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あまりの恐怖で私が腑抜けになっているうちに、あれよあれよとDVDマガジン撮影前日が来ていた。
なっきぃとは平日のレッスンで何度か顔をあわせたけれど、特に何も言わない。
強いて言えば、私が千聖に近づこうとするといきなり立ちはだかって「・・・・みかん、食べる?」とみるからにすっぱそうなやつを差し出してくるのがとても恐ろしい。あれは魔よけか。私は魔物なのか。

大体、なっきぃは明らかに誤解している。
何も私と千聖はそういうアレをしなくても仲良しなのに。今のままじゃ普通の会話を楽しむこともできない。
ちょっとガクブルだけれど、明日はしっかりなっきぃに話そう。
それで、もしなっきぃに説得されて私も納得できたなら、千聖とのあの行為もやめよう。


・・・と思っていたのだけれど。


♪♪いっさっまっしいー輝きの方へー


荷物の準備をしていた私の耳に、千聖専用にしていた着メロが鳴り響いた。

「もしもし?」
“あ・・・えりかさん”

受話器の向こうに、ちょっとフニャフニャした可愛い声。和むなあ。

“2人だけでお話しするのお久し振りですね”

「だねー。」
なっきぃのおかげでな!

“何か、声をお聞きしたいなって思って”
「千聖ぉ。」

それからしばらく、他愛もない話で盛り上がった。
ファッションの話、メイクの話、料理の話。
あんまり長電話しない千聖相手に、2時間近く喋ってしまった。
千聖栞菜問題もあったから、こういう時間を過ごすの本当にご無沙汰だったんだな・・・と改めて実感した。
「長くなっちゃったね。朝早いし、この辺にしとこうか。明日また話そう。・・・話せたら。」
“ええ。とても楽しかったです。・・・あ、あの、えりかさん”
「ん?」

千聖は小声で私の名前を呼んだっきり、受話器の向こうで黙り込んでしまった。

「どうしたの?まだ話せるよ?」
“えと・・・あの・・・・その、前に、えりかさんが電話でおっしゃってた、あの”
「うん?」

“・・・その、す、すごいこと、してくださるって、あの”

・・・きたか。ついにこの話題が。

「あー・・・そのことなんだけどね、」
“あの、わ、私、すごく楽しみにしてます。明日お泊りですから、その、えと、いっぱい・・・”

・・・・・・・あ、ごめんなっきぃ無理だわ。お嬢様死ぬほど可愛いっちゅーねん。

「ウチも楽しみだよっ!明日は楽しみにしててよ~えりかスペシャルでひーひー言わせてあげるから!」
きっと今、お嬢様は顔を真っ赤にして一生懸命喋ってる。そんな健気な気持ちを拒む理由なんてどこにもない。

てやんでぇnkskこんちくしょう!私は千聖と夜通し気持ちいいことするんでぃ!

「・・・・あ、おはようございます、なっきぃさん。」
「キュフフ?何で敬語?おはようえりかちゃん。」

わーんヘタレえりかのばかばかばか!

昨日の夜の威勢はどこへやら、事務所の駐車場前でたたずむなっきぃの姿を発見した途端、シザーマンなっきぃの妄想がよみがえった。
きっと私が犬だったら、しっぽ巻いて耳をペタンコにしているところだ。

「今日はいっぱい話そうね、えりこちゃん♪キュフ、キュフフフフフッフファア!」

ひぎぃ!
ヤバイ。なっきぃは本気だ。キュフフの高笑いなんて初めて聞いた。

♪タラララン タララララン タラララランラン タララララン

笑い続けるなっきぃの声にあわせるように、タ○リさんでおなじみのあの恐怖のBGMが流れている。
ウチ、生きて帰れるの・・・?


「あ・・・えりかさん、早貴さん、おはようございます。」

その時、後ろから春のひだまりみたいな柔らかい声で名前を呼ばれた。

「おはよう、千聖。またそのワンピース着てくれたんだ。」
「ええ、栞菜も似合うって言ってくれるんです。このワンピース、大好きです。早貴さん本当にありがとう。」
「キュフフ、千聖にあげてよかった。」

なっきぃはさっきまでの恐ろしい顔を封じ込めて、千聖の黄色いリボンのワンピースを優しく撫でた。

「うん、本当似合うね。」
お調子に乗って私も千聖に触れようとすると、伸ばした手のひらに丸い感触。

「んん?」
「みかん、食べる?」

「い、いや、今はいi」
「み  か  ん  た  べ  る ?」

「・・・・・・・・・食べますぅ」
私は半泣きで、その青々とした明らかに食べごろでない固いみかんを受け取った。

「まあ、えりかさんうらやましいわ。」
「キュフフ、千聖にもあげるよ。」

視界の端に、よく熟れた甘そうなみかんを受け取る千聖が映った。


「おーい、えりたち、出発するよ!乗って乗って!」
「はーい。行こ、えりこちゃんも千聖も。2人ともなっきぃの隣ね。キュフフ」

腕を引っ張るなっきぃの手が妙にひんやりしている。


こうして私の地獄の一泊旅行は幕を開けたのだった。



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