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「私がキッズじゃなくて、エッグだから?」


私は最近、こんな魔法の言葉を手に入れた。

言うべきではないと自制していた言葉ほど、一度口にしてその効果を知ってしまうと、もうその魔力に頼らずにはいられなくなってしまう。

みんなの大好きな、千聖お嬢様の本当に傷ついた顔。

こんな簡単な言葉で引き出せるものだとは、思ってもみなかった。


多分、きっかけはほんのささいなことだった。
レッスンが終わってロッカー室で、舞美ちゃんが「見て見て!」と写真を広げた。
そこには舞美ちゃんとなっきぃと、ちっさーがゴスロリメイクではしゃいでいる姿が写っていた。

「これ、この間のメイドカフェがどうのってやつ?」
「そう!結局カフェには行ってないんだけどね~でも本当楽しかったよ!」
回ってきた写真をじっくり見ていると、本当に面白かったんだなというのが伝わってきて、うらやましい気持ちと同時に少し嫉妬心が芽生えた。
「私も参加したかったなあ。」
口を尖らせて舞美ちゃんに抗議すると、えりかちゃんも「ウチもー」と支援してくれた。
「だって、栞菜と愛理は男衆カフェのほうがいいって言ってたじゃないか。えりなんて仏像みたいな顔してたくせにー!素直にならないのがいけないんだよーとかいってw」
「男子校カフェだよ・・・」

確かに、舞美ちゃんの言うとおりだとは思うんだけど、自分の知らないところで何か楽しいことがあったんだと思うと、すごくもやもやした気分になってしまう。

「キュフフ、メイクはなっきぃがやったんだよ!みぃたんたらちっさーに変なこと仕込んだりするしさぁ。」
「ふふ、いやだわ早貴さんたら。」

すごく楽しそうなみんなとは裏腹に、私の心は曇っていく。

「この後なんか、結局遅くなっちゃったからみぃたんちに泊まったんだよね。それで結構真面目な話とかしちゃって。」
「あれは深い話だったよね!キュート最高!とか叫んじゃったし。」
何だか聞いていられなくなって、私は静かに席を立った。

自分でもバカみたいだとは思う。
仲間はずれでもなんでもないし、愛理も舞ちゃんもえりかちゃんも参加してなかったんだから気にするほどのことじゃない。
でもそこで何の話をしていたのか、3人だけの秘密ができたりしたのか、私の話とか出たのか、なんて聞きようのない疑問がふつふつと湧き出てくる。

「栞菜。」
みんなの輪を外れて、ちっさーが私の隣の椅子に座ってきた。
「・・・なっきぃや舞美ちゃんと、どんな話をしたの?」
「そうね・・・キュートのイベントやコンサートの思い出とか、あとは学校の話でも盛り上がったわ。」
まったく悪びれた感じもなく、ちっさーは普通に答えてくれた。
これで納得して引き下がればいいのに、今日の私は本当にねちっこい。

「もうちょっと具体的に聞きたい。思い出って?学校の話って、栞菜が知らないこと?その場にいなかったメンバーの話も出た?」
「ちょ、ちょっとまって。それは、答えられることと答えられないことがあるわ。お2人に確認してみないと・・・。ごめんなさい。」

「・・・わかった、いいよもう。ちっさーずっとそうだもんね。私とはまともな話とかできないって思ってるんでしょう。」
落ち着いて説得されたことが逆にカチンときて、ちっさーを睨みながらどんどん責める口調になっていく。

「栞菜、」

「何でそうやってハブんの?
・・・・私が、キッズじゃなくてエッグだったから?」


そんなに深い意味があっていったつもりじゃなかったのに、ちっさーは目に見えてうろたえ始めた。
「ちが・・・うわ・・・栞菜どうしてそんな」

初めて見る表情だった。大きな黒目が私を捉えきれずに揺れて、辛そうに伏せられた。

どうして?ちっさーがそんな顔をするようなことじゃないのに。
むしろ傷ついてるのは・・・

「栞菜、もういいかげんにしたら。」
えりかちゃんが私とちっさーの間に割って入って、ちっさーを抱きかかえるようにして連れて行ってしまった。

気が付くとみんなが私の方を見ている。
多分、えりかちゃん以外は何があったのかわかってない。きょとんとした顔で、説明を求められているみたいだった。

「栞菜?」
「ごめん、帰る。」
私はバッグを乱暴に掴んで、そのまま部屋を出て行った。



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