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「お先に失礼しますー」
「皆さん、また明日」
レッスンの後、いつものように談笑するみんなの輪を抜けて、私と千聖はロッカーを出た。

「愛理、大荷物ね。たった一泊なのに、どうしたの?」
本当、どうしたんだろう。何だかやたらテンションが上がって、あれもこれもと詰め込んでるうちに、鞄はパンパンになってしまっていた。

「何持ってきたんだっけ・・・かさばるもの・・・あっドライヤーとか?コテも持ってきた。あとゲームと、お菓子と・・」
「いやだわ、愛理ったら。全部うちにあるわ。そんなに気を使わなくても、何でもお貸ししたのに。」
えりかちゃんからもらった服で自分も結構荷物があるのに、千聖は私のバッグをよっこいしょと下から支えてくれた。

「あ。・・そうだよね。私あんまり人の家に泊まりなれてなくて。舞美ちゃんの家ぐらいかな?泊まったことあるの。その時は手ぶらのまま引き止められてね」
「あら、私もそんなことがあったわ。舞美さんのおうちに、なっきぃと2人でお邪魔したの。舞美さん、お姫様みたいにたくさん服をお持ちで・・・」
「見た?あのおっきいクローゼット。」

舞美ちゃんネタで盛り上がりながら、いつもとは違う路線のホームを歩く。「ここが一番混まない乗車口なのよ」なんて言いながら、真ん中より少し手前で千聖は足を止めた。
「へー、なんかすごいね。」

ほぼ毎日使ってる電車なのだから、もちろん千聖にとっては大した行動じゃないんだろうけど。そんなささいなことでも、千聖の知らない一面を垣間見れたみたいで嬉しかった。

まもなく到着した電車に乗り込んで、隣りあわせで座席に腰掛ける。レッスンの疲れもあってしばらくは無言だったけれど、3駅ぐらい越したところで、千聖が私の手をポンポンと叩いた。

「次は・・・次に私が」
「ん?」
「私が愛理のおうちにお泊りするときは、手ぶらでお世話になってもいいかしら?」

千聖は唐突にそう言って、また黙り込んだ。

「千聖・・・」

大荷物の私を気遣ってくれているのだろう。そして、次からは荷物なしでもフラッと行き来できる関係になりたいって言ってくれてるのかもしれない。

「やだなぁ~まだ泊まってもいないのに、次の約束しちゃうの?しちゃう?じゃあーしちゃおっか!ケッケッケ」

千聖の優しさは言葉足らずで、ちょっぴりそっけなくて、じわじわと心に沁みてくる。私は照れくささを隠すようにちょっと大きな声ではしゃいでしまった。・・・車内の人たちの目が痛い。

「愛理ったら、どうしたの。ふふ」
唇の前で指を立てる千聖は、お姉ちゃんモードのちょっとすました顔で笑っていた。



乗り継ぎの駅でいったん改札を出ると、千聖のお母さんが車を出して待っていてくれた。

「こんばんは、お世話になります。」
コンサートの時とかに何度か会ったことはあるけれど、こうやってちゃんとお話するのは初めてだった。

「こちらこそ、いつも千聖がお世話になってます。この子愛理ちゃんに迷惑かけてない?大丈夫?」
「もうっお母様ったら。早く行きましょう。」

どっちかっていうとあっすーに似ているって印象だった千聖のママは、よく見たら笑顔や仕草は千聖そっくりで、私はちょっとニヤリとしてしまった。


“えりかさんに服をいただいて、お礼をしたいのだけれど・・”

“今日のレッスンで舞さんが・・・”

“・・・・それで、明日菜からメールが入っていてね、”


車の中で、千聖は千聖ママに向かって今日の出来事をいっぱい喋り出した。お嬢様の千聖は前と比べて大人しい印象が強かったけれど、家族の前ではやっぱり少し感じが違う。
適度に私にも話を振ってくれて、3人で盛り上がっているうちに千聖の家に着いた。

「どうぞ、散らかっているけれど。」
「お邪魔しまーす。」

千聖が体でドアを支えてくれてる間に、私は玄関に入った。

「うわっ!」
框の所で立っていた弟くんが、私の顔を見て大げさにひっくり返った。

「こんにちは。」
私が話しかけると、プイッと後ろを向いてバタバタと走っていってしまった。
「もう、ごめんなさいね。照れてるみたい。愛理のこと好きだから、嬉しがってるのね」
千聖の言葉を裏付けるように、奥の部屋から「やばい鈴木愛理!鈴木愛理!鈴(ry」と叫ぶ声が聞こえた。

「うひゃぁ~照れるなぁ~」
あんまり体験したことのないストレートなリアクションに、私の顔は真っ赤になった。
「ふふ、お夕飯まで千聖の部屋にいましょう。こっちよ。」

千聖の後をくっついていって、廊下の右側の部屋へ通された。
「最近模様替えしたばかりだから、少し変な間取りになってるの」

少し前までは姉・妹・弟でお布団で寝ていると聞いていたけれど、最近は千聖とあっすーの2人だけが一緒らしい。
大きめの部屋の真ん中にベッドが置いてあって、そこを境界に奥があっすーのスペース、手前が千聖というふうにカーテンで区切ってあるみたいだった。

「ちょっと待ってて、お茶を入れてくるわ。」
千聖があわただしく部屋を出て行く。・・・ちょっとだけ、探索させてもらおうかな。
イタズラ心が芽生えて、私は部屋をぐるりと見渡した。



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