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翌日の午後、私はお父さんの車に揺られて、転校先の女子寮へやってきた。

「有原栞菜さんですか?お待ちしてました、どうぞこちらへ。・・・どうかされました?」
「あ・・・いえ、とても綺麗な建物なので、びっくりしてしまって。」

格安と聞いていたから、かなり質素なアパートみたいなのを想像していたけれど、まるで小さな洋館だ。
クリーム色の外壁に、鋭い三角形のこげ茶の屋根が2つ。大きな出窓と、ステンドグラスの小窓がたくさん散りばめられている。中央の大きな扉の向こうは、いったいどんな内装になっているのか想像もつかない。
女子寮なだけあって、外から中の様子が見えないように、建物全体が蔦の絡まるレンガの塀で囲われているのも新鮮だった。

「じゃあ、しっかりやるんだよ、栞菜。こまめに連絡するから」

荷物を車から出すと、お父さんはあわただしく引き返していった。どうやら飛行機の出発時間が迫っていたみたいだ。
あっという間に一人ぼっちになってしまった私は、急に寂しくなってきてしまった。
こんな、誰一人知ってる人のいない空間で、上手くやっていけるんだろうか。


「有原さん?それじゃ、ご案内しますね。荷物、持ちましょうか?」
「あ、大丈夫です。トランク一つなので。」

さっきは建物に気をとられていてあんまり意識していなかったけれど、私を出迎えてくれたのは、同い年ぐらいの女の子だった。
柔らかそうな黒髪に、優しげな印象の黒目がちな瞳。色白で、華奢で、品があって、まさに「女の子」という感じのその子は、顔をまじまじと見つめる私を興味深そうに見つめ返してきた。
「何か?」
「えっ!いやー、何か可愛いなあって思って。だって白いし、細くてお人形っぽいから」
気がついたら変なことを口走っていた。

ああーもう!やっちゃった。これじゃこの学校でもレズキャラにされちゃう。
私は可愛いとか綺麗な人が大好きだから、ついついストレートに口に出してしまう。
共学だったときはネタにされるぐらいで済んだけれど、ここは女子校。めったなことは言わないようにしよう。

「えー私が?そんな、いやだ。ケッケッケ」
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、目の前の彼女はちょっとはにかんで、体をクネクネさせた。
変わった笑い方だな。リアクションも何か普通じゃない。完璧なお嬢様っぽく見えていたけれど、案外面白い子なのかもしれない。

「そうだ、自己紹介をしていませんでした。私、鈴木といいます。中等部の2年生なので、有原さんよりも一つ年下ですね。一応、環境委員長をやっています。」
「環境委員?」
「前の学校には、ありませんでしたか?有原さんのように転校してきた方を案内したり、普段は校内を見回って、不備がないかチェックしたりするのが仕事なんですが。」
「えーっと、多分美化委員かな?」

私と鈴木さんは、不思議と会話のテンポが合うみたいだ。彼女がクラスメートだったら、心強いのになあ。でも年下だから、あんまり交流は期待できないかも。せっかく仲良くなれそうなのに、残念。

「あ・・・じゃあ、中を案内しますね。鍵、開けるので先に入ってください。」
鈴木さんにドアをささえてもらってる間に、私はすばやく中へ入った。

「う・わー・・・」


ある程度予想していたとはいえ、そこはまるで異空間だった。
高級ホテルのように、深いワインレッドのじゅうたんが敷き詰められたエントランス。
だだっ広いそこには鎧や骨董品の壷、アンティークの人形なんかがガラスケースに収められ飾られている。
私みたいな庶民にも、これが超高額なコレクションであることは何となく理解できる。
2階まで吹き抜けの天井には大きなステンドグラスがはまっていて、午後の太陽を優しく遮りながらキラキラ光っている。

「有原さん?・・ごめんなさい、私部屋の鍵を持ってき忘れていました。管理塔すぐそこなので、ちょっと待っててもらえますか?」
「あ・・・はい」
私は上の空で、鈴木さんの話を聞き流してしまった。
・・・・こんなところで生活するなんてありえない。絶対なじめない。
早くもホームシックにかかってしまった私は、気をまぎらわすために少し探検をしてみることにした。

エントランスの正面には大きな階段、両脇にはそれぞれ大きなドアがある。
右側のドアを開けると、そこは食堂だった。いうまでもなく、テーブルや椅子はアンティーク仕様になっていた。奥には大きなキッチンも見える。
続いて左の端のドアを開ける。そこは庭への出入口になっていた。
私は外へ出て、キョロキョロ辺りを見回した。すると、寮のすぐ裏手に大きなレンガ造りの建物がそびえ立っているのがわかった。

「・・・学校と寮って、こんなに距離近いんだ・・・」

前に通っていた学校より1回りぐらい小さく見えるけれど、私立の女子校だから、こんなものなのかもしれない。
玄関を無視してこの庭への出入り口を使えば、5分もしないで学校に行けそうだ。

「あら、有原さん?」
玄関の方から、鈴木さんの声が聞こえた。

「あっごめんなさい!今行きます」
「ああ、庭を見ていたんですか。いいですよね、そこ。日向ぼっこにぴったり。私、休日はいつもそこで読書してるんです。」

「えっ・・・じゃあ鈴木さん、もしかしてここの」
「はい、私もこの寮に住んでます。」
「嘘ー!?良かった、私心細くて!でも鈴木さん一緒なの、すごく嬉しい!」
私は飛び上がらんばかりに喜んで、鈴木さんの両手を取った。

「愛理、って呼んで下さい。私も有・・・栞菜さんが来てくれて嬉しいです。よろしくお願いします。」
「私も栞菜でいいよ。」
一応私もそう申し出てみたけれど、愛理はあいまいに笑うだけだった。もしかしたら、上下関係に厳しい学校なのかもしれない。

「そうだ、愛理に聞きたいことがあるんだけど。」
「聞きたい事?」
2階へ上がる階段の途中で、私たちはまたおしゃべりを始めた。

「ここの学校の子なんだけど、チサトさんって知ってる?多分中等部だと思うんだけど、背がちっちゃくて、目は切れ長で、肌はどっちかっていうと色黒で、髪は肩ぐらいで・・・」

愛理の足が、ピタッと止まった。あっけにとられたような顔で、私を見ている。
「・・・どうして、千聖お嬢様のことを知ってるの?」

「え、あ、知り合いなの?良かった、実は・・・」


私は昨日の出来事を、愛理に話した。

「・・・そうだったんですか。だから、なっきぃはあんなに昨日怒って・・・」
「えと、愛理?」
「あ、細かいことは後で話しますけれど、さっき、中庭からレンガの大きな建物が見えたでしょう?」
「うん、学校でしょ?」
「学校?ううん、だってここは岡・・・千聖お嬢様のお家の敷地内だから。学校は、ここから10分ぐらい歩くの」
「てことは・・・」

私の背中を、冷や汗が滑り落ちた。


「あれは学校じゃなくて、千聖お嬢様のお屋敷なの。」



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