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「お嬢様のご両親が、この寮の管理運営をなさってるのね。ちなみに千聖様のお父様は、大きな会社の副社長さんなんですよ。」
そう言って愛理が教えてくれた会社の名前は、本当に超有名なものだった。
「信じられない・・・」
確かにファーストフード店を彷徨うチサトさんは、明らかにあの場から浮いていた。仕立てのよさそうなふわふわの白いセーター、グレーのプリーツスカート、アイボリーのファーコート。
お上品な格好が良く似合っているなあ、なんて思っていたけれど、まさかここまですごい子だったとは想像できなかった。あんな人懐っこそうな笑顔で、スーパーお嬢様だなんて卑怯な!

「私、冷めたポテト食べさせちゃった・・・・どうしよう、退学になっちゃったら」
「ええ?まさかぁ、だってお嬢様が食べたいって言ったんでしょう?心配しすぎですよ」
愛理はそう励ましてくれたけれど、私の胃はキリキリと痛んでいた。

この女子寮だけでも十分庶民レベルを逸脱しているというのに、あんなおっきいお屋敷に住んでるなんてただごとじゃない。

「大丈夫ですって。それより、お部屋にご案内するからついてきてください。」
愛理は再びのんびりと階段を上がり始めた。どうやら2階が学生の部屋らしい。

「今はみんな部活や生徒会活動でいないけれど、普段はもっとにぎやかで楽しいんですよ。いつも誰かの部屋に集まったりして」
そう言いながら、愛理は一番奥の部屋を開けた。
「ここが栞菜さんのお部屋です。こっちが学習室、こっちが寝室。食事はみんな一緒に取る事になってるけれど、簡単なキッチンはついてるから、お料理は部屋でも作れますよ。
あと奥に洋室もありますから、何か趣味のお部屋にでも・・・栞菜さん?」
「・・・・ははは。」

もう、笑うしかない。どこの高級ホテルのスイートですか、ここは。
調度品は見るからにセレブ仕様、“簡単なキッチン”はコンロが3つに広い調理台。ベッドなんてこれ、3人ぐらい一緒に寝れるんじゃないかってぐらい大きい。
さらに猫足バスタブ・シャワートイレがついてるこの部屋が学生寮だなんて、お金持ちの考えって一体・・・

「ここ、競争率高いんじゃない?だってこんなすごい設備で、お家賃はすっごく安いんでしょ?お父さんがそう言ってた。」
「あぁ、それは」
愛理は窓際まで移動して、私に手招きをした。
窓の外には相変わらず、チサトお嬢様のお屋敷がそびえたっている。

「ここに住むにはいろいろ条件があるんです。例えば学業優秀だったり、スポーツ特待生とか、模範生に選ばれた人・・・後は・・・千聖お嬢様が、特別に気に入ってる生徒とか。」
「ええっ!そんなのって」
「あ、言い方が悪かったです。つまり、千聖お嬢様と一緒にいる時間が長くなるから、やっぱりそこはお嬢様の意思が反映されるというか」
「一緒にって?チサトお嬢様もここに住んでるの?」
「あれ・・・あの、もしかしてご存知ないんですか?」

愛理は私の方にまっすぐ向き直った。

「ここの生徒は寮に安く住む代わりに、千聖お嬢様の身の回りのお手伝いをしているんです」


「えええええ!?聞いてない!ていうか私なんかじゃ無理だよ!お嬢様に迷惑かけちゃう!」
お父さんめ!大事なことはうまくボカして言わないんだから!

「あ、あの落ち着いて?下行きましょう、お茶入れますから。」
ヒステリーを起こしかけた私を、愛理が優しく宥めてくれた。
連れ立って食堂に入っていくと、奥のテーブルに2つの影。何やら話し声が聞こえてくる。
「あ、お嬢様だ。ちょっと待ってて、ご紹介を・・・」
「あーっちょっと待ってお嬢様!!ちゃんと書いてくださいね!明日確認しますからね!」
「嫌!私は悪いことなんてしてないのに」

愛理が2人の方へ近づこうとしたら、急にチサトお嬢様が立ち上がった。ドスドス足音を立てて、こっちへ向かってくる。

それはまぎれもなく、昨日ご一緒したお嬢様だったのだけれど。
あのおっとりした雰囲気は消えていた。眉間にしわを寄せて、唇をかみ締めている。
深い茶色の瞳が泣きそうに潤んでいて、何だか胸がキュンと痛くなった。
あれだ、漫画とかでよくある、捨てられて雨に打たれた子犬みたい。

そんなことを考えてるうちに、お嬢様はあっという間に私たちの間を通過してしまった。

「あっ千聖お嬢様。こちら、今日から・・・」
「愛理・・・なっきぃが、意地悪を言うの。でも、千聖は謝らないわ。・・・後でおしゃべりしましょう、私のお部屋に来てね。」

チサトお嬢様は私のことなんて見えてもいないみたいで、ちょっと子供っぽい口調でそれだけ言うと、玄関から出て行ってしまった。

「もう!心配ばっかりかけて」
奥にいたもう一人も、ブツブツ言いながら歩いてきた。

「えっと、こちらは?」
「あぁ、こちらは今日この寮に引っ越してきた有原さん。」

お嬢様が怒ってしまったというのに、2人はさほど気にしていないみたいだった。
「はいはい!今日からだったんだ。私、中島早貴です。みんなはなっきぃって呼ぶよ。キュフフ」
愛理同様、この人も独特な笑い声の持ち主みたいだ。
背は高くないけれど、手足がすらっと長くて、顔がちっちゃくて、とてもスタイルがいい。ちょっと幼い印象のどんぐり目と、高い位置で固定されたサイドテールが特徴的だった。愛理とはまた違う感じだけれど、可愛らしい顔立ちで、こちらもまたお人形みたいだと思う。

「なっきぃは、栞菜さんと同い年なんだよ。」
「へーそうなんだ。・・・・ていうか愛理、何で私のことは“さん”づけなの?できたら、やっぱりあだ名か呼び捨てがいいな。」
私がそう言うと、愛理はちょっと赤くなった。
「ごめんなさい・・・なんか、仲良くなれそうって思ったら、逆に気をつかっちゃって。」
「いやーん、愛理やっぱり可愛い~!」

レズキャラへの反省はどこへやら、私は愛理に飛びついた。
「こらーイチャイチャしないのっ!って私関係ないじゃんキュフフフやーだ」
止めに入ったなっきぃにも手を回して、私たち3人はケラケラ笑いながらじゃれあった。
まるで前からの友達みたいに、自然に打ち解けることができて嬉しい。彼女達が一緒なら何とかやっていけるかもしれない、そう思えた。



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