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~プロローグ~


「栞菜、学校変わってもうちらの友情は永遠だからね!」
「毎日メールするから!」

友人達に笑顔を返しながら、私はひそかにため息をついていた。

私は明日、通いなれた中学校を離れる。
とても急な話だった。
お父さんが仕事で海外へ行くことになり、お母さんも同行することになった。
本当は私も連れて行く予定だったらしいけれど、散々ゴネた結果、寮のある学校に転校することを条件に、日本に残ることを許してもらったのだった。

「ごめんね、もっと早く転校のことわかってたら、ちゃんと送別会できたんだけどさ。お金なくて。」
「ううん、嬉しいよ!プレゼントとか手紙、ありがとうね。」

今日は仲が良かったグループの子達が、急遽簡単なお別れ会を開いてくれた。学校の近くの“いつものファーストフード”の一角を陣取って、ハンバーガーをパクつきながら、思い出話に花を咲かせていた。

・・・あーあ、どうしてこんな時期に転校なんて。
現在中学3年生。このまま何事もなければ、普通に地元の公立高校でも受験して、普通の高校生活を満喫する予定だったのに。
わざわざ中高一貫の女子校に編入させられた理由は、推して知るべし。海外への同行を拒んだ私に、それなりに規律ある学生生活を送らせるためだろう。

「でもさ、女子校ってどんな感じなんだろうね。しかも寮とか!」
「女だらけだと、イジメとかキツイらしいじゃん!栞菜大丈夫?結構人見知りじゃん。」
「あんた、暗いんだよ!とか言われてさぁ」
「えぇ~・・・ちょっと、やめてよー」

いつものみんなの冗談が、今日はさすがに胸に刺さる。ちょっと笑えないぞ、それ。

「でもさ、何かあったら、栞菜はいつだってここに戻ってきていいんだからね!」
「うん、ありがとう・・・」

今はそんなこと言ってたって、みんな時間が経てば、私がいない日常に慣れていってしまうんだ。
仲良し5人組が、4人になるだけ。たまにふと思い出しても、“ああ、こんどメールでもしようかな”で、結局何もせずに終わっちゃったりするんだろう。
・・・あ、嫌だな私。せっかく私を気持ちよく送り出してくれようとしているのに、何考えてるんだろう。


「ねえねえ、ちょっと。」

急に、隣の席の友達が耳打ちをしてきた。
「あそこにいる子、さっきからずっとウロウロしてるんだけど。どうしたんだろう。」
指差す方をこっそり見てみると、小柄な女の子が目に入った。
「友達探してるんじゃない?」
「でも、もう結構ずっとああしてるよ。・・・わ、ヤバい!目があっちゃった!」

友達はあわてて目を逸らしたけれど、その子はどんどんこっちへ近づいてくる。
通路にいた私の横で止まると、困ったような顔でこっちを見つめてきた。

「あの、何か?」

背が小さかったから、遠めに見たときは小学生ぐらいかと思ったけれど、顔立ちはわりと大人っぽい。同い年ぐらいかもしれない。

「・・・・私、どこに座ったらいいのかしら?」
「は?」
「お店の方に聞いたら、お好きな席へどうぞと言われたのだけれど・・・好きな席と言われても。初めて来るお店ですし」
「はぁ・・・」

ふざけている感じじゃなく、本気で困惑している口調だった。友達もみんな、ポカンと口を開けて彼女の顔を見ている。

「・・・空いてる席に座ればいいんじゃないかと。」
「空いている席、ですか?」

「あの!良かったら一緒に食べない?」

せっかく友達が誘導してあげていたのに、気がついたら、私は挙手と同時にとんでもない申し出をしていた。
「栞菜!?」
「あ、ごめん。何か、つい・・・ダメかな?」
「いや・・・栞菜がいいならいいよ。栞菜のお別れ会だし。」
「うん、私も。」

そんなわけで、私は席を一個ずれて、その不思議な女の子にお誕生日席を譲った。

「まだ注文してないの?」
「え?」
「あー、いいよいいよ。いっぱい頼んじゃったから、これあげる!まだ手付けてないし。」

何だか不思議な子だ。妙に世話を焼きたくなって、私は近くに置きっぱなしだったポテトとカフェオレを手渡した。
「ありがとうございます。親切にしていただいて、嬉しいわ。」

あ、可愛い。黙っている時の顔は少し近寄りがたい雰囲気だったのに、ニッコリ笑うと一気に幼くなって、私達は何だか和んでしまった。

「あの、先ほどどなたかのお別れ会とおっしゃってましたけれど・・・?」
「あ、うん私。転校することになったの。」
「女子校に行くんだよ、この子。だからイジメとか怖そうって話してたの。」

もともと知り合いだったかのように、彼女は自然に輪の中にすんなり入ってしまった。私達の説明に、ちょっと首を傾げながら聞きいっている。

「いじめですか?私、女子校ですが、特に聞いたことはありませんけれど・・・あぁ、生徒会長たちが素敵な人たちだから、生徒たちもそれに倣っているのかもしれないわね。」
ん?何だろう、微妙に上から目線っぽい?生徒たち、ってあなたも生徒じゃない?

「それに、きっとあなたはいじめられたりする人じゃないわ。とても優しそうだもの。」
その子はお姉さんみたいな顔で微笑んで、私の髪をサラッと撫でた。
「そ、それはどうも・・・」
「あ・・・ごめんなさい。私、もう行かないと。そろそろ見つかってしまうかもしれないですし。このポテトフライ、おいしかったわ。ありがとうございます。」

お財布からお札を出して、彼女はいそいそと席を立った。
「いいよ、お金なんて。」
「いえ、親切にしていただいた御礼です。お世話になりました。」
ぺこりと一礼して離れていこうとするその女の子に、私はもう一度だけ声をかけた。

「ねえ、また会える?」
「ええ、きっと。」
「名前聞いてもいい?私は栞菜。」
「チサトです。・・・カンナは、お花のカンナかしら?ぴったりのお名前だわ。」
チサトちゃんはまたにっこり笑って、今度こそ振り向かずに店を出て行った。

「・・なんか、不思議な子だったねー。ていうか、栞菜めずらしいじゃん。初対面なのにあんな喋って。」
「うーん。何か元気もらえたし。私転校先でも頑張れそう!」
今度の学校にも、ああいう子がいてくれたらいいな。ていうか、連絡先聞いておけばよかった。名前だけじゃどうにも・・・

「ああっ!ちょっと、あの子万札置いていっちゃったよ!間違えたんじゃない?」
「いや、本気だったりして・・・いかにもお嬢様って感じだったし。」
「どっちにしろ、これは返さなきゃまずいよ」

・・・ん?

みんなの視線が、私に集まる。

「栞菜!これ、あんたが預かってて!」
「えぇっ何で!?」
「ほら、元気もらえたって言ってたじゃん。これはあの子からのお餞別だよ。」
「もー、メチャクチャ言って・・・・わかった、預かるだけだよ。」

私はしぶしぶ、ご丁寧に封筒に入れられたお札を受け取った。

「あ・・・!」
「どうしたの、栞菜?」

信じられない。こんな偶然があるなんて・・・・

桜のロゴが入ったそのピンクの封筒には、私の転校先の学校の名前が入っていたのだった。



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