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「どうぞ、入って。」
犬を抱っこしたままの千聖お嬢様が、お部屋のドアを開けて私たちを通してくれた。

「お、お邪魔します」
緊張しつつ中に入ったものの、意外なほど中はこじんまりとして、シンプルだった。寮の物よりさらにビッグサイズなベッド以外は、学習机と応接テーブル、ソファぐらいしか置いていない。

「栞菜さん?どうかなさって?」
「あ、えと、栞菜でいいですよ。なんか、イメージと違ってたからびっくりしちゃって。」
「イメージ・・・?」
「あの、私の勝手な妄想で、お嬢様の部屋っていうと、グランドピアノとか高そうな文学全集とか、あとお人形とか!
千聖様のお部屋はすっきりしてるから。」

私がそう言うと、千聖お嬢様の表情が少し曇った。

「私、本はあまり好きじゃないわ。漫画は前に舞美さんが貸してくれたのだけれど、お母様が読んではいけないって。面白かったのに。
あと、お人形遊びより、私は外遊びが好き。でも女の子らしくないって・・・でも千聖は・・・
・・・ピアノは、弾けないの。中等部になるまでは、お父様の出張先すべてに連れて行かれて、あまりこの家にもいられなくて。いつも各地の別宅を転々としていたから、習っている時間がなかったの。」
「え、じゃあ、勉強はどうしていたんですか?」
「家庭教師が教えてくれたわ。でも、やっぱりそれだけでは駄目みたい。今もあんまり勉強は得意じゃないの。何もできないわ、私。」

どうしよう。私が余計なことを言ったせいで、何だか空気が重くなってしまった。
やっぱりこんなに大きなお家の令嬢だと、行動にたくさん制限ができてしまうのかもしれない。
詳しいことはわからないけれど、昨日こっそり街に出てきたのも、そういう抑圧から開放されたかったからなんじゃないかと思った。


「そうだ、お嬢様には、ご妹弟がいらっしゃるの。」
ナイスパス!愛理がさりげなく、話題を変えてくれた。

「ええ、妹が2人と、弟が1人。今は3人とも、お父様のご出張先の近くに住んでいるわ。たまに戻ってくるけれど。」
「1人で、寂しくないんですか?」
「私には、寮の方たちがいるもの。メイドもいるわ。リップとパインだって。
それに、幼いうちは両親と行動を共にするのは、私の家の決まり事ですから。私はもう子供じゃないから、寂しくなんてない。」

ああ、何ていじらしいんだろう。
お嬢様は嘘がつけないタイプみたいで、本当は寂しいっていう気持ちが顔に表れてしまっている。こんな大きなベッドで1人ぼっちで寝ているところを想像したら、何だか泣けてきてしまった。

「きゃあっ!?栞菜?何?」
私は思わず、お嬢様を抱きしめてしまった。
細くて少年みたいだと思ってた体は意外なほど柔らかくて、ふわんと清楚なコロンの香りがした。驚いて暴れるお嬢様の、ちょっと癖のあるふかふかした髪を撫でてみる。

「ちょっ、ちょっと嫌よ、私小さな子じゃないのに、頭を撫でるなんて!離してったら!」
「千聖お嬢様、私、役に立てるかわからないですけどいろいろします!あの、私も結構寂しがりだし、もし夜怖かったら私の部屋に来ても・・あっていうか、私が添い寝します!」

「あは・・・」
愛理はどう受け取ったらいいのかわからない半笑い顔になっている。
お嬢様は私がおかしなことを言ったせいか、体を硬直させて抵抗をやめてしまった。


“出た出た、栞菜のレズ攻撃!おーかさーれるー!”
“あんた、本当好きな子にベタベタしすぎwマジで誤解されるよそれ”

前の学校の友達のからかい言葉がよみがえってくる。正気に戻った私は、あわててお嬢様の体を離した。


「ご、ご、ご、ごめんなさい!私、変なこと言って。何か本当、あーもう!ごめんなさい!」
「・・・・して、くれるの?」
「え?」
「だ、だから、その、そ、そ添い寝・・・」

お嬢様は耳まで真っ赤にして、私のスカートの裾をギュッと握った。

「違うの、本当に千聖は子供じゃないのよ。でも、たまには誰かと一緒に寝たかったり・・・もうっ愛理ったら笑わないで!」
「だってお嬢様、今日はずいぶん可愛いこというから。ケッケッケ」

「うんうん、いつもこのぐらい素直だといいですね、千聖お嬢様。」
「うわあ!」

知らないうちに、私の隣にもう1人人がいた。
スラッと背が高くて、出るとこでて引っ込むとこ引っ込んでる、セクシーな体つき。
顔もこれまたものすごい美人で、今まで会った中では一番派手な印象だ。
第3ボタンまで空けてラフに着こなした制服がカッコいい。青いチェックだから・・・高等部の人か。
何かモデルさんみたいで、近寄りがたい印象だな。と思っていたら

「もう、えりかさんまでそんなこと言って!」
「ぶっ!」
お嬢様が投げつけたクッションを顔面に受けて、“えりかさん”はオーバーリアクションで後ろに倒れた。
前言撤回。美人は美人でも、相当変わり者のようだった。

「紹介しますね。こちら、中等部3年に転入してきた有原栞菜さん。栞菜、こちらは高等部2年の梅田えりかさん。寮長と、放送委員と、風紀委員、あと生徒会のお手伝い、と料理部・・・だっけ?」
「ええっ風紀って!」
「あはは、ウチいつも怒られるもん。えりこちゃん!風紀委員が服装乱してどうするの!って。」
主語はなかったのに、どういうわけか自然になっきぃのキャンキャン声で今の台詞が再生された。

「いろいろやってるんですねー。」
「あーうん、でも部活以外は全部幽霊なんだよ。」

どうやらえりかさんは、かなりマイペースなタイプみたいだ。

「・・・そういえば、栞菜はもう寮の方全員に会ったのかしら?」
えりかさんが持ってきたジンジャークッキーを食べながら会話を楽しんでいると、ふいにお嬢様からそんな質問が飛んできた。

「ええと、多分。愛理と、なっきぃと、えりかさん、舞美さん・・・あっ」
「どうしたの?」

・・・いや、どうでもいいことなんだけど、全員美人すぎる。千聖お嬢様自身も可愛くて綺麗な顔立ちだけれど、自分だけでは満足できずにいろんなタイプの美人を侍らせてる?

「・・・ごめん、私1人で顔のレベル下げて。」
「?何言ってるかわからないけど、栞菜ちゃんはすごい可愛いと思うよ。ていうか美人系だよね」
「うん、とっても可愛いよ、栞菜。」
「ふふ、そうね。栞菜の目はとても綺麗な形をしているもの。」

うわうわ、また始まった!どうしてここの人たちはこんなに褒めあうんだろう。背中がむずがゆい。


「・・・本当はもう1人いるんだけどね、この寮のメンバー。ちょっと今、家庭の事情で」
「私、昨日舞に会いたかったの。街に行けば、舞がいるかもしれないと思って」

突然、お嬢様の声色が鋭くなった。
全員ピタリと口をつぐんで、お嬢様の顔を見た。




「えりかさん、千聖、舞に会いたい。どうして、会ってはいけないの?」





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