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「あっ違う星って言っても、本当は私も千聖も地球人だってわかってるよ。でも、今までと違うっていう意味で」
「いや、そこはわかるから。」

熊井ちゃんはせっかく面白い例えを使うのに、変に生真面目だから、わざわざ説明をしないと気がすまないみたいだ。
うまく誘導しないと、こうやっていつまでたっても本題に入らなくなってしまう。

「何か、今までの千聖は思ったことは全部ポンポン言ってたのに、今は一度立ち止まって考えてから喋ってる気がする。話の内容はそんなに変わってないんだけど、あんまり暴走してないっていうか。」
ちょっとつまんなそうに、熊井ちゃんは口を尖らせた。

「私も結構そういうとこあるし、千聖はこっち側の人だと思ってたんだけどな。仲間が減って残念。何で変わっちゃったんだろう。・・・ねえ、聞いてる?」
空いてる部屋や控え室、自販機の近くのベンチなんかを探索しながらフンフンと生返事をしてたら、わき腹にチョップを食らった。

「うわうわっ、聞いてるよ!多分、熊井ちゃんがそう思うなら本当に変わっちゃったんだよ。熊井ちゃんだって、ちゃんと千聖のこと見てるんじゃん。優しいね。」
「嘘、本当に?嬉しいなぁ~」

熊井ちゃんは小さいことでも顔をくしゃくしゃにして、大きい赤ちゃんみたいに喜んでくれる。
ちょっと曇りに差し掛かっていた私の心も、この笑顔で簡単に快晴になった。


「もも、いないね~」
「楽屋も見てみる?でもちょっと遠いし先に他のとこ・・・あれ?ちょっと、熊井ちゃん隠れて」
私たちは近くの部屋に飛び込んで、隙間から頭だけ覗かせた。


すぐ前のトイレから、千聖が出てきたところだった。
もっと近くのトイレ行けばいいのに。
ウ●コ?と思ったけれど、熊井ちゃんはこの手の下ネタにマジギレすることがあるから、とりあえず黙っておくことにした。

「千聖、戻らないのかな?」

千聖はなぜか引き返さずに、みんなのいる部屋とは反対方向に歩いていった。

「わかった、多分うちらと一緒だよ。もものこと探してるんじゃない?」
「そっか!じゃあせっかくだし一緒に行きたいよね。茉麻、ちょっとシーッね。」
熊井ちゃんはいたずらを思いついた時のわくわくした顔になって、抜き足差し足で千聖の後をつけはじめた。
でも身軽で早足な千聖と、のんびり屋の熊井ちゃんでは、全然距離が縮まらない。

だんだん苛々しだした熊井ちゃんは、少しずつ大またになって競歩みたいな足取りで、千聖を追いかける。
「熊井ちゃん、バレちゃうよ。」

私の小声とほぼ同時に、気配に気づいたのか千聖がふと足を止めた。


「だーれだ!!」


振り向かれる前に、と慌てた熊井ちゃんが、千聖に手で目隠しをした・・・・はずだった。


「んぎゃんっ!」

千聖が瀕死の小犬のような声をあげた。

「あっ!やだ、違う!」

何事!?急いで千聖の前に回ると、熊井ちゃんの長い指が思いっきり顎と喉の境に食い込んでいた。
かなりの長身の熊井ちゃんと、ちっちゃい千聖では身長差が30cm近くある。

慌てたのと、うまく位置を掴めなかったせいで、目標よりだいぶ下のほうを捉えてしまったみたいだ。

「ひーん、どうしよう!千聖ごめんね、息できる?大丈夫?」
「ケホッケホッ・・・え、えと、ふわぁっ」

慌てた熊井ちゃんは、半泣きで首から手を離して肩をガクガク揺さぶった。
千聖は目を白黒させている。

「熊井ちゃん、とりあえず落ち着いて!ゆすっちゃ駄目だよ。」

熊井ちゃんはイマイチ自分の体のことをわかっていない。
舞美ちゃんみたいなスポーツ系じゃないとはいえ、十分上背はあるんだから、加減しないと思わぬ事故が起こるんだ。そう、今みたいに。

「やだーやだーもう!どうしよう、痛かったよね?」
「う、ん?びっくりした・・・ケホッ」
「ごめんねー、千聖。ジュース奢るから、ちょっとまぁたちに付き合ってくれる?」
パニックになってる熊井ちゃんを落ち着かせたかったので、とりあえず3人連れ立って自販機まで戻ることにした。

「はい、紅茶でいい?」
ベンチに座っている2人に、紙コップのミルクティーを差し出す。

「う、うん。ありがとう。本当にいいの?私お金払うよ。」
「いいって。びっくりさせちゃったお詫びで。」

千聖の喉元は真っ赤になっている。慌てた熊井ちゃんが全力でさすってあげたのかもしれない。
困惑した顔でカップに口をつける千聖は、横にいる熊井ちゃんを何とか励まそうとしているみたいだ。

「熊井ちゃーん。千聖は大丈夫だよ?びっくりして変な声出しちゃっただけ。」

熊井ちゃんは声もなくがっくりと肩を落としている。
整った顔立ちの熊井ちゃんは、黙っていると少し怖い感じになる。
その顔で落ち込んでいると、まるでこの世の終わりみたいな悲愴な表情になってしまう。

「本当だよ・・・別にそんなに落ち込まなくても。」
「だって私、こんな小っちゃい千聖に」

「「1歳しか違わないよ!」」

突っ込みが綺麗に綺麗にそろった。
「ク゛フフッ」
「あはっ」

いいなあ、この感じ。
千聖と私はこういうしょうもないことのタイミングがよく合う。
さっきは千聖が変わっちゃったなんて思ったけど、このノリが消えてないならまあ別にいいかな。

熊井ちゃんも私たちの方をチラッと見て「ふへっ」と少し笑った。



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