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せっかく学校に来たっていうのに、私は一日授業をサボッてしまった。
人気のない屋上の手すりにもたれて、部活動中の生徒たちを眺める。
遠目にも目立つ濃いピンク色のタンクトップで、長距離走に挑んでいるのは私のお姉ちゃん・・舞美ちゃん。
少し手前では、ちぃが明るい声でキャーキャー騒ぎながら、バドミントンのラケットを振り回している。

花壇の整備をしているのは、環境委員の愛理と茉麻ちゃん。楽しそうにおしゃべりしながら花壇に水を遣っている。
2人の横を自転車に乗った桃ちゃんが突っ切って、なっきぃを筆頭にした風紀委員軍団が「コラー!」とその後ろ姿を追いかけている。

みんな楽しそうだな。2週間も休んでいる間に、私の居場所はなくなってしまったような気がする。

昼休みの屋上。給水塔の影から、桃ちゃんとおしゃべりする千聖の姿をこっそり見守っていた。
久しぶりに見たその顔は前よりも明るくなっている気がした。それは喜ぶべきことなのに、なぜか胸がチクンと痛んだ。


超お嬢様の千聖は、前から何かと学園で浮いている存在だった。何をするにもお取りまきがついてまわって、授業の時は教師ですら千聖には難しい問題を当てないと聞いたことがある。

全く状況は違うけれど、私もまた入学早々から浮きまくっていた。

私はものすごく勉強ができる。あんまり真面目に授業を受けていなくても、横目で黒板を眺めているだけで、学習すべき内容はすいすい頭に入ってくる。
最初は媚びるように私を構っていたクラスメートも、今は私のあまりのそっけなさに辟易して、必要以上には近づいてこなくなった。
私はわかっていた。彼女達は、私と仲良くなりたいんじゃない。

「勉強ができる子がいると便利だから話しかけてみよう。まだ友達いないみたいだし仲間にいれてあげようよ」
そんな風にコソコソ喋っていたのは、バッチリ耳に入っていた。

くだらない。私は別に、1人でも平気なタイプだ。表面的で打算的な人間関係なら、最初から構築しないほうがずっとマシ。
トイレなんか1人で行けばいい。お弁当もさっさと食べて食休みに昼寝でもしていれば、時間はすぐに過ぎる。つまらない人間関係に巻き込まれて、利用されて傷つくのは御免だった。

そんな私のことを、どうして千聖が気にかけたのかはわからない。
仲良くなったきっかけもよく覚えていないくらいだ。多分ホームルームで席が偶然隣だったとか、そういう平凡なものだったと思う。

千聖が有名な会社の重役の娘で、学校にいっぱい寄付金を納めていて、特別な存在であることは知っていた。でもそんなこと、怖いもの知らずの私にとってはどうでもいいことだった。
軽く人間不信気味になっていた私の心に、何の見返りも求めない千聖の笑顔は深く沁みた。
私も千聖も一人ぼっちだったから、普通よりも強く惹かれあったのかもしれない。
授業のあいまの5分休みも、お昼休みも、放課後も、私たちは時間を作って一緒に過ごした。千聖の隣は居心地がいい。
もっとずっと近くにいたい。口には出さなかったけれど、お互いにそう思っているのはわかっていた。


そんなある日、私はクラスメートが学生寮について話しているのを偶然耳にした。

“あの寮に入ると、千聖様とお近づきになれるらしいよ”
“でも特別な生徒しか入れないんでしょ?”

「・・・・それ、くわしく聞かせて。」

突然の私の乱入にびっくりしている彼女達から何とか情報を得た私は、即入寮のための試験を受けた。この時ほど自分の学力に感謝したことはない。
もっとも後から千聖に聞いた話によると「舞だったら試験なんて受けなくても、私の希望で入寮できたのに。」ということらしいけど。

とにかく、私は晴れて寮生になることができた。5月の出来事だった。

私が入寮した時点では、まだ寮に住んでいるのは舞美ちゃんと愛理しかいなかった。
うちの学校は特にいなかにあるわけじゃないし、通常は寮生活を送らなければならない理由はないから、閑散としているのは仕方ない。
私は千聖目当てでここに入ったわけだけれど、もちろん2人はそういうわけじゃない。

同学年とはいえ千聖とはクラスの違う愛理も、スポーツ特待生と生徒会で忙しい舞美ちゃんも、まだ千聖と事務的な話しかしたことがないと言っていた。
そこで、私は橋渡し役を買って出て、2人と千聖の交流の場を設けたりした。最初は探り合う感じだった3人は徐々に打ち解けて、千聖は私といる時に見せるような明るい笑顔を、舞美ちゃんたちにも向けるようになった。


6月が終わる頃にはしっかりもののなっきぃと、千聖の推薦(経緯不明)で高等部の有名人・えりかちゃんが入寮して、今のメンバーが揃った。
千聖が私だけの千聖じゃなくなっていくのはちょっとだけ寂しかったけれど、寮生の前でだけは本来の活発な姿を見せる千聖が可愛くてたまらなかった。・・・私の方が年下だけど。


しばらく学校に来なかった間も、私は千聖のことばかり考えていた。新聞部の事件のことも、ちゃんと自分なりに考察してみた。何であんな記事を書かれてしまったのか、私は当事者として、ちゃんと向き合って考えなければいけなかったから。

散々悩みぬいて、私は、私たちの関係を改めるべきなんじゃないかという結論にいたった。
千聖のことは、今でも変わらずに大好きだと思う。でも私が近くにいたら、また同じことが起こってしまうかもしれない。

私達は、あまりにも近くにいすぎたのかもしれない。みっともないぐらい、お互いのことしか見えていなかった。離れてみて改めてそう思う。
でも今は違う。千聖には私以外の寮のみんなもいるし、桃ちゃんやナツヤキさんもいる。“千聖お嬢様”じゃなくて、ちゃんとありのままの千聖を受け止めてくれる人たちがいる。・・・だから、私がいなくても。


ため息を一つつくと、私は屋上を後にした。その足で向かったのは、高等部の校舎。


「えりかちゃん。」
「舞ちゃん!?えー!今日から学校復帰したの?何だー教えてくれればよかったのに!」

夕日が差し掛かる教室で、頬杖をついてボーッとしていたえりかちゃんは、目を丸くして私をまじまじと見た。

「ごめんね、あんまり連絡しなくて。・・・それより、これ。」

「・・・・舞ちゃん・・・」
私が差し出したものを見て、えりかちゃんの顔から微笑みの余韻が消えた。


「こういうの、えりかちゃんに提出すればいいのかな。・・・退寮届。」



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