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あっすーのスペースはカーテンで隠してあるからわからないけれど、千聖のお部屋はとても綺麗に整頓されていた。
前の千聖がク゛フク゛フ笑いながら見せてくれた写メとは全然違う、絵に描いたようなお嬢様ルーム。
窓際に小さなテーブルがあって、白い薔薇が飾られている。・・・絶対、前のキャラじゃありえない。
学習机の上には、綺麗な薄いピンクの便箋が広げたまま置いてあった。最近手紙を書くのにハマッてるって言ってたっけ。

「ごめんなさいね、散らかっていて。」
千聖が御盆にティーカップとクッキーを乗せて戻ってきた。足元にはわんちゃんが2匹。私の姿を発見すると、近づいてクンクンにおいを嗅いできた。
「おおっ服従しちゃった」
「あら、リップもパインも結構人見知りなのに、愛理は大丈夫なのね。優しい人だってすぐにわかったのかも」
「いやぁやめてくれよぉ~ケッケッケ」

わんちゃんを膝に乗せて、2人してベッドにもたれて静かに紅茶を飲んでいると、千聖の家族の楽しそうな笑い声が絶え間なく響いてくる。

「いいなあ。すごい、幸せな家族なんだね。うらやましいな」
「・・愛理、ご両親と喧嘩でもしているの?」
千聖が少し上目で私を心配そうに見つめる。

「あっ、いやいや、全然そういうんじゃないんだけど。うち、お父さんもお母さんも忙しいと結構家にいないこともあるから、こういう雰囲気、ちょっと憧れるなあって思って。いつも誰かの気配を感じられるのっていいよね。」
「そうかしら?でも、なかなか1人にさせてくれないのよ。弟や明日菜は勝手に部屋に入るし、少し元気がないと家族全員で詮索してきたり。
・・・本当は何でも話したいのだけれど、中学2年生にもなると、家族に言えない悩みも増えてきてしまうのね。」
軽いため息をついて、千聖はワンちゃんの頭を優しく撫でた。

「千聖、私じゃだめかな?」
「え?」
私は千聖の両手をガシッと握る。
「家族の言えないこととか、もし胸にしまっておくのが辛かったら、私誰にも言わないから、何でも言ってほしいな。ほら、梨沙子も言ってたでしょ?何でも言い合えるのが中2トリオだって。あれ?言ってなかったっけ?私の妄想?」
「ふふ、梨沙子さん確かにそう言ってたわよ。・・ありがとう、愛理。私は愛理といると、とても落ち着くわ。」

珍しく千聖が私にもたれかかってきた。お嬢様の千聖はあんまり人とくっつきたがらない印象だったから、私はどうしていいのかわからなくて、とりあえず舞美ちゃんみたいに肩を抱いてみた。


「ずるい」
「・・・ん?」

千聖は少し乾いた声で呟いた。

「えりかさんは、ずるいわ。」
「うん。」
「ずるいわ・・・・」

お嬢様になった千聖の口から、そんな非難めいた言葉が飛び出したのは初めてだった。
その視線の先にあるのは、今日えりかちゃんが千聖に渡していたあのショッピングバッグ。

「私には、えりかさんの気持ちがわからないの。もう、その・・・ああいう行為はしないと言っていたのに、何でもないことみたいに急に抱きしめられたり。えりかさんは、私がまだえりかさんを好きって知ってるのに。どうして?」
「うん・・・・」

私の経験値じゃ、何も気の利いたアドバイスは送れない。栞菜と一緒に、半分面白がって2人を見ていたことが嘘みたいに胸が苦しい。

「あ・・ごめんなさいね。せっかく来てくれたのに、しんみりしてしまったわね。もうお夕飯できてる頃かしら。リビングへ行きましょうか。」

千聖は気持ちを切り替えるように軽く首を振ると、私の手を取って立ち上がった。
もうその瞳に憂いは残っていない。さっきまで持て余していた激しい感情は完全に押さえ込まれて、“いつもの千聖”の顔に戻っていた。

「何か千聖、大人だね。」
「そんなことないわ」
そう言って笑う仕草もどこか大人びていて、今度は私が甘えてみたい気持ちになった。

「あぁ 女の子は~恋をするぅ~だから」
歌いながら首に手を回して抱きつくと、千聖はクフフと笑って調子を合わせてくれた。
「秘密の秘密だよ~」「内緒のお話なんだけど~」

ムカデ競争みたいに歩調を合わせて、合唱しながらドアを開けた。ちょうど廊下を横切っていたあっすーと目が合う。

「あら、おかえりなさい明日菜。」
「お、お疲れ様です・・・」

あっすーはかしこまった様子でペコッと頭を下げてきた。
「いいんだよぅ敬語なんてやめてくれよぅ~ケッケッケ」
「お姉ちゃんたち、先にお台所に行ってるからね。ケッケッケ」
私たちの変なテンションに引き気味のあっすーは、それでも「あ、うん。あ・・・ケケケ」と無理矢理調子を合わせてくれた。

お夕食には、パスタがでた。テーブルの真ん中に湯きりした麺がドーンと置いてあって、周りにミートソースやたらこ、他にもいろんなソースとトッピングのお皿が並んでいる。
バイキングみたいに、小皿に取って自分でお好みの味にするらしい。

「家族が多いから、うちではこういう形式が多いの。」
・・・が、私の席にはすでに小さなお皿に盛られたパスタが全種類そろっている。

「あら、もう愛理の分よそったの?」
「うわー何張り切ってんの。」
あっすーが弟くんのほっぺを突つくと、「うっさい!」なんていいながら弟くんはあっすーのお尻を叩いた。

「こら!お客様がいるんだから暴れないの。・・・ごめんね愛理ちゃん、こんなに食べれる?」
「あ、大丈夫です。私結構食べるんで。ね、千聖。」
「ふふ、そうね。」

その言葉どおり、私は弟くんの盛ってくれた分だけではなく、おかわりまでいただいて、千聖の家族をびっくりさせたのだった。



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