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その日の夜、さっそく千聖から電話があった。

「明後日、レッスンが終わってからはどうかしら。次の日はCDイベントの打ち合わせがあるから、私の家から一緒に行けるわ。」

家族みんなが集まっているみたいで、電話の向こう側からテレビの音が聞こえてくる。大きい声で何か言い合ってるのは、弟くんとあっすーかな?
やっぱり千聖の家って面白そう。すごくわくわくしてきた。

「あぁっ!ちょっと、ダメよ!そのイチゴはお姉ちゃんが食べるの。ダメだったら!返してちょうだい」
私と電話しながら、千聖もちょっかいを出されたらしい。デザートに、大好きなショートケーキでも食べてたのかな。
お嬢様言葉のまま、バタバタと走り回る音が聞こえる。

「ああ・・・ごめんなさい、愛理?」
「ケッケッケ、にぎやかだねー。じゃあ明後日にお邪魔するね。」
「ええ、それじゃ・・・あ、ちょっと待って。母が、愛理のお母様とお話ししたいって。」
「ほーい。」

私はリビングにいたお母さんにケータイを持って行った。あらあらとかまあまあとか言いながら、お母さんは受話器の向こうの千聖のママにぺこぺことお辞儀して何やら話し始めた。

私が千聖の家に泊まりに行くと言った時は、何だかすごく驚かれてしまった。そんなに仲がいい印象がなかったらしい。
確かに、インドアな私とアウトドアな千聖では遊びが合わないと思われるのは仕方がない。実際、前は私たち自身もお互いそう決め付けていたところはあったと思う。

心が通い合うようになったのは、千聖が頭打ってお嬢様になる少し前ぐらいだった。
千聖は私の考えてることが難しすぎて、わかりあえないと思って怖かったといい、私も千聖のものすごくストレートな性格にとまどっていたことを打ち明けあった。
でも実際、千聖は私が思っていたほど単純な性格じゃなかったし、私は千聖が思ってるほど難しい人間でもなかった。
それを認め合うことができて、昔よりずっといい関係になれそうだった。

階段から落ちたのはその矢先の出来事だった。私は平静を装っていたけれど、せっかく距離の縮まった千聖がまた別人になってしまったことを恐れた。
まあ、でもそれは杞憂というもので、お嬢様になった千聖とも、こうして打ち解けることができている。
キャラが変わっても、千聖は私の大好きな千聖に変わりはないのだ。


「・・・はい、はい。ええ、じゃあ愛理をお願いしますね。千聖ちゃんにもどうぞよろしく。」

大人たちのお話ももう終わったみたいで、お母さんは「何か手土産を考えないとね」なんて言いながら携帯を返してくれた。

「何かドキドキするよ~千聖んちってどんなんだろう~ケッケッケ」
「お母さんもドキドキ~ケッケッケ」

親子でクネクネする私たちを、男性陣が白い目で見ていたのはご愛嬌。



その日から2日、私は遠足の前日の小学生みたいに、興奮して眠れない日々を過ごした。
何を話そうかな、何て想像しただけで胸がドキドキする。たった一泊させてもらうだけなのに、私はものすごく浮き足立っていた。
そして、お泊り当日。

「愛理、それじゃ千聖ちゃんに迷惑かけないようにね。お土産持った?着替えは?」
「大丈夫だよぅ」

いつもよりだいぶ大荷物の私は、若干よろよろしながら、いつものレッスンスタジオの前でお母さんの車を降りた。


「おはよ、愛理。どうしたのー?荷物多くない?」
入り口でポンと肩を叩かれて、振り向くとえりかちゃんがいた。買い物でもしてから来たのか、たくさんショップバッグを抱えている。

「えりかちゃんこそ、バッグいっぱい。」
「なんかね、買い物してたら似合いそうな服があったからつい買ってきちゃった。・・・千聖に。」

そう言って軽くバッグを撫でるえりかちゃんは妙に優しい顔をしていて、私はどこか釈然としない気持ちになる。
「ふーん・・・そっか」

私の流し目に何かを察知したのか、えりかちゃんは「なっ何その顔は!」と言いながら、ドエームと戦うときみたいなポーズを取った。

「千聖といえば、今日ねえ、私千聖の家に泊まりに行くんだ。」
「へー・・・ってええ!そうなの?な、なぜ?」

なぜ?って。えりかちゃんはお母さんと同じ反応をした。そんなに珍しいことかな?

「だって私たち仲良しだもん。今日はいーっぱいいろんな話するんだーケッケッケ。」
「それは・・・お手柔らかにお願いします。」

今日のえりかちゃんは察しがいい。いろんな話、の中に、自分のことも含まれてるのはわかってくれたらしい。

「そうだ。・・・一個だけ聞かせて。えりかちゃんは、千聖を好き?」
「好きだよ。大好き」

「うん、そか、わかった。ありがとうね。」

えりかちゃんは私の問いかけに、迷いのない目で間髪いれずに答えてくれたから、私はとりあえずこの話を切り上げることにした。あとはラジオの時にでも。


「えり愛理おはよー!」
「おはようございますー」
後ろからご機嫌な舞美ちゃんと千聖の声が追いかけてくる。私たちは歩くのを止めて、犬の兄弟みたいにジャレあう2人を待った。

「うわあウケるー!愛理、家出?とかいってw」


千聖とお泊りまであと数時間。舞美ちゃんにまで大荷物を突っ込まれながら、私の胸のドキドキは高まっていった。



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