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「あ、熊井ちゃん笑った!もう元気?」
「うん、何か元気でた!」
千聖は目いっぱい手を伸ばして、自分よりもずっと大きい熊井ちゃんの頭を撫でた。
熊井ちゃんも熊井ちゃんで、ちょっと頭を下げて触りやすいようにしてあげながら、さっきの暗黒顔はどこへやらニコニコしている。
今鳴いたカラスが・・・と思ったけれど、2人が笑い合っているのは何だか可愛いから、そのまま黙って見守ることにした。

――別の星の人、か。

熊井ちゃんはもう自分で言ったことも忘れて千聖とはしゃいでいるけれど、改めてその言葉を反芻しながら千聖を観察していると、私の中で燻っていた違和感がまた大きくなってきた。

千聖はこういうヒラヒラしたスカートは穿かなかったはず。
千聖はこんな凝ったメイクはしなかったはず。
千聖はもっと大きな声で笑ったり泣いたり怒ったりしていたはず。

「もー!熊井ちゃんウケるぅ!私そんなこと言ってないよー」

のけぞってケラケラ笑う時も、パンチラ防止に足に力が入っている。手はお上品に口元を隠す。
熊井ちゃんを見つめる顔が、何だかお母さんのように優しい気がする。

お母さんて、それじゃあ私と千聖は
「茉麻ちゃん?」

「キャラが被るじゃん!」


「・・・えっ?」

「あっ、ごめん。別になんでもないよ?」

いきなり話しかけられたから、うっかり変なことを口走ってしまった。
よく考えたら、キャラは被らないよね。だって私はお母さんキャラだけど、結構豪快だしガサツだし、今千聖がやってる感じとはまた違う。

「茉麻?キャラが被るって、誰と?」
あ、ヤバイ。熊井ちゃんの興味をひきつけてしまった。こうなると、熊井ちゃんは納得いく説明を受けるまですっぽんみたいに食いついて離れてくれなくなる。

「別にたいしたことじゃないよー。何か千聖とキャラ被ったりしてって思っただけ。」
「ははは、何でー?全然違うじゃん、ねー千聖?」
千聖もケタケタ笑っている。
「だよねー。何か今日の千聖がママっぽいから。でも何か、今日の千聖は女の子らしいからお嬢様ママって感じだね。」


・・・・・・・・・・・・


あれ?
何か変なこと言ったかな?

千聖が目を見開いて、私の顔を凝視したまま固まった。

「え、ご、ごめん!まぁと被るとかやだった?」

無言で首を横に振る千聖。

「何か言っちゃいけないこと言った?」

「あ・・・ぁの」

急に、千聖の表情が変わった。
ギュッと眉間にしわを寄せて、何かに耐えるように俯いてしまった。

「千聖?ちょっと、本当にどうしたの?」
「ごめんなさい、私」

千聖はいきなり立ち上がると、廊下を走り出した。

「待って!」
私は筋力と瞬発力だけは結構ある。後を追いかけると、千聖はさっきまでいたトイレに駆け込むところだった。

「まーさー・・・待ってよー早いよー」
「先行くから!さっきのトイレね!」
くまくました喋り方と走りの熊井ちゃんをひとまず置いて、私は千聖に専念することにした。


「千聖!千聖!どこ?」

幸いなことに、個室は一個しか鍵がかかっていなかった。
ここにいるんだ。

私は呼吸を整えて、まずは小さくノックをした。

「千聖?ここでしょ?」
「・・・・・・ごめんなさい、私、大丈夫です。」

・・・喋り方、違ってる。
何だか声も細くて、どう考えても別人だ。

でも今はそれより。
「ねえ、千聖。私なんか気に障ること言ったなら謝るよ。」
「あの、違うんです。茉麻さんは、悪くないんです。」
「まあささんて・・・」

いろいろ聞きたいことはあるけれど、これ以上刺激するのはよくない気がする。かといって、このまま放っておくわけには絶対いかない。

「いた!まーさ!」
そのうちに熊井ちゃんがヘロヘロになりながらもトイレに入っていた。

「千聖、いるの?」
「あっちょっ」

熊井ちゃんはいきなりドアをガンガンたたき出した。

「千聖?ごめんね、私が首絞めたから?」
「ひっ!・・・あの、本当に私、違うんです。友理奈さんのせいじゃありません。」

熊井ちゃんは千聖の言葉遣いに驚いて、怯えた子供みたいな顔になった。

「ま、茉麻・・・何で?ユリナさんって言われた。」
そういわれても、私にもわけがわからない。

「千聖、とりあえず、よかったら出てきてくれないかな。私たちも何が何だか。」
「う、うん。説明してほしいな。千聖。」

ついつい夢中になって、ちょっと大きい声で2人がかりの説得を始めてしまった。
長身の熊井ちゃんに、これまた体格のいい私が、トイレを囲んで騒いでいる。

・・・・これ、はたから見たらいじめみたいに見えるんじゃなかろうか。

「ちょっと!何してるの!千聖がそこにいるの?」

悪い予感というのはあたってしまうものだ。

独特のキャンキャン声。
振り向くと、トイレの入口に腕組みをしたなっきぃが目を吊り上げて立っていた。



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