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「パァー」
「わんわん♪」

かっぱ語と犬語で交信しながら部屋に戻ると、千聖は目をキラキラさせて「これから何する?」とにこにこしながら聞いてきた。

「うーん・・・あっ、あれは?どうかな?明日も明後日も学校ないし」
私は透明なアクリルケースに入ったマニキュアを指差した。
実は、最初に千聖の部屋に通された時から密かに気になっていた。梨沙子が大好きな魔女っぽいブランドのもので、お嬢様の千聖もお気に入りらしい。

「千聖、たまに小指だけ塗ったりしてるよね?私マニキュアって、お母さんがまだ早いっていうからちゃんとやったことなくて。」
「わかったわ。お互いに塗りっこしましょう」

千聖は犬の手の下から本物の指をぴょこんと出して、私の方へ向けた。
何色かそろえられたマニキュアの中から、千聖に似合いそうな薄い紫のラメ入りのを選んだ。

「じっとしててね。」
少し長めの状態で綺麗に揃えられた千聖の爪に、小さな刷毛を滑らせて色を付けていく。
「嫌だわ、私」
「ん?」
「私の指、肌もだけれど節が黒いでしょう?爪は丸くて可愛くないし、どうしてこんなに女性らしくないのかしら」

今日の千聖は本当にネガティブになっているみたいだ。
もともと千聖はどうして?と思うほど自己評価が低い。
お風呂でもそうだったけれど、えりかちゃんとの一件で不安定になっている今は、さらにくよくよしてしまうみたいだった。

でも私は、こうして千聖がポツポツと私にだけ弱い部分を見せてくれるのが嬉しくもあった。
「そんな悲観的になるなよぅ。千聖は可愛いぞ、ケッケッケ」
そう言ってほっぺたをつつくと、少しはにかんで笑ってくれた。

「さあ、できた!次は私の爪お願いしまっす」
「ありがとう、愛理。綺麗だわ。」
千聖は薄い紫に染まった爪を、目を細めてしばらく見つめた後、薄いピンクのマニキュアをケースから取り出した。
半乾きの自分のネイルを汚さないように、器用に指を立てて私の爪を塗っていく。

「さっきの話だけどね」
「え?」
「私も、自分の顔が嫌になることよくあるよ。歯並びが悪いなあとか、私の鼻変じゃない?とか。鏡見るとため息でちゃったり。」

「「・・・また鏡を見つめてるぅ~♪」」


ぴったりのタイミングで、私たちはVERY BEAUTYを歌いだした。何回目だろう、千聖のうちに来てから何かと歌っている気がする。
あんまり専門的なことはわからないけれど、多分千聖の声と私の声は相性がいいのだと思う。歌声ぴったり重なると気持ちいい。止めるタイミングを失ってしまうほどだ。

「・・・何か変な感じね。犬とかっぱの着ぐるみで、何でマニキュアなんて塗ってるのかしら。ふ、ふふふふベリービューティーって。ふふふ」
順調に作業を進めていたのに、いきなりツボにはまってしまったのか、千聖は口を押さえて笑い出した。

「ご、ごめんなさい。何か私本当今日おかしいわ。愛理といると、心が裸になってしまうみたい。」
千聖は笑い泣きの涙を拭いながら、困った顔で私を見つめた。

「いいよ、私と2人でいる時はそういう千聖でいて。私は、私だけは千聖のことずっと見てるよ」
「愛理・・・」

カッパとワンちゃんで色気も何もないシチュエーションなのに、私は千聖をギュッと抱きしめていた。
私、何やってるんだろう。これじゃあえりかちゃんと一緒じゃないか。

「・・・マニキュア、汚くなってしまうわ」
「後でやり直そう」
2人して床に体を横たえて、しばらく無言で見つめあった。
前に梨沙子が言っていた。お嬢様の千聖は魔女かもしれないって。千聖の目は魔力があるって。

その意味を、今やっと理解できたような気がする。深い茶色の瞳から目を逸らすことができない。

「・・・やめましょう」

自然に顔が近づいていく途中、ふいに千聖が私の腕から逃れるように身を捩った。

「こんなの、いけないわ。だって愛理は友達だし、今はカッパだし、私は犬だし」
若干噛みながら少し早口でそんなことを言うと、千聖は私の腕を取って起き上がらせてくれた。

「爪、塗りなおしましょう」
そう言って微笑む顔からは、さっきの神秘的な魔法の色は消えていた。
少し覗かせてくれた心の奥を、千聖はまた胸にしまいこんでしまったみたいだった。



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