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「何でって」

上目づかいで盗み見た千聖は少し眉を寄せて、一生懸命考え込んでいるみたいだった。
「ねぇ~なんか言ってよぉ千聖ぉ。」

中2にしてはずいぶん豊かなたゆんたゆんに猫みたいに顔を擦り付けたら、千聖は高い笑い声を上げて身をよじった。

「ごめんなさい・・・きっと、理由なんてないんだと思います。」
「ちょっとぉ、散々考えてその結論とか!」
甘えモードでむくれてみせる。

「だって、好きな人とは自然に一緒にいたくなるものですから。桃子さんの側にいたいことや、なにかお役に立ちたいと思うことは、私にとって当たり前のことなんです。
舞さんや、梨沙子さんや愛理のことも大好きですが、私にとっては桃子さんと過ごす時間も比べ物にならないくらい尊いものだから。我慢だなんて、少しもしていないわ。」

「・・・・いやー、長文喋るね。ももびっくりしたよ。あのアホの千聖が。」
「あ、あほ?」

私は照れ隠しに千聖をからかう。本当に、今の千聖は何のためらいもなくストレートに言葉をぶつけてくるからたまらない。
嬉しいんだけどむずがゆいような感覚がたまらなくて、もう少し駄々っ子桃子に付き合ってもらうことにした。

「まあでも、千聖がもものことだぁーい好きなのはわかった。ありがとね。
じゃあ今度は、もものどこが好きなのか言って。とりあえず100個!はい、よーいスタート!」
「ひゃくっ!?え、えーと・・・笑顔が可愛らしくて好きです。」
「ほーい。じゃあ次!」
「歌声が好きです。」

こんな調子で、千聖はほとんど淀みなく私の長所をあげてくれた。
前の千聖だったらどうかな?同じこと3回ぐらい言って、逆ギレして10個もいかないでやめてたかも。
千聖は照れ屋で、しかも言葉をよく知らないところがあるから、本当に伝えたいことをちゃんと言えなくて落ち込んだりトラブルになったりすることがよくあった。

そう考えると、このお嬢様千聖はある意味で今までの千聖の代弁者なのかもしれない。
聡明で落着いていて、優しいけれど理路整然と自分の意見を堂々と言うことができる。
この千聖を手放したくない人たちの気持ちはよくわかる気がした。


「さーて、よく頑張ったね千聖。じゃあ次は、いよいよラス1だよ。どうぞ!」
「・・・」

あれ?

今までスラスラ答えてくれていたのに、千聖は急に黙ってしまった。
「千聖?もう限界?」
「あ・・・・違うんです。私、桃子さんの大好きなところだったらまだいくらでも言えるから、最後の1つを決めかねてしまって。」
心底困った顔で私を見つめてくる。
お・・・お!これは、なかなかすごい羞恥プレイだ。背中のかけないところがむずむずするような感覚。

「ちーさーとー!照れるってそういうの!ほら早く決めて決めて!」
「んと、はい、決めました。桃子さんの一番好きなところ。・・・いつもプロのアイドルであり続けるところです。」


プロ。


それは私にとって敬称であり蔑称である不思議な言葉だった。
「もーちょい、くわしく。」


「私にとって、桃子さんはアイドルとしての憧れです。
いつでも笑顔を絶やさない桃子さんの強さも、ファンの方をとても大切になさっている暖かさも、可愛らしい歌声も、誰もがうっとりしてしまうような握手も。
私は色黒だし、桃子さんみたいに可愛らしい振る舞いもできないけれど、握手の心得だけは真似させていただいたりしてます。
今までも、これからもずっと、私の1番のアイドルは桃子さんです。」


――ああ。


きっと私は、こういう風に全面的に肯定されたかったんだ。
私はずっと、自分のアイドルとしての振る舞いに、プライドを持って頑張ってきた。
「やりすぎ」「キモイ」なんていう陰口も跳ね飛ばすぐらいの気持ちで、私なりの道を歩んできたつもりだった。

強いね、とはよく言われる。自分でもそう思う。
それでもふとした瞬間によぎる不安感・・・本当に、このままでいいの?という疑問に、心が揺れることもあった。
今の千聖の言葉は、そんな私の思いも全てを総括して認めてくれたように感じられた。


間違ってなかったんだ。
これで良かったんだ。


不思議な安堵感に包まれて、私は千聖の肩に顔を埋めた。

「桃子さん。」
「・・・泣いてないからね。」
「はい。」

無条件に自分の存在そのものを肯定してくれる人が、この世の中にどれほどいるだろう。
私の可愛い妹がそうしてくれたように、私も彼女の全てを受け止めて、守ってあげたい。
そう思った。



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