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軽い坂道をてくてく歩いていくと、大きな正門が私たちを待ち構えていた。

「さすが女子校。綺麗だねー。」
通いなれてるとよくわからないけれど、改めてそう言われるとなるほどと思う。
生徒会の議案に清掃の徹底を盛り込んで良かったな、と私はひそかにほくそえんだ。

「それじゃ、また後で。」
「ばいばーい!」

高等部と中等部は、校門をくぐってから昇降口で別れる。縦割りのホームルームの前に、栞ちゃんを案内がてら一度教室にカバンを置きにいくことにした。


「なっきぃ、おはよー」
「おはよう中島さん。・・・あれ?そちらは?」

教室に入ると、さっそくわらわらとクラスメートが私たちを取り囲んだ。

「転校生?へー。名前は?」
「なっきぃと一緒に来たってことは寮の子なの?」
「じゃあ超頭いいんだ!すごーい!ねえねえ、どこの中学だったの?」
「ネクタイの結び方可愛い!どうやってるの?教えて!」

人見知りな栞ちゃんがあわあわしてる間に、クラスメート達は勝手に盛り上がってしまっている。
栞ちゃんはあんまり自分に自信がないというか、自己評価がやたら低いところがある。でも実際は頭もいいし顔も可愛い、センスもいい。
そんなに私がお世話を焼きまくらなくても、なれてくればクラスに打ち解けられそうな感じがした。


「さあさあ、続きはホームルームの後で!ほら、移動しよう?」
「はーい。」

生徒会の仕事に携わるようになってから、私はすっかり「しっかりもののなっきぃ」になってしまった。
前はどちらかと言えば大人しかったはずなのに、人って変わるもんだなあ。なんてしみじみ思う。

「栞ちゃん、行こう。ホームルームのグループ、私と一緒だから。」
「本当?良かった、一人ぼっちだったらどうしようかと思ってた。」

仲良く手を繋いで大教室へ移動していると、前方に千聖お嬢様の小柄な背中。

「あれっ?お嬢様もホームルーム一緒なの?」
「そうだよ。声かけよっか。」

早足になりかけたところで、お嬢様を何人かの生徒が囲んだ。

「えっ」

しばらく言葉を交わしたあと、そのうちの1人が、千聖お嬢様のノートと筆箱を強引に奪った。

「ちょっと!何あれ?なっきぃ、いいの?」
「うん・・・」
「どうしたの?あれってイジメなんじゃ」
「いや、それなら私も動けるんだけども~」

手ぶらのまま、少しうつむいて歩く背中を見守りながら、私はあの生徒たちについて栞ちゃんに説明した。


「・・・つまりね、千聖お嬢様のご家庭はとても裕福でしょう?お嬢様の通う学校だからってことで、すごい額の寄付金を納めていらっしゃるみたいで」
「そんな権力者の娘である千聖お嬢様のご機嫌を損ねたら、学園を追放される?」
「さすが栞ちゃん!お察しの通り。・・・まあ、もちろん実際はそんなことないんだよ?大体もしそうなら、お嬢様を叱りつけまくってる私なんて何回退学になってるんだって話だし。キュフフフ」
「はは・・・」

ちょ、何その乾いた笑いは!

「じゃああの人たちは、いじめてるんじゃなくて、気を使ってるってこと?」
「まあ、そうかな。荷物は持って行ってあげただけだし、先に行ってお嬢様の席を取っておいてあげるんだと思う。毎回そうなんだよね。」

お嬢様は多分、こういうことは望んでいないのだと思う。それは表情を見ればわかるのだけれど。

「私はね、千聖お嬢様の生活態度とか、勉強のこととかには口出しできるけど、人間関係のことまでは取り仕切りたくないの。それは、違う気がする。」
「お嬢様が、自分でなんとかしなきゃいけない問題なんだよね。誰かに助けてもらうようなことじゃないから。」

ああ、本当に栞ちゃんは頭がいいなあ。一を聞いて十を知るっていうか。この子はぜひ生徒会に欲しい。
私の脳裏には、十を聞いて一を知るほえほえリーダーの顔が浮かんでいた。


「まあね、本当一事が万事こんな感じなんだよね。みんなでお嬢様のご機嫌伺って、顔色伺って。これから学校でお嬢様見かけるたびに、結構びっくりするかも。」


大教室に入ると、一足先についていたお嬢様が私たちを見て顔を輝かせた。でも、

「千聖様。こちらへ。席をお取りしました!」

さっきの女子の集団が、お嬢様を手招きしている。

「あの・・・」
私に助けを求めるような瞳が辛い。毎度のことだけれど、胸が痛む。

お嬢様は、勉強は不得意みたいだけれど、本当は頭はいい方だと思う。
ワガママだけれど、本質的にはとても優しい。


“私、なっきぃたちと座るからいいわ。ありがとう”


そんなお嬢様だから、この一言が自分を気遣う人たちを傷つけたり、誤解を招いてしまうことを恐れているんだろう。
それでも私は心を鬼にして、両腕を背中に隠していなければいけない。これは、お嬢様の戦いなんだ。



―ああ、でも。
もしここに、舞ちゃんが戻ってきてくれていたら。


“どいてくれる、千聖は舞と座るの。”


舞ちゃんの舌たらずな生意気ボイスを思い出して、私は小さくため息をついた。



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