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何を言われたのかわからなかったのか、千聖はしばらくぼんやりした顔で私を見つめていた。

「千聖、もうこういう関係はやめよう。」

私はもう一度、千聖の目を覗き込んで言った。みるみるうちに顔色が変わっていく。
「どうして・・・」
「千聖、栞菜と愛理に何か言われたんでしょ?千聖は・・・ウチのこと好きなんじゃないか、とか。」
「・・・」

何も答えないことが、逆に私の問いかけを肯定しているようなものだった。

「千聖は、舞美のことも、なっきぃも、舞ちゃんも、愛理も、栞菜も、みんな好きでしょ?
だから、なにもウチだけを特別に好きなわけじゃないんだよ。」

千聖は必死で首を横に振って否定する。私は千聖をまっすぐ見ることができなくて、眉をひそめるその悲痛な顔を、自分の肩に押し付けた。
「千聖は恋をしてみたかっただけなんだよ。たまたまみんなと違う、気持ちいいことしてくれる“えりかさん”が側にいたから、ウチのことを恋愛対象だって錯覚しちゃっただけ。
栞菜や愛理もそれを支持してくれたから、気持ちが盛り上がっちゃったんだよ。」
「違う・・・」
「違わない。千聖、これからいくらでも好きな人とか見つかるんだから、ウチなんかを好きだなんて思っちゃダメ。」
「違います、」
「ごめんね。ウチが調子にのって変なことするから、千聖を混乱させちゃったんだね。」
「えりかさっ・・・どうして・・・・ひどい・・・・・」

千聖の声がかすれていくのを聞きながら、私は泣いていた。
自分の心に嘘をつくことが、こんなに苦しいとは思わなかった。

きっと、私は千聖のことを好きなんだろう。
そして、千聖も本当に私のことを。
だからこそ、千聖の傷が浅いうちに離れなければいけない。


千聖の瞳が押し付けられた肩が生暖かく、じわじわと濡れてきた。
2人の心が共鳴してるみたいで、よけいに切なかった。

「千聖、ウチとこんなこと続けてたって、未来がないよ。ずっと今のままじゃいられないんだよ?」
「・・・・っそんな、の・・・先のことなんてっ・・・私は、今・・・えりかさんと」
「そういう生き方、千聖には似合わないよ。」

私は今まで、やりたいことを好きにやりながら気ままに生きてきた。
でも今回ばかりは、あまりにも責任が重過ぎる。

千聖が私とこの関係を続けていくことで、何か大切なものを失ってしまうような気がして怖くなった。
なっきぃの言うように、千聖の未来を破壊してしまう行動だったのかもしれない。

「そんな顔しないで。ウチは、千聖のこと嫌いになったんじゃないよ?ただ、もうエッチなことするのはやめようってだけの話。
別に、こういうのしなくても、ずっと仲良しだったでしょ。そういう関係に戻りたいの。
・・・・私は、千聖のことを、恋の対象にはできないから」


嘘。
また胸が小さく痛んだ。


5分、10分、沈黙のままに時間が流れていく。


「・・・・・・わかり、ました。」

千聖は消えそうな声で、ポツリと呟いた。

「困らせてごめんなさい。」
千聖は私から体を離して、フラフラと自分のベッドの方に歩いていった。

「千聖?」
「寝ますね。・・・おやすみなさい。」
振り返った千聖は、無理矢理唇を微笑む形にしていた。力のない瞳が、涙の余韻で不自然にキラキラ輝いている。

「うん・・・おやすみ」

千聖はたどたどしい動きで、布団の中にもぐりこんだ。
「電気、消すね。」

私は小さな電球一つでほの暗くなった部屋を出ると、ユニットバスの栓を抜きながら一人でワンワン泣いた。
どうして、と思うほど心が乱れて、しゃくりあげる声が止まらない。
知らないうちに、こんなに好きになっていたのに、もうどうしようもない。
「ごめん、千聖。」
排水溝に吸い込まれていく水と一緒に、私の涙も消えてくれればいいのに、と思った。


何とかえづく声が治まってから、私は部屋に戻った。
薄暗い部屋の奥のベッドで、千聖が胎児みたいにうずくまって眠っていた。
最近大人っぽくなったと思っていたけれど、瞳を閉じた顔はまだ子供みたいにあどけない。
私はベッドサイドに座り込んで、千聖を見つめた。
もう触れることはできないけれど、せめてこうやって、寝顔を見守ることだけは許して欲しい。
千聖のベビーパウダーみたいな香りを感じながら、私はいつしか目を閉じていた。

「えりかさん・・・そろそろ、起きないと」
「ん・・・?」

優しい声が耳をくすぐって、目が覚めた。
朝になっていたみたいだ。淡い紫色のキャミソールを着た千聖が、私を覗き込んでいた。
「えりかさんたら、ベッドから落ちて床に寝てらしたのよ。」
「あ、本当?気付かなかったよ、ハハハ・・・」
まさか、千聖のベッドからずり落ちましたとはいえない。
いつもどおりの優しい笑顔だったけれど、少し赤く腫れたまぶたが、千聖がひどく泣き続けていたことを物語っていた。

「私、舞美さんたちのお部屋に行っていますね。鍵をお願いします。」
「あ、千聖」

ゆっくり振り返った千聖が、口を開いた。
「いろいろ考えました。私・・・やっぱりえりかさんのことが好きです。もう私に触ってくださらなくても、それでも好きです。だから」
昨日までとは違う、しっかり意思を持った強い瞳が私を射抜く。

「まだえりかさんを、好きでいることを許してください。」

私が絶句している間に、千聖はぺこりと頭を下げて部屋を出て行った。
千聖は私が思っていたよりもずっと、純粋で、たくましくて、逆境に強い子だった。そう、前の千聖のように。
千聖のためと言いながら、自分が傷つくことから逃げていた私とは大違いだ。
私がまず向き合わなければいけなかったのは、千聖本人じゃなく、自分自身だった。

もうすぐ集合時間になってしまう。

私は着替えをしながら、ハンズフリーで電話をかけた。

「もしもし?おはよーえりかちゃん。どうしたの?」

「うん、おはよう、舞ちゃん。昨日の話なんだけどね・・・・」



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