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「みや・・・」
「私、高等部からこの学校に入って来たでしょ。周りの子は初等部や中等部からの持ち上がりがほとんどだったから、最初は全然友達できなかったのね。もともと人見知りだし、見た目も怖そうに見えてたらしくて。」

みやは外を眺めながら、淡々と話を続けた。

「だからね、しばらくはいつも1人で行動してた。・・・千聖お嬢様に出合ったのは、5月頃だったかな。ホームルームの教室にノートを置き忘れて、お嬢様がわざわざ教室まで届けにきてくれたの。」
「そうなんだ」

私もホームルームは同じ教室だけれど、5月・・・はまだみやのことも千聖のことも知らなかった時期だ。

「でね、友達いなくてつまらないから、私いつもそのノートに落書きしたり変な小説書いたりして遊んでたの。それをお嬢様が見たらしくて。とても面白かったって笑顔で言ってくれたんだ。」
その時のことを思い出したのか、みやの顔に少しだけ微笑みが戻る。

「その時、話の流れで、私は高等部からの受験組で、委員会も部活もやってないって打ち明けたのね。そしたらお嬢様、“雅さんの漫画や文章、とても面白かったわ。新聞部や文芸部に入ってはどうかしら。また読んでみたいわ”なんて言ってくれて。
それで私、新聞部に入ったの。そしたらすぐに友達もいっぱいできて、学校生活がすごい楽しくなった。」

みやの漫画か・・・。いつだったか猫がだそだそ言ってる超シュールな4コマ漫画を見せてもらった記憶があるけれど、あそこから才能を見出すとは、やるな千聖。

「しばらくは雑用が中心だったんだけれど、最近やっと私も記事を作るグループに参加させてもらえることになったの。だから、千聖お嬢様のことを取り上げてみたいって提案したんだ。
お嬢様はすっごく有名な存在だったし、先輩達も関心があったみたいで、その案自体はすぐ通った。私に一歩踏み出す勇気をくれたのは千聖お嬢様だから、感謝の意味もこめていい記事にしたかった。でも・・・桃は、あの時舞ちゃんが激怒してた記事の内容知ってる?」

私が首を横に振ると、みやは沈痛な面持ちでその概要を教えてくれた。

「うわ、それは・・・ちょっとひどいね」

「そうだよね。私は、お嬢様にインタビューとかして、簡単なプロフィールでも載せられたらいいなって思ってたの。でもいつのまにかどんどん変な方向に発展していて・・・
私まだ下っ端だし、先輩達の機嫌を損ねるのが怖くて、何も言えないうちに、気がついたらあんなひどい内容になってた。」

「誰かに相談しなかったの?ほら、千奈美とかいるじゃん。」
「ちぃは担当が違うし、部活掛け持ちしてて忙しそうなのに、余計な心配かけたくなかったんだ。ちぃ優しいから、私と先輩達の間を取り持とうとして、辛い思いさせちゃいそうで言い出せなくて。」
「そっか・・・」
みやはちゃらんぽらんな私なんかと違って、根はマジメで調和を重んじるタイプだ。今まで誰にも言えずに溜め込んでいたその苦しさを思うと、何だか私まで胸が苦しくなってきた。

「でも、私はやっぱりあんな記事が学園の新聞として発行されるのは我慢できなかった。お嬢様の心を傷つけて、あの笑顔を奪うようなことはしたくないもん。」
「だから、舞ちゃんに内容をリークしたの?」
「年下の子利用して、卑怯なのはわかってた。でももう、これしか思いつかなくて。何やってんだろう、私。」

私はこういう時、気の利いたことを言えない性格だ。黙ったまま鞄をあさってポケットティッシュを差し出すと、今度は受け取ってくれた。

「何て言ったらいいかわかんないけど」
「うん」
「その、記事の内容には舞ちゃんも関係あったし、事前に舞ちゃんに話したことは、間違ってないと桃は思うよ。もしあの内容のまま学園新聞が発行されてたら、そんで担当者の中にみやの名前を見つけたら、千聖は本当に立ち直れないぐらい傷ついてたかもしれないもん。
ごめんね、何かもっと励ましたいんだけど、いろいろ言うと嘘っぽくなりそう。」

可愛いぶりっ子キャラで通してるつもりの私は、意外とこういう女の子らしい気づかいが苦手だったりする。舞美とかに、桃は案外男っぽいよね!なんていわれるのはこんな部分かもしれない。

「それに、みやは罪滅ぼしのつもりで千聖の親衛隊に関わってたみたいだけど、そんなんしなくても、多分千聖はみやに興味津々だと思うよ。あの子、面白い人大好きだもん。もぉといる時にでも話しかけてみたら?きっと楽しいよ。」
「うん、・・・・ありがとうね、桃。ちょっと元気出た。」

みやは猫みたいに思いっきりウーンと体を伸ばしてから、「出よっか。」と私の肩を叩いた。

「え~、もうちょっとここいようよ。今数学なんだよーたまにはおサボりさせてよー」
「だぁめ、たまにじゃないし。ほら行くぞーサボリ魔。」

私はみやに首ねっこ掴まれたような体勢で、ずるずる引きずられるように廊下を歩いた。

「ねえ、みや。・・・新聞部、やめたりしないよね?」
「やめないよ。」

私の問いかけに、みやは即答してくれた。

「部長もキツイとこあるけど、悪い人じゃないんだよ。ただ、ちょっと悪ノリしすぎる傾向があるっていうか。
前は、もっとほのぼのしたいい記事もいっぱいあったでしょ。私はああいうのが書きたいから、理想に近づけるように頑張ってみる。お嬢様に、私の書いた記事読んでほしいもん。」

まっすぐ前を見据えるみやの顔は、何だかキリッとしていてかっこよかった。

「・・・もぉも何か始めようかな~。部活か委員会。」
「そうだよーやりなよ。桃はね、要領よすぎなんだから。もっと熱くなれよ!」
「うわっウザッ!何キャラだよ」


キャッキャとはしゃいでる私達を、そっと廊下の片隅から見つめている人がいたことを、その時の私は知る由もなかった。



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