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「おかえりなさいませ、お嬢様。」
「・・・・ええ」

お嬢様が大噴火してから少し日が経った。相変わらずマイさんにはかなりそっけない態度を取られているみたいで、ため息をつきながらお屋敷に戻ってくることがとても多くなっていた。

「千聖お嬢様、良かったらお菓子を召し上がりませんか?今日はお嬢様のお好きなスイートポテトをご用意しました。」

厨房からバターとおいもの香りがふんわり立ち上ってきている。元気のないお嬢様を励ましたくて、コックさんに頼んで作ってもらった逸品。どうにか口に入れる気になって欲しいけど・・・

「いい匂いね。いただくわ。ありがとう、め・・村上さん」

お嬢様は少し鼻をひくつかせて、ほんのり笑ってくれた。甘いものに目がない千聖様のご機嫌が、これで少しは治るといいんだけれど。



お嬢様が着替えている間に、私はテーブルを整えることにした。
おやつばっかり食べて、夕食を残してしまう千聖お嬢様だけれど、今日は特別に大きいのを食べさせてあげましょう。
お母さんが美味しいハーブティを送ってきてくれたから、お嬢様にもおすそ分け。ティーポットに茶葉を入れて、ゆっくりとお湯を注いでいく。

「あら、村上さんもお菓子を準備していたの?実は私も」
「えっ本当に?私も実は・・・」

リビングを覗いたメイド仲間たちが、慌てて私のところに駆け寄ってきた。
その手にはパンプキンプリンにショートケーキ。連日添い寝に来ているカンナさんも、さっき手作りのマドレーヌを置いていったらしい。
お嬢様、こんなにみんなに愛されているんだから。どうか一人ぼっちだなんて思いませんように。


「・・・あら、今日のおやつはずいぶんと豪華なのね。」


臨時メイド会議の末、お嬢様にはそれぞれが用意したお菓子を少しずつ食べていただくことになった。
「食べきれるかしら。」

そう言いながらも、お嬢さまの顔はずいぶんほころんでいる。

「全部美味しいですよ。スイートポテトはバターたっぷり、マドレーヌはお口の中でふわふわとろけて」
「まあ、私のおやつなのに、先にみんなで食べてしまったのね。もう」

お嬢様がちょっと怒る真似をしてみせると、いっせいに笑い声があがった。
メイドだろうと、お嬢様だろうと、女の子はおいしいスイーツの前では無条件に機嫌がよくなるものなのだ。

「本当、どれもとても美味しい。村上さん、まだお菓子は余っていて?寮の皆さんにも食べさせて差し上げたいわ。」
お嬢様はふと窓の外に視線を移した。その先にあるのは、学生寮の三角屋根。
食事中にサキさんに余所見を注意されたときも、千聖お嬢様が見ていたのは寮の・・・・多分、舞さんの部屋だったのだろう。

「喜んでくれるかしら。なっきぃも、・・・舞も」


その口ぶりだと、2人とはこじれてしまったままらしい。不安そうな表情で見つめられて、私は勤務中だというのに、2人でいる時みたいにそっと頭を撫でてしまった。

「ちょっと村上さんたら!お嬢様の御髪に!」
「あっ!ごめ・・・じゃなくて失礼いたしました!」

慌てて頭を下げると、千聖お嬢様はクフフと笑いながらも、いたずらを考え付いたときの顔になった。

「村上さん、私を子供扱いして頭を撫でた罰として、今から一緒にお菓子を届けに行きましょう。」
「ええ?でも、まだ仕事が」
「あら、そんなことを言っていいのかしら?私知ってるのよ。村上さんが割った食器を部屋に隠s」
「わー!わかりました、行きます!」

メイド仲間に後片付けを頼んで、私はお嬢様と連れ立ってお屋敷を出た。

「もう、千聖の意地悪!」
「ふふ、・・・・わがままを言ってごめんなさいね、めぐ。めぐはあんまり寮に近づくのが好きじゃないのに。」
「・・・・・・あー、うん、でも別に、嫌ってほどじゃないし。」


何だ、気付かれてた。お嬢様は本当に察しがいい。

私はいろいろわけありで、住み込みでのメイド勤務の傍ら、通信制の高校で勉強している。
自分の選んだ道を後悔はしていないけれど、やっぱり同い年ぐらいのフツウの女の子たちが集う寮に足を運ぶというのは抵抗があった。舞美と私みたいに、個人同士で付き合う分には全く問題ないんだけれども。


「めぐ、手を繋いでもいいかしら?」

「もちろん。」

不謹慎かもしれないけど、弱ったところを見せられるとたまらなくお嬢様をいとおしく思ってしまう。

「千聖にはめぐがついてるよ。」

ちょっと汗ばんだ手と、しっかり胸に抱えられながらも不安定に揺れるバスケットが、お嬢様の心を表しているようだった。



中庭の扉から合鍵で中に入ると、エントランスのソファに小さな人影が見えた。

ブランケットにくるまって、体育座りのまま眠っているみたいだ。

「・・・なっきぃ」

千聖お嬢様はバスケットを私に押し付けて、サキさんのところへ走り寄っていった。

「なっきぃ、起きて。風邪を引いてしまうわ。」
「ん・・」


ゆっくり目を開けたサキさんは、眼前にいるお嬢様に驚いたのか、ひぃっと息を呑んでのけぞった。

「お、おじょ、おじょ×r4a2`:@!!!」

元々高い声が、狼狽でさらにお超音波みたいになってホールに響く。

「なっきぃ・・・良かった、私ずっとなっきぃに謝りたくて。お夕飯の時、ワガママを言ってごめんなさい。なっきぃを嫌いなんて嘘よ。当り散らしてしまっただけなの。」

「千聖様・・・」

青白い頬。ほつれた髪の毛。
学校では風紀委員をやっているというサキさんは、だらしのないところを人に見せることがなかった。
なのに今ソファでうずくまっているその姿は、痛々しいほどやつれて見えた。千聖お嬢様を見つめる瞳だけが爛々としている。


「私こそ、千聖お嬢様のお気持ちも考えずにごめんなさい。・・・舞ちゃんと喧嘩をしてしまったんでしょう?さっきえりかちゃんから聞きました。それなのに私、何て無神経なことを」
「いいの、なっきぃは悪くないの。また私のところへ遊びに来てちょうだい。なっきぃが叱ってくれないと寂しいわ。」

「お嬢様・・・・」



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