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どれぐらいの間、こうやって一人でいたんだろう。
物音一つしない部屋では時間の感覚はどんどん奪われて、全く見当がつかない。
私はこのままずっと、ここに閉じこもっていた方がいいのかもしれない。それがベリーズとキュートのためだと思った。


“千聖の気持ちはどうでもいいの?”


さっきの愛理の言葉がずっと胸に突き刺さっている。

元に戻ることこそが、千聖にも私たちにとっても一番いいことだと信じていた。
みんなで力を合わせれば、必ず元の千聖になってくれると思っていた。
千聖の今の状態が永遠に続くなんて考えたくなかった。

必死だった。

舞美ちゃんと一緒に千聖に関するマニュアルを作ったり、マンツーマンで元の千聖の振る舞いを教えたり、どうにかして私の千聖を取り戻したかった。

そこに今の千聖への思いやりは存在していなかった。
どんなひどい仕打ちも微笑んで許してくれていたのに、私は。
前の千聖と同一人物だって認められなくても、例えば新しいメンバーを迎えるような気持ちで、もっと優しく接してあげることぐらいはできたはずだ。
そうすれば、ゆっくりでも私はあの千聖と自分なりにしっかり向き合えたかもしれない。

「何でこんなことになっちゃったんだろう。」

今頃みんなは千聖を囲んで、これからのことなんかを話し合ってるかもしれない。
キャプテンはもちろん、面白い好きもののちぃや意外と面倒見のいいみやも、すぐに新しい千聖になじんでいくだろう。熊井ちゃんも、茉麻も、梨沙子も、ももちゃんも、千聖にとって一番いいことをキュートのみんなと一緒に考えてくれるはずだ。

自分の気持ちを優先していたのは、私だけ。
そんな私に、千聖のことを偉そうに主張する権利はない。

「千聖・・・・」

手を見つめれば、さっきの千聖の体温がよみがえる。
もう一度千聖に触れたい。
前の千聖に戻らなくても、千聖が千聖であることを確認させてほしい。
忘れることなんてできないけれど、私に前へ進む勇気を与えて欲しい。



その時、うつむいていた私の視界が急に翳った。
顔を上げる。


「嘘・・・・・・・」



どうして。

どうして、私の居場所がわかってしまうんだろう。

どうして、私が今一番望んでいることがわかってしまうんだろう。

あんなにたくさん傷つけたのに、どうして。



「舞さん。」


いつもと変わらない、穏やかな顔をした千聖が立っていた。


半月型の優しい瞳が、私を見つめる。
先の丸っこい可愛い指が、私の前髪をいたわるように撫でる。

「何でここがわかったの?」
「・・・自分でもわからないわ。でも、わかったのよ。舞さんの居場所が。不思議ね。」

千聖は上品な仕草で、私の横にそっと腰をおろした。

「もうみんなに話したの?」
「いいえ。私からは何も。皆さんとお話するよりも、私は舞さんを探したかったから。ベリーズのみなさんには、舞美さんたちがご説明をしてくださるみたい。」
「千聖・・・・・」

一人になりたい。でも誰かそばにいてほしい。
そんな私の矛盾した気持ちに、千聖だけは気づいてくれたんだ。
私はまた、無意識に千聖の手首を掴んでいた。

「ここにいて。」

「ええ。」

「舞のそばにいて。」

「ええ。」

千聖は手首を握る私の手の上にそっと手を重ねた。私はまだ空いている方の手で、ゆっくりと千聖の顔に触れた。

「くすぐったいわ。」

長いまつげ、あったかいほっぺた、丸い鼻、形のいい唇。
私の指先が私の心に、この人は岡井千聖なんだと伝えてくる。


“舞ちゃん。”
“舞さん。”


前の千聖と、今の千聖の笑顔が、頭の中でゆっくりと重なっていく。

私は千聖の手を取った。
そのまま、2人の手を千聖の胸に押し当てた。
「ごめんね。千聖、ごめんね。前の千聖の心も、ちゃんとここに入っているのに。私はわかっていたのに、認めたくなかった。・・・・いなくならないで、千聖。」



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