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思えばえりかちゃんと千聖はちょっとおかしかった。

2人きり暗いところで無言で見つめあったり、えりかちゃんの変なジェスチャー(あれはたぶんおっぱいモニモニだ)に千聖が真っ赤になったり・・・・ああそうだ、仕事でホテルに泊まった時、千聖がフラフラになってえりかちゃんの部屋から夜中に戻ってきたというのもあった。

「えりかちゃん・・・!トロントロンて」
「わー!!無理無理無理!じゃあもうウチ行くから!千聖にヨロシク!じゃねー」
「ギュフー!」
えりかちゃんは私の口に残りの氷を押し込んで、2、3回コケそうになりながらレストランを出て行った。

「な、なっきぃ、何があったの?」
私の氷爆弾で赤くなったおでこをさすりながら、愛理が恐る恐るといった感じで聞いてきた。

「モゴモゴ・・・・ごめん、何でもないことだった。」
嘘です。何でもなくない。

私の頭には“不純異性交遊”“親の知らない中学生の危険な火遊び”“安易な行為の大きすぎる代償”等、保健体育の授業でならった恐ろしい単語がたくさん湧き出ていた。・・・いや、えりかちゃんは女なんだけど。
でも、でも、これは青少年の健全な発育の妨げとなって千聖の今後の人生観を歪めてしまって云々
「なっきぃ、顔怖いよう。」

・・・まあこの件に関しては、また後ほど個人的にえりかちゃんを問い詰めることにしよう。
今は栞菜と千聖の件が最優先だ。

「あれ、みんな何やってんの?」
私が延々と考え事をしてる間、3人は何か作業を始めていた。

「あ、なっきぃもう気が済んだ?手伝って手伝って!」
テーブルには飴玉がごろごろ転がっていて、舞ちゃんと愛理がなにやら選別している。

「あのね、これ・・・」
「へー!何かいいかも!」
舞ちゃんから聞いたそのちっちゃなサプライズに賛同した私は、さっそく作業の輪に入ることにした。


「いらっしゃいませー」
それから10分ぐらい経った頃、静かだった店内に、店員さんの声が響いた。
「ちっさー来た!伏せて!舞はうさぎで店員さんにサイン!」
みぃたんは大きい手で私と愛理の後頭部をつかんで、顔面をテーブルに押し付けた。
痛い。
みぃたん自身も勢いあまっておでこを強打したみたいだった。ゴスッとすごい音がして、乙女とは思えないうめき声が隣から聞こえた。
「みぃたん、大丈夫?ていうか、何で舞ちゃんはウサギ?」
「誰かが入ってきた時、舞がウサギを被ってオッケーサイン出したら、その子は窓際の席に通して欲しいって店員さんに言ってあるの。」
なみだ目のみぃたんが小声で説明してくれた。

「舞美ちゃん、千聖席に座ったよ!」
ウサギ越しの舞ちゃんの報告で、私たちは恐る恐る顔を上げた。」

なるほど、植物とパーテーションのおかげで、うまいこと私たちの姿は千聖から隠れるようになっていた。
その代わりこちらからも千聖の様子は見えづらいんだけど。
4人分の視界があるから、どうにか補えそうな感じだった。

「どう、舞。ちっさーどんな顔してる?」
「やっぱり元気ない。」
「あ・・・何か文庫本取り出したよ。」
タイトルを確認しようと思って身を乗り出したら、愛理があっと短く声をあげた。

「あれ、栞菜が千聖に貸してた本だ。もし栞菜のこと嫌いになってたなら、借りた本なんて読んだりしないよね。あのピンも、栞菜が千聖にあげたやつだよ。服もそう。私見てたもん。良かった、本当に。」
愛理はその時、ようやく心から嬉しそうに笑ってくれた。
特別仲の良い3人のうち、2人があんなことになったんだから、愛理の心苦しさは私たちどころじゃなかっただろう。
「愛理、よかったね。」
「もー!なっきぃが泣くとこじゃないじゃないか!本当に泣き虫なっきぃだなあ。」
「ごめん・・・」
「ありがとうね、なっきぃ。」
みぃたんが目に押し付けてくれたおしぼりは熱くて、とても気持ちが良かった。

それからしばらくは何の変化もなく、千聖は本を読んだりケータイを見たりしながら、ついには軽くため息をついてぼんやりし始めてしまった。
「あんまり、本に集中できる心境じゃないんだろうね。」
「そろそろ、これの出番かな。」
舞ちゃんがさっき作った“アレ”を軽く振った。

「そだね。じゃあちょっと、それ貸して。」
「えっ、みぃたんちょっと」

みぃたんは舞ちゃんから包みを受け取ると、おもむろに立ち上がって、大きく振りかぶった。


スコーン!

「キャアッ!?」

それは千聖の頭にクリーンヒットして、千聖は怯えた顔であたりを見回している。

「あの、お客様・・・そういった行為はちょっと・・・」
「あぁ~すみません!ついその、驚かせたくて。もうしません!」
私たちの一連の行動を見ていた店員さんが、苦笑しながら注意をしてきた。

「何やってんのみぃたん!何も投げることないじゃない!うさまいちゃんに届けてもらうとかさあ!」
「だめだよ、私じゃすぐバレちゃうよ。千聖は私のことならすぐわかっちゃうからね。ふふふふ」
何だその誇らしげな物言いは。うさぎごしに、にやついてる舞ちゃんの顔が想像できる。

「はは・・・」
愛理はあまりにも野性的な一連の行為に頭がついていってないらしく、乾いた笑いを漏らすだけだった。

「まあまあ、そんな小さなことはどうでもいいじゃないか!ほら、ちっさーが開けるよ、あれ」

千聖は困惑した顔で小包を拾うと、恐る恐るといった手つきでリボンをほどいた。
「わかってくれるかな・・・」

しばらく中身を見つめて、千聖は息を呑んだ。
沈んでいた顔に、柔らかな微笑みが広がっていく。

ちっさーの好きな、薄いブルーの包みには、色とりどりの飴玉を詰めてあった。

黄色、ピンク、オレンジ、緑、青、紫、赤。

えりかちゃんにはバレないようにって言われてたけど、私たちが見守ってるよっていう意思を伝えたかった。
私たちはいつも一緒だって、千聖を勇気づけてあげたかった。

千聖は少しキョロキョロした後、頭一つ出っ張ってるうさぎの舞ちゃんに目を止めた。
何かを察したみたいで、手でうさみみを作って“ピョンピョン”と合図を送ってきた。

「よかったね、舞ちゃん。」
「っ・・・別に?普通。」

こっそり頭を取った舞ちゃんの顔が、嬉しさのあまりニヤついて崩壊寸前だったのは見逃してあげよう。

「ちっさー笑ってくれたね。」
「そうだね。」

これ以上はもう、余計な手出しはしない。
根拠はないけれど、全てがうまくいきそうな気がした。

「栞菜来た。走ってる。また伏せて!舞はうさぎ!」
「オッケー。」

みぃたんの指示に従って、私たちは2人を見届ける準備を始めたのだった。


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