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「なっきぃ、ネクタイが曲がっていてよ。」
お嬢様はいつもサキさんにしてもらってるように、少し乱れたサキさんの制服を直してあげた。

「千聖様・・・ありがとうございます。私ずっと眠れなくて。このままお嬢様と気まずくなったら・・・って思ったら怖かった」
「あぁ・・そんな、泣かないで。おいしいお菓子を持ってきたのよ。一緒に食べましょう。」

ちょ、こっちでも食べるのかよ!また夕飯食べれなくなっちゃう!

“村上さんはお嬢様に甘いわ!”なんて夕飯係のメイド仲間が怒る顔が頭に浮かぶ。
でもまぁ、お嬢様が少しずつでも元気を取り戻しているのに、水を差すのは嫌だな。見過ごしてあげましょう。

サキさんとお嬢様は、お嬢様がワガママを発動しなければもともとかなり仲がいい。
さっきの涙が嘘みたいに、2人でバスケットを覗き込んではしゃいでいる。

「これはね、栞菜が焼いてくれたのよ。こっちはめぐ・・・村上さんで、これが・・・」
「おいしそう!キュフフ、さっそくみんなを呼んできますね。」

中島さんが立ち上がりかけた時、背後から「あ・・・」と小さな声がした。

「舞・・・」

学校帰りだろうか。制服姿のマイさんが、玄関扉を半分開けたまま静止していた。

「舞ちゃんおかえり。あのね、千聖お嬢様がお菓子を持ってきてくれたの。みんなで食べよう!」
2人に気を使って、サキさんは不自然なほどに明るい声を出した。断りきれないと踏んだマイさんは、ギスギスしたオーラを纏いながらもしぶしぶこちらへやってきた。

「舞、これとてもおいしいのよ。食べてちょうだい」

必死に笑顔を作って、マイさんに手を差し伸べようとするお嬢様。
でも指が触れようとした瞬間、マイさんはサッと手を引っ込めてしまった。

「ちょっと・・・・」

―あ、ヤバイ。
マイさんのこと怒るなってお嬢様に言われたのに、相変わらず気の短い私は、一瞬頭が熱くなった。

我慢、我慢・・・これは2人の問題。
そう自分に言い聞かせても、なかなか地の性格というのは直らない。
お嬢様がしょんぼりした顔でうなだれる。ああ、もう見てられない!


「あれっ」
「えっ」

我慢できなくなった私が2人の右手を掴んだのと同時に、サキさんも左手を掴んでいた。

「・・・・」

あっけに取られたように、私とサキさんは見つめ合う。

「何?手痛いんだけど」
「お2人ともどうなさったの?」
「えー・・・と?」

多分、やりたいことは一緒のはず。
私たちはアイコンタクトを交わすと、お嬢様とマイさんを強引に握手させた。

「いつまでも意地張らないのー、舞ちゃん。キュフフ」
「そうです!ほらほら、♪なっかなーおり、ハイ、ハイ!」
「ちょっと、何勝手に」
舞さんは顔を赤くして振りほどこうとしたけれど、手がごちゃごちゃに絡まっていて上手くいかなかったみたいだ。
両手をクロスさせて握手して、なおかつ私とサキさんの手まで添えられているから、はたから見ると何かのゲームみたいな状態になっている。

「あれー?めぐ、珍しいね?こっち来るの」
ざわざわした雰囲気が気になったのか、2階から舞美が降りてきた。

「えー何してるの?ウケる!人間知恵の輪?仲間に入れてよー」
「もっ・・・お姉ちゃん!」

舞美が下から手を突っ込んできたから、余計にこんがらがってしまった。
「みぃたん、違うって!遊んでるわけじゃなくてぇ」
「えー何何?楽しそう。」

騒ぎを聞きつけたエリカさん、カンナさん、アイリさんも加わって、もうわけがわからない。

「あはははは!取れない取れない!」
「クフフ、舞美さんのせいよ」
「もうやだ、ちょっといい加減に・・・キュフ、フフフフフ」

あまりのシュールな展開に、脱力した笑いが広がる。
チラッとマイさんの方を伺い見ると、一緒に笑いたいのを我慢して、無理矢理しかめっつらを作っていた。視線の先にはお嬢様。大きな瞳が、一瞬切ない色に染まるのを、私はしっかり見届けていた。

何だ、本当は仲直りしたくてたまらないんじゃない。
天才少女の隠し切れない本心が可愛くてクスッと笑ったら、思いっきり睨まれてしまった。

「・・舞忙しいから上行く。」

少し輪が緩まってきたところで、マイさんは強引に腕を引き抜いて踵を返した。
そのまま行っちゃうのかと思ったら、放置状態だったバスケットから、一種類ずつお菓子を取った。

「ありがとう、・・・ちさと」

それは超早口の小声だったけれど、その声はしっかりお嬢様にも届いたみたいだ。

「良かったね。」
「ええ。」

マイさんの後姿を見つめるお嬢様の顔は、とても柔らかかった。



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