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私はこんな時、気の利いた言葉ひとつかけてあげることができない。

ちっさーは悪くない。栞菜だってきっとそう思ってる。

そう言ってちっさーを安心させてあげたいのに、言葉にしたら嘘っぽくなってしまいそうで怖かった。
今私にできるのは、しっかりとちっさーを抱きしめて、涙をこぼす場所になってあげることだけだ。
両腕が痛むほどちっさーの体を強く抱くと、ずっと強張っていた体から、ため息とともにゆっくり力が抜けていった。

「ちっさー?」

よっぽど気を張っていたのか、ちっさーは私に体を預けたまま、微動だにしなくなった。
赤ちゃんみたいな仕草で、健気に私の服の裾を握り締めているのを見ていたら、鼻の奥のほうがじんわり痛くなってきた。

嫌だな。何だか最近涙もろくなっている。
キュートのリーダーとして日々成長していかなくてはいけないのに、私の至らなさが年下のメンバーを傷つけている現実が、重く心にのしかかってきた。

去年の今頃は、今年こそ誰もが認める頼れるリーダーになっているはずと思っていた。
でも相変わらず私は周りの変化に鈍感なまま、ちっさー(栞菜もそうかもしれない)が出していたサインに気づいてあげられなかった。

「・・・舞美さん、ありがとうございます。もうそろそろ帰らないと」

しばらくそのままぼんやりしていたちっさーは、体を起こすと、少しカツゼツの悪い口調で喋り出した。

「あっ・・・うん、そうだね。遅くなっちゃったね。じゃあ行こうか。」
「舞美さん、」

私の目が少し潤んでいるのに気づいたちっさーは、ぎこちない仕草で目じりを指でなぞった。

こんな状況で、ちっさーのほうがよっぽど辛い気持ちを味わっているのに、私を思いやってくれるその透明な心が今は苦しかった。

「大丈夫、ありがとう。」

駅までの道も、電車の中でも、私たちはひたすら無言のまますごした。

私が強くちっさーの手を握る。
ちっさーも強く握り返してくれる。

ただそれだけのつながりでも、ちっさーの支えになればいいと思った。


ちっさーの最寄りの駅が近づいてくる。

「送ってくださって、ありがとうございました。」

速度を緩めた電車の中で、ちっさーは軽く笑って頭を下げた。
つないでいた手が離れる。

「ごきげんよう、舞美さん。」
ホームに降り立ったちっさーは、そのまま歩いて去っていこうとする。
「ちっさー!何か私、なんにもしてあげられなくてごめんね!でも私は、ちっさーのこと大好きだから!栞菜のことも!だから、」

電車のドアが閉まった。
私の大声に立ち止まったちっさーには、どこまで声が届いたかな。
頼りないリーダーでも、キュートのメンバーをいつも全力で愛しているこの気持ちだけは伝わっただろうか。

明日は久しぶりのオフだけれど、こんなに高揚した気分じゃのんびり過ごせそうにないな。
できたら、メンバーの誰かに会いたい。
そんな風に考えていたら、バッグの中でケータイが振動した。

「・・・・すっごい。以心伝心だ、とか言ってw」


立ち直りが早い性質の私は、ケータイを開いた時にはもう心のもやもやが8割消えてしまった。
えりから、“明日、お暇?ちょっとした計画がありまして”とのメールが来ていた。

もちろん!と返事を打ちかけて、私はふと思いとどまりケータイを閉じた。

明日会う前に、今日のちっさーのことをえりと電話で話そう。
行き止まりであたふたしている今の私のことを、えりなら、向こう側から壁を壊して手を差し伸べてくれる気がする。

「多分その計画、乗っちゃうよ。」

家に帰るまでなんて待てない。
降りる駅で電車のドアが開いたと同時に、通話ボタンを押した。
えりののんびりした可愛い声が耳に届く。

今日は何とか、穏やかな気持ちで一日を終えられそうだ。


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