――おへや。
( A )「はぁ……はぁ……」
( A )「ぁあっ……・はぁ……」
( A )「っ……はぁっ……」
( A )「……あっ……ふっ」
( A )「……はぁっ……はぁっ……」
( A )「クッ……」
( A )
( A )「っふぅ……」
――『イベントで撮った女装子写真スレその32』。
――403。
――1.28MB、jpg画像。
――被写体、『VOCALOID2 初音ミク』のコスプレをした痩せ型の青年。
――本日のオナニー、終了。
('A`)ホモじゃなくて、女装コスプレイヤーが好きなだけなようです
('A`)「はぁ……」
自慰の後、いつも襲ってくる虚無感。
目の前にはミクちゃんなんていなくて、ディスプレイには女装コスプレしたみっともない男の写真。
('A`)「……」
何で俺はこんな奴に興奮してたんだ…………。
('A`)(閉じるか)
絶頂直前まで感じていたウィンドウへの愛惜しむ気持ちはどこへやら、淡々とタブを閉じる。
まだ見ていないJPG画像もあるが、別にどうでも良かった。明日になればどうせまた開く。消した後、そう思った。
('A`)「……ISでも観るか」
鬱田ドクオ19歳、大学一年生。
彼のオナネタは八割方チンコが付いている。
しかし彼は、自分はホモではないと思っている。
そう、ホモではないのだ。
ただ、女装した男の姿を見るとどうにも興奮してしまうのだ。
('A`)「一夏マジハーレム。いいなー」
部屋の角にある小さなテレビと対面に、小さく背を丸めてテレビの画面を見る。
レコーダーのHDDに録画しておいた、今季のアタリアニメである。
もちろん、「2ちゃんねるで評価高い=彼の中でのアタリアニメ」なのだが。
('A`)「……んー」
不意に眠気がくる。時計を見て少し驚いた。もう2時になるのか、と。
('A`)「寝ようかな……」
と独り言を唱えつつ、リモコンの停止ボタンを押し、テレビの電源をおもむろに切ったドクオは、
ベッドに向かうでもなく、再びキーボードに手を添えた。
('A`)「……」
カチャカチャとJaneを立ち上げ、常駐スレをひと通り開いた後、面白そうなスレを適当にクリックしていく。
それらをぼーっと眺める。
('A`)「……」
この後、寝るまでの彼の行動は割愛しかできない。
同じことしかしていないのだから。
――「聞いたよ」
――「お前、ホモなんだって?」
('A`;)「!?」
ザワつく教室。
全身が寒気に包まれたようだ。特に、女子からの冷たい視線が身体を凍てつかせていくよう。
「信じられない」「マジ?」「気持ち悪い……」そんな声が聞こえてくる。
('A`;)「な、何だよ……違ぇよ……」
( ^ω^)「違うも何もねえだろ。証拠の写メあんだぞ?」
('A`;)「あ、あ……それ……」
突きつけられた携帯。その画面を、眼球に焼き付けられるほど身体が勝手に凝視する。
四角い長方形の中には、他人のモノをしゃぶる俺、俺、俺。
( A ;)「ち……」
( A ;)「……違う! それは違うんだ!!」
( ^ω^)「……いや、ホモだろ?」
( A ;)「違う! 違うぅうぁああああああああああああああああああああぁっ!!!」
( A ;)「……ッ!」
自分がたてた布団を蹴飛ばす音で、ドクオは目を覚ました。
( A :)「っ……かぁっ……」
( A ;)「……はぁっ……はぁっ……」
すぐに分かる。さっきのは夢だ。そう決まっている。
心に言い聞かせて、ぎゅっと閉じていた目を開き、周りを見る。
窓から、鈍い光が差し込んで、ぼんやりと青く部屋が染まっている。
小さな部屋だ。部屋の角を見ると、電源の入っていないディスプレイ。それと、起動しているパソコン本体。
足元の先には小さなテレビ。その隣にライトノベルと声優雑誌の詰まった本棚。その上にはねんどろいどぷちがある。
廊下と部屋を分かつ扉は何故か開いていて、その先のトイレのドアが少しだけ見えた。
HDDの回る音だけが、静寂をかき消し、寝汗をかくドクオの聴覚を支配していた。
('A`;)「……」
('A`;)「……よかった」
夢で、よかった。
美阜(びっぷ)大学、構内。
('A`)「よぉ、モララー」
( ・∀・)「お、どっくんじゃん」
彼はモララー。ドクオの数少ない友人の一人だ。
ハタから見れば、それ相応のイケメンであり、彼女もいるので、あんまりドクオとはつるまないようなタイプである。
しかし彼はドクオを一番の盟友とし、ドクオもまんざらではない様子である。それは何故か。
まあ、こういう物語にはありがちだが、モララーはサブカルチャーにとっても強いイケメンなのである。
( ・∀・)「この前のまどマギさぁ、ほむほむやばくなかった?」
とは言え、深い方面(コアなアニメ)ではふたりとも趣味が合わないので、ライトな最新アニメがもっぱら二人のいつものトークの中心だ。
('A`)「あー、びっくりしたよな。まあそんな感じなんだろうなとは思ってたけど、演出が予想を上回ってたわ」
( ・∀・)「あれぞ『視聴者を絵で黙らせる』って奴なんだろうね」
( ・∀・)「全体的にちょっと龍騎のタイムベント回っぽかったな」
('A`)「あー……俺まだ平成ライダーそこまで見てないわ。お前に勧められた奴だと電王とブレイドしか」
(;・∀・)「何ィ!? お前2ヶ月も前にDVD全シリーズ貸してやったのに、まだ二つしか見てないのかよ!」
('A`;)「ごめんごめん……」
(;・∀・)「まったく……お前と昭和ガメラシリーズで語れる日はいつになるんだろうな!!」
( ・∀・)「あ、俺次の講義行かないと」
('A`)「あ、お前メディアの授業とってたんだっけ」
( ・∀・)「うん。どっくんは自由選択何もとってないんだよね」
('A`)「マンドクセ-からなー」
( ・∀・)「ハハッ、らしいや」
('A`#)「あ、鼻で笑ったなこのヤロ」
( ・∀・)「じゃあなー」
('A`)「待てー」
( ・∀・)「ふはははは」
爽やかに笑いながら去ってゆくモララー。当然、周りには変人に見える。
残念なイケメンって奴なのだろうか。ドクオは苦笑いした。
('A`)「……」
そこで、自分には今何もすることがないのに気付く。手が空を掴むような感覚を覚え、少し虚しい。
('A`)「……帰るか」
幸い、この後講義はなかった。
自らの住む、学生向けの小さなアパートは、途中にある大きな公園をまたげば、歩いて20分もない。
大学の門を抜けてすぐそこにある信号を待ちながら、ドクオはぼーっと横断歩道の白線を見ていた。
もう一年近く同じ道を通っているので、何も考えなくても自然に足は帰り道に沿って進む。
途中、通りを抜け、少し小さな横道を行く。そこからさらに突き当たりを曲がる。
すると、このあたりでは珍しい、ウォーキングコースもある大きな公園、美阜運動公園が見えてくる。
ここを横ばいに進み、端っこの駐車場から外に出れば、アパートが目でも見えるほど近いのだ。
('A`)「んー」
特にすることもないので、携帯を取り出し、右手でいじる。開くのはもちろん、専ブラだ。
『VIP終わったな』『おしっこでコーンスープをつくって一緒に飲みたい東方キャラ』
『神IDキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』『まどか☆マギカの暁美ほむらちゃんはぺったんこかわいい』
('A`)「なんか、いつものVIPだな……」
とくに勢いのある面白いスレも糞スレもなく、軽く溜息をついてブラウザを閉じる。
さっさと家に帰って声優のネットラジオでもきこう……。そう思って、少し足を早める。
その時だった。
('A`)(ん?)
一瞬の違和感。目にゴミが入ったかのような……いいや、違う。視界に何かあって、でもそれが何なのかわからない、そんな感覚を感じた。
手のひらからぶわっと汗が出ているのを感じ、初めて自分が緊張していることを知る。しかしアタマでは至って冷静だった。冷静なまま、冷静になろうと試みる。
目の前に何があるのか。
( ^ω^)
( A )「!!」
気づいた時には、全力で歩いてきた道を引き返していた。
何であいつが。
今日の夜、夢見た光景。
あの日の夜の光景がフラッシュバックする。
――掲示板。
――満月。
――出会い。
――公園。
――草むら。
――スカート。
――――ちんぽ。
――――――写メの音。
(^ω^)
それから、一年間。
悪夢のようだった。
覚えている。
いつもアイツが見ていた気がすること。
携帯をとり出される度、いつ俺への暴露が始まるかびくびくしていたこと。
目があったとき、あっちから目をそらしたこと。
アイツの周辺にいる奴らの目まで冷たく見えてしまっていたこと。
受験勉強であまり顔を合わせなくて住むようになって、とてもほっとしたこと。
いつも、いつもあいつが俺の行動の中心だった。
悪夢のようだった。
そして、悪夢はまだ続いていた。
( A )「なんで……」
あいつは県外のバカ私立じゃなかったか?
親と確執ができて、二度と実家に戻らないんじゃなかったか?
もうアイツのこと、俺は気にしなくていいんじゃなかったか?
(TAT)「なんでお前がいるんだよっ……!」
ドクオは、気付かれないように、弱く、吠えた。
恐れおののく、とはまさにこのことだろう。
足が震え、花壇のフチに座りこんだまま、立てなかった。
何時間そうしていたのだろう。
気がつけば、空では青と橙の境目がちょうど頭の上あたりにある時間帯だった。
( A )「……」
弱々しい、だがなんとか立てる。歩ける。
腹も空いた。
( A )「……帰ろう」
絶対もういないと分かっていても、堂々とさっきの道を通り抜けることなんてできなかった。
わざわざ公園を避ける形で、いつもより少し時間をかけて帰路に着く。
扉の鍵をしめ、部屋のドアを開け、パソコンのディスプレイを点ける。
自分が何も考えていないように感じる。行動に重さがない。空気が入っているような手で、マウスを動かす。
ブラウザを立ち上げる。海外の動画サイトを開く。
あんなことがあっても、ドクオは。
それでも、女装子をオナネタに行為に及んだ。
不思議と、現実で悪夢があった日は、夜は夢をみないらしい。
('A`)「……」
いつのまにか朝を迎えていた。
だが、しっかりとディスプレイを消し、ベッドの中に入っていることを見ると、どうやら寝落ちしたわけではなさそうだ。
いやなことがあった後は、眠るに限る。
ドクオは、昨日の記憶があるところから比べて、自分がかなり落ち着いているように感じた。
('A`)「……ぅぅ……」
そういえば、一年前のあの日の、次の日の朝もこんな感じだった気がする。
コーンフレークを皿に入れ、牛乳をかけないままボリボリと食べる。
その後、水を飲む。これで朝飯は終わりだ。
皿とコップを流し台に持って行くと、昨日の朝と夜の分の食器もそのままになっていた。
昨日の自分に少しだけイラだちながら、準備を始める。
全身UNIQLOブランドのユニクラーファッションで身を包み、
筆記用具とルーズリーフ、講義で使う本をかばんに入れ、背負う。
廊下を抜け、玄関の前まで来たところで、急に足が止まる。
('A`)「…………授業出たくねえ」
かばんを靴箱の上に放置し、ドクオは部屋に戻ってモンハンして、寝た。
('A`)すまねぇ、ここまで書き溜めなしでフィクション70%でお送りしてきたけど
('A`)そろそろ寝てしまうわ……おやすみ
最終更新:2012年01月09日 11:06