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「あれっちっさーは?」

結局千聖を残して先に外へ出た私を見て、舞美が首をかしげた。

「うん、後で来るって。」
「そっか。じゃあ、今適当に円になってやってるからどっか入って?」
「うん・・・」
結果的に千聖を傷つけることになってしまって、私はものすごく落ち込んでいた。だから気が入らず、あんまり考えもせずに、一番近くの輪の切れ目にお邪魔してみた。

「えりこちゃん。」
「うぅっわ!」
しまった。すぐ右側になっきぃがいて、にっこり笑っている。
いつもはリスやネズミみたいで可愛いその笑顔が、今日はホラーがかっている。怖い。

「キュフフ、そんなに警戒しないでよぅ。この位置関係じゃ、えりこちゃんになっきぃスマッシュくらわすことはできないでしょ?」
なっきぃは飛んでくるシャトルを器用に返しながら、淡々とした口調で語りかけてくる。

「・・・私はね、えりこちゃん。」
「は、はい。」
「千聖に悲しい顔をさせたくないわけ。えりこちゃんは遊びのつもりで千聖にいろいろしてるのかもしれないけれど、えりこちゃんは千聖の未来を破壊してるかもしれないんだよ。」
「破壊って、」
「だってそうでしょ。今の千聖はまだ赤ちゃんみたいなものなんだよ。その透明で綺麗な心に、えりかちゃんが勝手に変な色をつけたら、千聖は、千聖は・・・」

いつのまにかなっきぃはポロポロと涙をこぼしていた。泣き虫なっきぃの通り名はだてじゃない。
「ど、ど、どうしたの!なっきぃ?羽根でも目に入った?」

あわてて駆け寄ってくるメンバー。誰もさっきの会話を聞いていなかったみたいで、私に事情を聞いてくる人はいない。

「・・・ん、ごめん。大丈夫。ちょっと目洗ってくるから。」
なっきぃは男らしくぐぃっと涙を拭うと、一人で水道の方へ走っていった。

「どうしたんだろうねー。」
「おなかでも痛くなっちゃったかな?」

なっきぃの体調を案じるみんなの会話に、私は入ることが出来なかった。

私は、千聖をおもちゃにしていたのか。そんなつもりはなかったけれど、少なくともなっきぃにはそういう風に解釈されてしまった。
基本的に先のことは考えない性格の私は、今この瞬間、千聖と私が気持ちよくて楽しいならそれでいいと思っていた。誰に迷惑をかけているわけでもないし、私がしていることはそんなにたいしたことじゃない・・・・はず。
それでもさすがに今のなっきぃの言葉は重くて、私もさらに気持ちが落ちてきてしまった。

「えりかちゃん、千聖遅いね。もうそろそろ集合時間なのに。」
いつのまにか栞菜が私の横に移動してきていた。

「あ・・・うん。ウチ迎えに行って来る。」
「あっ、そうだ、えりかちゃん。いつでもいいんだけど、今日ちょっと話があるんだ。」
「ウチと?・・・うん、時間あったらね。」

上の空なまま、栞菜をあしらってしまったけれど、私はふと栞菜がなっきぃと同じ部屋だったことを思い出した。あと、舞美も。
まさか、なっきぃから二人に話が?・・・いや、なっきぃはまだ不確定なことを勝手に他人に喋ったりするタイプじゃない。口が固いからこそ、ああやって一人で重く受け止めてしまうんだろう。
まあ、どちらにしても後でわかるか・・・

私は急ぎ足でコテージに戻った。
「千聖?」

玄関で名前を呼んでみても、返事がない。ベッドにも、椅子にも姿がない。

「千聖、どこ?」
靴を脱いでベッドの淵に回りこむと、膝を抱え込んだ千聖がちっちゃくうずくまっていた。

「千・・・」

覗き込んだ千聖の顔は、あの虚ろな表情になっていた。
何も映さない、一人ぼっちの世界に入ってしまったときの顔。

どうしよう、私があんな放り出し方をしたから辛くなっちゃったんだ。物みたいに扱われて、それで「寂しい」なんて言ったんだ。

「ごめん、千聖。私が無神経だった。戻ってきて。」
いつもならゆっくり時間をかけて体に触れて千聖の心を取り戻すのだけれど、今はそこまでしていられない。
髪を撫でて、ほっぺたを寄せて、私の体温をわける。

「・・・・えりか、さん・・・・?」
いつもよりさらに悪いかつぜつで、千聖が私の名前を零す。あと一息かもしれないけど、もうタイムリミット。

私は千聖の顎を指で救って、顔を上げさせた。

少し茶味がかったその瞳を見ないように目を閉じて、ほんの一瞬だけ、唇と唇をくっつける。
本当に触れるだけだったから、唇の感触なんて全然わからなかった。ほっぺにキスするのと同じようなもの。
でも、

ああ、これだけはやっちゃいけないって決めてたのに・・・

顔を離すと、みるみるうちに千聖の瞳に光が戻る。

「・・・あの、今」
「特別だからね。もうしないから。梅さんキスするの嫌いなんだよ。それより、早く行こう。もう時間だから。」
「・・・・・・はい。」

おずおずと差し出してきた手を取って、玄関へ向かう。
千聖の顔がほんのり色づいて、はにかんで微笑むのが視界の端に映る。私はますます、自分のしていることが正しいのか間違ってるのかわからなくなってしまった。



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