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部屋に通されて、ちっさーはすぐにデンモクを使って入力を始めた。

「ちっさー、そんなあわてないで。飲み物選んでからでいいよ。」
「んー・・・」

あら、集中モードに入ってしまったみたいだ。
とりあえず私はアイスティーを2つ頼んで、真剣にリストを作っているちっさーの横顔を観察することにした。

「ねー、何入れてるの?見せて見せて。」
「あっ待って!セットリストは、画面を見てからのお楽しみにしたいわ。まだ見ちゃダメよ。」
セットリストって、ちっさー。
まあでも、いたずらっ子みたいな顔で笑うちっさーは相変わらず可愛かったから、私は素直に言うことを聞いてあげることにした。


そうこうしているうちに店員さんが飲み物を持ってきて、ドアを閉めた途端に「さあ、始めましょう!」と珍しくちっさーが声を張った。

イントロが流れ出す。
予想通り、『スイーツ→→→ライブ』だった。
「この曲で、コンサート盛り上げましょうね!」

ちっさーはぴょこんと小さく跳ねると、私の手を取って勢いよく立ち上がる。
お尻をふりふり踊る姿に、私もテンションが上がってきた。

私が出だしを歌いはじめると、ちっさーはまるでお客さんが実際に目の前にいるかのように、満面の笑顔を振りまきだした。
そのしぐさが何だか可愛らしくてジーッと見つめていると、少し照れくさそうに笑ってから、自分のパートを歌うために口元にマイクを持っていった。

「前回 食べるペースを~」

少し色っぽくて、太めなちっさーの歌声。
何だか久し振りに聞いた気がする。

お嬢様になってからのちっさーは、それはそれは可愛らしい歌声に変わっていた。
愛理みたいに柔らかくて、なっきぃみたいに高く可愛らしい小鳥のような天使の歌声。
それはそれでいいという意見も多かったけれど(私もその一人だった)、ちっさーなりに思うところがあったみたいで、徐々に前の声質を取り戻す努力をしていたみたいだ。

今私の耳に入ってくるのは、まさに前のちっさーのそれだった。
たまらなく懐かしくて、だけどちょっとだけ名残惜しいような不思議な気持ちだった。

サビのほんの一部分、私たちの声は重なり合う。

ちっさーの声が強すぎるとか、私の主張が弱いとか指摘を受けがちな部分だったけれど、今日はすごく綺麗に絡まりあっている気がした。
ちっさーも同じように思ったみたいで、ちょっと目をパチクリさせながら笑いかけてきた。
言葉にしなくても、なんとなくわかりあえるのが嬉しかった。

小さい頃に絵本で読んだ、幸せを探して旅に出たけれど、本当に欲しかったものはすぐ近くにあったっていう話を思い出した。
私の求めていたものもとても単純で、だからこそ見失ってしまいがちなものだったのかもしれない。

「ちっさー、最高じゃない!?今歌っててすごく気持ちよかった!」
「ええ、私もそう思っていたわ。」
手を取り合ってはしゃいでいると、また次の曲のイントロが始まった。

「・・・・またかい!」

そう、ちっさーは、再びスイーツ・・・・を入れていた。

「だって、栞菜といっぱい練習したかったんですもの。・・・嫌かしら?」
うっ
仔犬のようなまなざしにはかなわない。
せっかくちっさーが考えてくれたオーダーなんだから、今日はとことん付き合うことにした。

「よーし、じゃあ張り切っていこう!」


――でも、私はちっさーの張り切りを甘く見ていたのかもしれない。

「ち、ちっさー・・・・もう、いいんじゃない、かな。」
「え?どうして?」

このイントロを聞くのはあれから何度目だろう。もう確実に2ケタに突入している。
「まだまだ、練習して極めないと。んー、今で、折り返しぐらいかしら。」
「うへっ」
そうだった。ちっさーは尋常なく一途で、これと決めたらのめりこんでしまう傾向が昔からあった。
こういうところは、回転寿司でエビタルタルを頼みまくる某リーダーとよく似ている気がする。
私がストッパーにならないと、今日は突っ込みのなっきぃや舞ちゃんはいないんだった。

「もう十分な回数こなしてるって。違う曲にしようよぅ。他にもあるじゃない、私たちがいっぱい歌う曲。」
軽くしなだれかかってみると、ちっさーはちょっと考えてから「わかったわ」とうなずいてくれた。

「じゃあこの回が終わったら、違う曲も入れてみましょう。私が考えてもいいかしら?」

やった!ちょっとお姉ちゃんぽい説得ができた。
思わず舞い上がって、私はどうぞどうぞとまたもやちっさーに曲の入力をまかせた。

「おっ!僕らの輝き?いいねいいね!」
「えりかさんのパートは、わけっこしましょう?」
「うんっ」


そう、私はこの期に及んでまだ、お嬢様ちっさーの天然と一途さを侮っていたのだった。


この後連続数十回、この軽快なイントロを聞かされる羽目になるとは、私はまだしるよしもなかった。



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