だって参加してたじゃないかお!」

(;'A`)「おいおい、落ち着いて」

(#^ω^)「僕だって試合に出たいお! どうして出してくれないんだお!! 監督は腐ってるお!!」

僕だって中学校から今の高校まで、ずっとサッカーを習ってきたのだ。
五年間。五年間もやっているのだ。どうして努力が報われないんだ。どうして僕を褒めてくれないんだ。

ドクオが長く息を吐いた。
激昂する僕に呆れ返っている。そうやって解釈した途端、僕は拳を振り上げていた。
鈍い音がする。人なんて殴ったことはなかった。ドクオが倒れこんだ。拳が熱を持ってじんじんと震える。

('A`)「なにするんだ!」

僕は自分の行動が信じられなくて、ぶるぶると震えていた。
ふざけるな。僕を見下すな。僕は悪くない。努力してるんだ。そうだ。テスト勉強だってそうだ。
いつも僕は平均を遥かに下回るんだ。どうしてだ。まあいいか。一生使わない知識だ。よくないぞ。僕は出来損ないじゃないんだ。

(#^ω^)「馬鹿にすんなお! 僕だってちゃんとやってるお!!
       だからモララーとかジョルジュとかハインリッヒとかなんかよりも僕を評価しろ!!」

(#^ω^)「サッカーが上手だとか、得点を決めて活躍するだとか、そんな奴らがチヤホヤされるのはずるいお!」

('A`)「じゃあブーンも練習して、活躍すればいいじゃないか」

(#^ω^)「練習してるお!! 真面目にやってるんだお!! 学校が終わったらきちんとやってるお!!」

('A`)「じゃあもっともっと練習すればいいじゃないか。時間はあるだろ?
    自宅に帰って自主練習はしてる? 部活が休みの日もボールを蹴ってる? 朝から晩までボールを触ってる?
    本当にうまくなりたいなら、アルバイトだから、って部活に来ない日をなくせばいいじゃないか」

(#^ω^)「アルバイトはドクオだってしてるじゃないかお!!」

('A`)「だから俺が下手糞だっていうのか? そんなはずないよ。ただ俺に努力が足りないだけなんだ。
    別にプロになりたいわけじゃない。ただ、別段強くもない高校のサッカーチームでレギュラーになりたいだけなんだ。
    ゲームなんてせずに、読書なんてせずに、昼寝なんかせずに、その時間をサッカーに充てればいいじゃないか」

('A`)「確かに、才能の面もあると思うよ。運動神経の問題もあるはずだ。だけれど、そんなのを理由に逃げちゃだめだ。
    僕は恵まれていないけれど、きちんと毎日、どんなことがあっても自主練習してるんだ。
    それでも、下から数えたほうが早いだろうけどね。泣き言と文句言ってるくらいなら、練習すればいい」

(#^ω^)「どうして試合に出れる連中ばかりチヤホヤするんだお! みんなして持ち上げて!
       僕だってベンチにいるんだお!! 僕を褒めろよ! 偽善者ばかりだお!! 僕も上手くさせろよ!」

('A`)「ブーン、それはお前に応援する要素がないからだよ」

(#゚ω゚)「ぶっ殺すお!? 何を言ってるんだお!! 僕は一生懸命だお!!」

('A`)「お前、応援しないだろ? しかも、味方がミスしたら小声で悪口言うじゃないか。下手糞、とかさ。
    自分もできやしないくせに、文句ばっかり並べ立てて、そのくせ口から出る言葉は『努力した』だって?」

(#゚ω゚)「僕だって人気が集まったらできるんだお!! 僕のためにみんなが動けば僕だってサッカーが上手になるお!!」

('A`)「応援してる選手が活躍すると嬉しい。活躍してる選手は格好いい。だから、人が集まるんだ」

(#゚ω゚)「やはり才能だ。才能がないとなにもできないんだ。
      ふざけるなふざけるな。あいつらは笑顔で僕の気持ちを踏みにじるんだ」

('A`)「ただの一度さえも悲しいことに出会わない人なんていないんだよ、ブーン。
    それは、運動したって、机に向かっていたって同じなんだ。
    みんな、今までいくつかの悲しいことを解決しながら乗り越えてきたんだ」

(#゚ω゚)「僕だって、初めはこうじゃなかったんだ!
      けど、練習では思うように身体が動いてくれない。僕は一生懸命なのに周りが笑っている。
      初めは優しかったアイツらも、今じゃ僕の動きに何も言わない!! チヤホヤしてくれ!!」

('A`)「それは、ブーンの態度が悪かっただろう。
    主観を入れすぎなんだ。もっと状況を客観視してくれよ。しかも、お前はいつも上から目線で、
    言われたことにも素直に従わないじゃないか。こうしたほうがいい、と言われても改善する気もなく同じ失敗をする」

(#゚ω゚)「練習!! 練習するのにも才能がいるんだ!!」

('A`)「もう、いいよ」

そうやってドクオは先に行ってしまった。
立ち尽くしている僕は火照った身体が冬の気温に馴染んでいくのを感じている。

                    □□□

翌日、僕はドクオに謝らなかった。だって謝る必要がないからだ。僕は悪くない。
僕の殴った箇所が腫れていて、練習前、部員のみんなに気にかけられていたが、ドクオは言葉を濁すばかりだった。
それに遠慮して、誰もそれ以上追及することはない。相手が触れられたくないことを察して、もう指摘しないのだ。

(#^ω^)(そうやって、気ばかり使って。そこに問題があったらどうするんだお?
       ドクオは僕を怒らせたことを後悔しているんだお。そこを聞き出して、
       慰めてやれば、ドクオは僕に謝りにくるはずだお。どうして聞かないんだ。偽善者。偽善者め)

そして練習が始まる。
今日は金曜日で、明日の土曜日に試合があるため、激しい練習は行わずにミーティングに時間を割くようだった。

楽で仕方がない。少し汗をかくくらいだ。
それなのに、どうして他の部員のみんなは真剣な顔をして、お互い話し合っているのだろう。
練習中の私語をいつも注意する顧問も混じり、ホワイトボードの前で何やら意見を交換している。

ホワイトボードに貼り付けられたマグネットを動かして、水性ペンで矢印を書き込む。
どうやら、明日の試合についてのようだった。会談のメンバーはやはり、例の三人だった。
  _
( ゚∀゚)「だから、ここはこうで……」

('A`)「それなら、こっちはこうすれば……ほら」

( ・∀・)「なるほど。うん、面白いね、これは」

爪'ー`)y‐「そうだな。良いと思うぞ。ドクオ、お前のほうが監督に向いてるんじゃないか?」

('A`)「それじゃあ、顧問は俺がやりますから、監督にその分裂かれている給料を下さいね」

爪;'ー`)y‐「そりゃないぜ。俺の貴重な煙草代なんだからよー。勘弁してくれ」

冗談めいた失言を挽回しようと、声を上げて奮い立った。
考え込んで数秒後、よし、との声と同時に水性ペンを握る。矢印が引かれる。
そして顧問が何か言葉を添えると、感心の声が湧き上がった。威張る顧問。

(#^ω^)(くだらない。刻一刻と変化する状況に、確定した状況下の出来事がそうそう実行できるはずがないお)

心の中で吐き捨てて、舌打ちをする。
すると、大声が聞こえた。絶叫だ。僕は苛立ちをさらに大きくさせながら、声の方へと向く。

僕の発散された悪意のエネルギーを受け止めたのか、昨日の紅白戦で三得点を挙げた一年生フォワードが倒れこんでいた。
どうかしたのかと駆け寄ってみると両手で足を抱えて、痛みに打ち震えていた。
汗を垂れ流し、目を固く閉じて、歯を食いしばり、痛みに耐える低いうめき声を上げている。

声に反応した顧問も駆け寄ってきて、状況を判断するとすぐさま保健室へと運んだ。
付き添いでジョルジュとモララーがついていった。ドクオは不安げな視線を送っている。

( ^ω^)(本当はライバルが減って嬉しいんじゃないのかお? ふふ、よかったなドクオ)

やがて救急車がグラウンドへと入ってきた。異変に気がついた他の人々もざわつき始める。
補習中の教室から覗く生徒。職員室から降りてきた教師。体育館から顔を出すバスケットボール部員。
まるで見世物だな。担架に乗せられて、救急車へと運ばれる一年生のフォワードを見てそう思う。

ざまあみろ!! 僕から三点を奪った罰が当たったんだよ!!

顧問が帰ってきた。サッカー部員は口々にがなりたてた。
あいつはどうなったんだ。明日の試合は大丈夫なのか。怪我の程度はどれくらいなのか。
そうやって心配してざわつく部員たちへと、今日はもう解散だと告げて、顧問はどこかへと言った。

それだけしか言われなかったので、不完全燃焼のもやもやが部員たちを支配する。
どうでもいいじゃないか。そんなことはどうでも。そんなことより、今日の練習は終わりなんだろ?

僕はじっと立ちながら、心の中でそう思う。
五十二回繰り返したところで、やっとみんなは部室へと帰っていった。

                    □□□

朝早くから家を出て学校へと向かう。
みんなで揃って試合会場へと赴くためだった。

( ^ω^)(寒い。どうしてこんなにはやくから出なくちゃならないんだお)

僕が高校の門へとつくと、既にもう全員揃っていた。
顧問の点呼確認が終わったと同時に僕が来たのだ。

爪'ー`)y‐「よし、全員揃ったな」

僕は周りを見るが、その中に昨日救急車で運ばれていった一年生の姿はない。
それを指摘しようとした部員がいたので、顧問が制し、そのことについての説明を始めた。

爪'ー`)y‐「あいつは捻挫だ。きっちりストレッチしなかったんだろうな。大丈夫だ。一週間ほどで治る。
      が、今日の試合は出られない。と、いうわけで、代わりに――」

火のついた煙草の先を僕たちに突きつけた、いや、突きつけられた人物がいる。

爪'ー`)y‐「お前が出ろ。ドクオ」

(;'A`)「俺ですか!?」

(#^ω^)(ハァ!?)

寒い朝に染み込んでいく煙草の煙が、ドクオへと収束する気がした。
僕らの意識の流れを反映しているかのようだった。冷えた街にドクオの驚きが反響する。

(;'A`)「え、でも、俺は……」

爪'ー`)y‐「お前だ。顧問命令。それにこれは、俺だけの判断じゃあなく、ジョルジュやモララーの推薦でもあるんだぜ」

(#^ω^)(なんだと!? ふざけるな。あの二人と顧問にドクオは媚びを売ったんだ。汚いなさすがドクオきたない。
       母子家庭の貧乏さで得た知恵か。強いものに取り入ってチヤホヤされようって魂胆かお)

(;'A`)「ええ!?」

( ・∀・)「まあまあ、まだ試合会場までは距離があるんだ」
  _
( ゚∀゚)「それまでに、俺たちが覚悟を決めさせてやるからな」

ドクオの左側からモララーが肩を組み、ジョルジュが反対側から肩を組んだ。
背の大きな二人に挟まれた小柄なドクオはまるで恐喝されているようも見える。
逡巡しているドクオは何を思っているのだろう。心配そうに見せているあの態度の裏では、ほくそ笑んでいるのではないか。

爪'ー`)y‐「それじゃあ、出発。とりあえず駅まで歩くぞー。家の方向へと戻るやつもいるが、電車賃は諦めてくれー」

飄々とした顧問の物言いが、やけに腹立たしい。
僕は誰にもバレないように大きく深呼吸をした。冷たい空気が肺へと供給されたけれど、心の中の煮え滾ったものは静まらなかった。

                    □□□

( ><)「ドクオ先輩!」

(;'A`)「大丈夫なの? ねえ、病院にいなくてもいいのか?」

足首に包帯を巻いて、松葉杖をついた一年生が試合会場で待っていた。
なんでも、寝坊したらしく学校の集合には間に合わないと感じたため顧問に連絡を入れていたらしい。
そして、彼は家が学校から近いので、僕らよりも先回りできたのだ。……僕もそうすればよかった。電車賃が無駄になったじゃないか。

(#^ω^)(もっと眠れたじゃないかお。なんて頭が悪いんだ)

( ><)「大丈夫なんです、ただの捻挫ですから。きちんと準備体操をしなかったのが悪いんです」

('A`)「あの、その……」

何か言いたげにしているドクオの後ろから、ジョルジュとモララーが現れた。
  _
( ゚∀゚)「オッス、ビロード。元気かー?」

( ・∀・)「馬鹿、怪我してるだろ」
  _
( ゚∀゚)「馬鹿はお前だよ。俺は精神的な心の動きを指してるんだ」

('A`)「あの、ビロード。今日の試合なんだ……けど」

( ><)「ええ! ドクオ先輩が出るんでしょう? そりゃあもう大歓迎です!!」

(#^ω^)(嘘だ。心の中では憎いに決まってる。雑魚のドクオなんかに代わりに出られるんだ)

( ><)「頼みましたよ! ドクオ先輩!!」

一年生が拳を突き出した。ドクオは戸惑っていたが、すぐに闘志を燃やした顔になった。
そして、拳をあわせる。そうしてから、言い放った。

('A`)「任せてくれ。きっと、期待に応えてみせるよ」

ジョルジュとモララーが嬉しそうにドクオへと抱きついた。
他の部員たちも顔をにやけさせている。顧問の号令で、僕らは控え室へと進んだ。

(#^ω^)(無理だお。無理無理。何言ってんだお。馬鹿じゃないのかお。下手糞のくせに。ドクオを出すなら僕を出せお)

青臭い、安っぽい青春ドラマの登場人物になったかのような演出を見たせいか、気分が悪くなっていた。吐きそうだ。

                    □□□

ユニフォームへと着替えると、緊張感が増していつもよりもやる気になる。
なんてことは、まるでない。僕はどうせ試合に出られやしないのだ。ただ肌寒いだけだった。
廊下へ出ると、例の三人プラスアルファが会話を繰り広げていた。プラスアルファは他校の生徒のようだった。

僕らの白色のユニフォームへと対して、その高校のユニフォームは赤色。
向こうのほうがデザインがいい。格好いいな。そう思うと急に恥ずかしくなってきて、服を脱ぎ捨てたくなる。

( ・∀・)「それじゃあ、また試合のグラウンドで」

モララーのそんな声が聞こえて、相手はどこかへと去っていった。
ここで気がついたのだけど、どうやら会話相手は対戦相手らしい。まったく気がつかなかった。

爪'ー`)y‐「それじゃあ行くぞ。勝ちにいくからな。お前ら気合入れろよ」

顧問の呼びかけに対して、気合の入った大きな声で答える僕以外の全員。

何熱くなってるんだ。構わないけど、僕は関係ないぞ。ああ、ドクオ。必死な表情だね。どうせ惨めに終わるのに。
ああ僕もチヤホヤされたい。試合に出たい。出してくれないかな。直談判してみるか? みっともないよな。

                    □□□

前半が始まってすぐに一点を先取された。
ドクオのミスが原因だ。笑ってしまうミスシーンを、もう一度思い返した。

僕らのキックオフで試合は開始された。僕の隣で、緊張した面持ちの一年生が拳を組んでいる。
ドクオがボールをジョルジュへと渡し、ジョルジュは右サイドの人物へとボールを蹴った。そこは、僕が出てもいいポジションだ。
右サイドはボールを受け取り、ドリブルを開始した。すぐに敵が目前に来たので、もう一度中へと戻す。モララーがパスを受け取った。

モララーは相変わらずの落ち着き払った表情でフィールド上を見渡し、今度は左サイドへとボールを渡す。
僅かではあるが、徐々に前進し始めている。のんびりな攻撃であると相手が判断したのか、動きが緩まった途端、左サイドが駆け出した。
すぐに速度に乗り、一人を抜きさる。抜けた先にも準備の整っていない相手がいた。一歩目の遅い彼を見て、好機と見たのかさらに速度を上げた。

しかし、心はしっかりと構えていたのだ。抜き去られる瞬時に相手は足を出し、ボールに触れた。
ボールは左サイドの足元から転がり出た。すると横からドクオがボールを足で蹴り、コントロールしようとした。

じっとボールの動きを見て隙を窺っていたのか、と思うが、きっと偶然だ。
満足にコントロールできず相手に奪われたことから、やはりそれが確信に思えた。
そこが相手の攻撃の起点となった。素早いパス回しから繋がり、端からのセンタリング。そして、中央の相手選手が頭で押し込んだ。

(#^ω^)(一点取られたじゃないかお。何やってるんだお。余計なことしやがって)

僕を出せ!! あんなヤツよりも、僕を出せ!!
僕ならもっとうまくやれる!! もっと上手なプレーが出来る!!
どうしてあんなやつをみんなチヤホヤするんだ!! 僕のほうができるじゃないか!!

爪'ー`)y‐「気にするな!! 切り替えろ切り替えろ!!」

(#^ω^)(無駄無駄無駄無駄。一緒だって。どうせ勝てやしないお。レベルが違うお)

ああもう帰りたい。時間の無駄だ。どうしてここにいるんだろう。家でゲームしたいなあ。

味方チームが励ましの言葉を掛け合っている。
まだ時間はある。大丈夫だ、問題ない。なんて、笑ってしまいそうになった。くだらなさすぎる。

                    □□□

再びボールが奪われた。今度もまた、ドクオのミスだ。
ボールを受け取ると稚拙なドリブルを仕掛けたところ、相手のディフェンダーにあっさりと奪われたのだ。
そのまま、また、点を取られてしまえばいい。もう二度とサッカーが出来ないように荒れてしまえばいい。

お前が信じているハインリッヒなんて幻想なんだ。『アナロクマ』が好きな人間はろくなやつじゃない。
少し優しいからって、少し格好いいからって、少し運動ができるからって、少し優れているからって。
そんなことで、チヤホヤするな。もっと僕をチヤホヤしろ。僕の全てを認めてくれ。

僕は笑っていただろうか? 隣の一年生が僕を見つめている。顧問が僕を見て不快そうな顔をした。
関係ない。関係ないぜ。ひゃはは。どいつもこいつも、失敗してしまえばいい。
僕を見ないやつなんかいらないんだ。僕をチヤホヤしろよ。そうすれば、僕も、あいつらみたいになれるんだ。

( ^ω^)「あ?」

モララーがボールを奪い返した。相手は攻め気になっていたのか、体制が整っていない。
カウンターだ。僕が思うよりも早く、フィールド上の味方は動いていた。相手の陣地へとどんどんと切れ込んでいく。
相手の抵抗により、端へと追いやられ始める。そうだ。潰されてしまえ。僕を見ないくせに。僕を褒めないなら、潰れろ。

そこでジョルジュにパスを通した。ジョルジュが今度はボールを運ぶ。
ペナルティーアリアに入り、ゴールへとまっすぐに向かうが、敵に阻まれた。そう簡単にいくものか。二度、三度ジョルジュは突破を試みた。
だが、相手をかわせない。二人、三人と人数が増えていく。このままではやがてボールがとられるだろう。

(#^ω^)「チャンスを潰しやがって。ふざけるな。
       普段チヤホヤされててもこんなもんだ。僕が努力してる間、ヘラヘラしてるくせに」

ジョルジュがもう一度身体を揺すった。相手がそれに釣られて動きをあわせる。
そして、踵でボールを蹴った。ボールを奪いにいった相手ディフェンダーの足の届かない位置へと、ボールは転がっていく。
ペナルティーエリアの外までボールは転がっていった。誰がどう見ても、苦し紛れのパスにしか見えなかった。

すると、そこにドクオが走りこんでいた。
ドクオの動きはとても滑らかだった。明らかに訓練を積んでいるとわかる、固さのとれた動きだった。
マークなし。完全なフリー。目の前に転がってきたボール目掛けて思い切り足を振る。

予想していなかった相手の動きに慌ててキーパーは反応を見せたが、ゴールの隅を狙われ、手は届かなかった。
ボールが勢いよくゴールネットへと突き刺さる。大きな歓声が僕の隣から上がった。そして得点を告げる笛が鳴り渡る。

信じられないといった様子で立ち呆けるドクオにジョルジュが駆け寄り、頭を押さえ込むように撫でつけた。
モララーや別の部員も近寄り、声を投げかける。ドクオは照れくさそうに頭を掻いていた。

从 ゚∀从「ナイッシュー! ドクオ!! よかったぞ今のは!!」

( ^ω^)(!?)

そんな馬鹿な。どうして、ハインリッヒがベンチサイドにいるんだ。
顧問となにやら親しげに言葉を交わしている。それから拳を高く突き上げて、もう一度ドクオを大きな声で褒めた。
ハインリッヒを見たドクオは、一瞬信じられないと戸惑ったようであったが、こちらに向かって大きくガッツポーズをした。

あのドクオが、得点を挙げた。試合で、フォワードで。
ジョルジュとモララーとの連携で、一点をもぎ取った。
ドクオが。あの、下手糞なドクオ。……ドクオだぞ? ドクオなんだぞ?

(#^ω^)「はあああああああああああああああああ!?」

(;><)「ひっ」

爪'ー`)y‐「なんだよ、ブーン。うるさいぞ」

(#^ω^)「僕も!! 僕も試合に出してくださいお!!」

从 ゚∀从「お、いいねえ。意欲的だねえ」

(#^ω^)「ドクオにできたんなら、僕にもできるはずですお!! ねえ! 僕を試合に出してくれお!!」

爪'ー`)y‐「あのなあ。そりゃあないぜ。ドクオがどれだけ練習してるのか知ってるのか?」

(#^ω^)「それじゃあ、アンタだって!! 僕がどれだけ練習してるのか知っているのかお!?」

爪'ー`)y‐「練習を見る限り、そうとは思えないな。もっと努力しろ」

(#^ω^)「――――ッ!!」

僕は立ち上がって思い切り顧問を殴り飛ばすと、試合会場を飛び出した。
ここではないどこかへと生きたかった。僕の出場していない試合なんて見なくなかった。
僕以外の誰かがチヤホヤされる光景なんて見たくない。僕以外が活躍する場面なんて見たくない。

(#;ω;)「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

街中を、大声を上げて走っていた。みんなが奇異の目で僕を見る。
ここは地元じゃないからなんとも思わないけれど、噂となって伝わるだろうか。

(#;ω;)「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

誰も僕を認めてくれないんだ。誰も僕を必要としてくれないんだ。
こうやって喚きでもしないと、誰も僕を見てくれない。チヤホヤされたいんだ。

熱にうなされそうな現実を払いのけて、自分だけの王国に篭っていたかった。
空想の中の自分はなんでもできたんだ。自分が努力をしていないだなんて、誰よりも知っている。



こんなはずじゃないんだ。風が、僕を嘲笑するかのように吹き抜けた。




( ^ω^)プライベート・キングダムのようです 終わり

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