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「ええ、今日は千聖の斜め後ろにいらっしゃいましたけど。雅さんは口数が少なくていらっしゃるから、桃ちゃん気がつかなかったのかもしれないわ。」
ええ!?みやが口数少ないって・・・めっちゃ喋る方だと思うんだけど、あの子。

「雅さん、最初はあの方たちのグループにはいらっしゃらなかったのだけれど・・・本当につい最近なの。気がついたら私の近くにいて、何かと気にかけてくださってるみたいで。」

私は千聖の取り巻きさんたちの顔を思い浮かべた。確かに、みやがつるむタイプの人たちじゃない。いったいどういうことなんだろう。

「それにしても、桃ちゃんは雅さんとお知り合いなのね。知らなかったわ。」
「ああ、うん。今年の学祭のグループが一緒でね、もぉとみやと、あとほら、寮生の愛理いるでしょ?3人でアイドルユニットみたいなのやることになってんの。」
「そうなの。楽しそうね・・・見に行くわ」

笑顔を見せながらも、千聖の表情が一瞬寂しさに染まったのがわかった。

「千聖も何かやったら?去年は休んでたみたいだけど、今年は出るんでしょ?そうだなあ、桃たちに対抗して・・・舞ちゃんとユニットとかどう?」
私がそう提案すると、千聖の顔はますます曇ってしまった。ありゃ、何か地雷踏んだ?

「舞、学校に来ていないの。連絡も全然取れない。」
「あ・・・そっかぁ、来てないんだ。」

そ知らぬふりして答えつつ、私の脳裏をつい数週間前の光景がよぎった。


“桃ちゃん、絶対に千聖には言わないで。お願いします。”


あの日、あれだけ賢く気が強くて、プライドの高い舞ちゃんが、必死な顔で私に頭を下げてきた。

そう、実は私と舞ちゃんには、2人の間だけで押しとどめている秘密がある。
舞ちゃんが学校を休んでいることは本当に知らなかったけれど、欠席の理由にこの“秘密”が少なからず関係しているのは間違いないだろう。

そして、もしかしたらみやが千聖を構うこともこれに関係しているかもしれない。・・・こっちはまだ推測の段階だけれど。


「桃ちゃん。あの・・・今からでもいいから、寮生になってもらえないかしら」
「え?」

私が思いをめぐらせていると、千聖から思わぬ申し出が来た。


「桃ちゃんはとても優秀でしょう?服装は変だけれど。桃ちゃんなら、審査も通ると思うの。それで、千聖のお家にいっぱい来て。お手伝いなんてしなくていいから、私の側にいて。」

千聖は必死で喋りながら、顔を近づけてきた。あんまり人に触られるのが好きじゃないはずの子が、けなげに私の手を握り締めている。


「・・それはできない。ていうか、したくない。私は今までどおり、自宅から学校に通いたい。あそこには、舞美や愛理たちがいるでしょ?千聖は一人ぼっちじゃないんだから。
桃とは、こうやってご飯食べたりいくらでも一緒にいられるよ。」
「お願い、桃ちゃん。私怖いの。お父様もお母様も帰ってきてくれないし、舞もいなくなってしまった。寮の皆さんだって、いつ千聖から離れていくかわからないわ。だから」
「千聖!」

少しおなかに力を込めて名前を呼ぶと、千聖は「・・・ごめんなさい」と呟いてうなだれた。

「ごめんなさい。・・・私のこと、嫌いになった?」
「バカ。なるわけないでしょ」
「ごめんなさい」

顔を伏せたままの千聖の頭をポンポンと叩く。
気付けば屋上にいた生徒達は、私と千聖を横目で伺っている。・・・あーあ。また変なこと言われたりして。ツグナガさんが千聖お嬢様を泣かした、とか言って。別にいいんだけど。

「千聖、そろそろ下降りよう。授業始まっちゃう。また明日、一緒にご飯食べようよ。」
「ええ・・・」

「生徒会、ちゃんと行くんだよ。頑張って。」

千聖を教室に送り届けてから、私は高等部の校舎へと早足で向かった。次の授業は・・・数学か。ケ゛ロケ゛ロ。


「あー桃子、元気ー?やほー。ちょっとお昼食べ過ぎたー。気持ち悪いんだけどー」
クラスに戻ると、舞美がマヌケな挨拶をしてきた。のんきなほえほえ笑顔が何だかうらやましい。


「あれ、今日って自習?」
「うん?そうだよー。プリントやって提出。・・・・あれ、桃子どこいくの?ちょっとー!」
「ごめーん、桃何だか急におなかが痛くなってアタタタター!というわけで、5限目はお休みしまっす!」
舞美の声を背中で聞きながら、私は階段を駆け下りた。
大丈夫、プリントは終了10分前に戻れば何とかなる!桃、思い立ったら吉でっせ!




中等部と高等部をつなぐ廊下の袂に、私のお目当ての部屋はあった。

「みーや。やっぱりいた。」
「もも・・・・」

薄暗い新聞部の部室の片隅に、頬杖をついてボーッとしているみやがいた。

「サボり?けしからんですなあ。」
「何だよー、桃だって。・・・待って!このままにして」

私が電気のスイッチに手を伸ばすと、みやが意外に大きな声でそれを制した。

「・・・ねえ、桃。千聖お嬢様は元気?」
「うん、さっき見てのとおりだよ。ちょっと不安定だけど。ていうかみや、何だよーお昼のあれ。びっくりしたんだけど!」

「ごめん。」

暗くてよく見えないけれど、みやはへへ、と笑ったみたいだった。



「みや、千聖のことを好きなの?みやってさ、よっぽど仲良くなった子にしか尽くさないイメージだったから、ちょっと意外だった。」

みやは見た目ギャル系で、かなりの美形だから黙っているととっつきにくい感じがする。しかも人見知りときているから、あの人馴れしないお嬢様とはどうにもご縁がないように思える。



私の問いかけに、みやは言葉を選ぶようにゆっくりと答えだした。



「うん、私千聖お嬢様のことは好きだよ。いつものおせっかい軍団といてもあんまり笑ってないけど、お嬢様は桃と一緒にいる時はすごくいい顔してる。あの笑顔が大好き。」

そういいつつも、声のトーンは落ちている。私は次の言葉を待つように押し黙った。



「・・・・・・・・でも、私のやってることは、ただの自己満の罪滅ぼしなのかもしれない。うちら新聞部のせいで、舞ちゃんと千聖お嬢様は」

「待ってよ、あれは別にみやが悪いってわけじゃ」
「桃、私自分が嫌だよ。最低。」

静かな部屋に、わずかに震える声が反響する。泣いているのかもしれない。ハンカチを差し出すと、みやは首を横に振った。私は少し距離をとって、しばらくみやを見守ることにした。



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