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♪私にだって都合があるわ 強引すぎるのあ・な・た

「うー・・・眠・・・・だる・・」

ケータイのアラームに起こされ、一回だけ寝返りを打ってからベッドを降りる。
翌日、私は低血圧と戦ういつもどおりの朝を迎えた。
壁にかけてあるメイド服に袖を通した後、メイド共用の洗面所で頭から水を被って無理矢理目を覚ましていると、同僚たちがわらわらと集まってきた。

「おはようございます、村上さん。」
「おはよございまーす・・・今日は冷えますね」

雑談しながらシフト表に目を配っているうちに、だんだんと頭が働いてくる。今日の朝は和食のお部屋か。

ものすごい部屋数を誇る岡井邸では、和・洋・中それぞれ違う部屋で食事を取る。
同じ景観では食事が味気ないから、とは旦那様の弁。初めてそれを聞いたときは驚きを通り越して笑いそうになってしまった。

でも面倒くさがりなお嬢様は、洋食でも中華でもお気に入りの和の部屋で召し上がっていることは、ご両親にはナイショ。

「お嬢様は・・・カンナさんが添い寝に来てるのか。そしたら、起こしに行かなくても大丈夫かな?じゃあ先に掃除行ってくるんで、配膳お願いします。」
「はーい。」

いそいそとモップを持ってお嬢様の部屋を通り過ぎると、中から悲鳴みたいな声が聞こえた。

「お、お嬢様!?どうかなさりました?」
「めぐ!栞菜がっ」
「もぉーだから違いますって!」

「入りますよ!」
私はモップを長刀みたいに構えて、部屋に突入した。

「村上さぁん・・・!」
「うひゃっ」

ドアを開けた途端飛びついてきたのは、お嬢様ではなくカンナさんだった。

「え、ど、どどどうしたんです?何事?」

ふっかふかベッドの上のお嬢様は、涙目で体育座りのまま隅に避難している。

「めぐっ栞菜が変なことをするの。ひどいわ、お隣で寝るだけの約束だったのに!」
「なっ!」
「違うんです、お嬢様がぁ」

私は舞美がカンナさんについて「前の学校でレズキャラ扱いされてたらしいよー!確かに栞菜スキンシップ激しいし、クンカクンカしてくるし!とかいってw」と言ってたことを思い出した。

「カ、カンナさん・・・!」
「いや、本当に!だってほら、こんなにバリケードしてあるんですよ?」
栞菜さんが指差したベッドの上には、大量の枕が散乱していた。

「この枕を、三段重ねぐらいにして私との境界に置いてるんです。私がついつい頭撫でたりギュッてやっちゃうから。
だから絶対にはみ出さないように気をつけて、私いつもお嬢様が寝てから端まで寄って眠ってたのに、今朝起きたらお嬢様が背中に引っ付いてきてて。だから私、今日は甘えんぼうなお嬢様なのかなって思って」
「思って?」
「・・・ふざけて “おはよう千聖。昨日の夜は激しかったね”って耳元で囁いたら悲鳴あげられちゃった」

「あっはっはっはっは!!」

思わず爆笑すると、千聖お嬢様は顔を真っ赤にして枕を投げつけてきた。

「もう、ひどいわ2人とも!私はただ、ただ・・・もうちょっと近くで眠ってみようかと思っただけなの!そしたら栞菜が、急に体に触って、変なこと言うから」
「だってだって、ほら、据え膳食わぬは男の恥とか言うじゃない!だから、いいのかなって勘違いするじゃん!急に近寄ってきたら!」

いいのかな、って何が!ていうかあんた男じゃないじゃん!

「じゃあお嬢様、次から添い寝は違う寮生にしてもらいますか?」
「ええっ!?」

カンナさんは情けない顔で抗議のまなざしを向けてきた。いちいちリアクションの面白い子だなあ。

「・・・いいえ、栞菜がいいわ。公立の学校や街のお話をたくさん聞かせてくれて楽しいもの。でも、もう枕の向こう側には行きませんから。」
「ションナ・・・お嬢様のケチ!」
「何ですって!」

超低次元の言い争い。成績優秀で趣味は読書というカンナさんは、どちらかといえば真面目っぽい子だと思っていたけど、お嬢様のやんちゃな部分と波長が合うらしい。

「さあ、もう朝食の時間です。早くお着替えになって、和食のお部屋へいらしてください。」

「栞菜、着替えましょう。絶対に千聖の方を振り返っちゃダメよ!」
「わかりましたってばー」

しぶしぶ後ろを向いたカンナさんが、こっそり私に笑いかけてきた。何か、この子とは仲良くなれそうな気がする。
お屋敷の同僚は基本的に年上だし、そろそろ舞美だけじゃなくて、私も少しずつ同年代の友達を増やしていったほうがいいのかも。

「栞菜、今日は久しぶりにネクタイにするから結んでちょうだい・・・あっまだ振り向いてはだめよ!だめだったら!」
「イタタタ、首ねじらないでくださいって!ワガママお嬢様」
「誰がワガママですって!」

また始まったじゃれあいを背中に、私はドアをそっと閉めた。
ちゃんと伝わってきた。カンナさんは、お嬢様がマイさんと拗れてしまったことで受けた悲しみを癒してあげようと、素よりも若干明るく振舞っているんだろう。寮の人たちは本当に優しいなあ。

私の脳裏には、また懐かしい友達の顔が浮かんでいた。ずいぶん時間が経ってしまったけれど、そのうち連絡を取ってみようかな。そのうち、が明日なのか1ヶ月後なのか、それとももっと先なのかは決めていないけれど。

「さて、仕事仕事!」

焼き魚の香ばしい匂いが漂ってくる。
何だかとてもすがすがしい気分の朝だった。



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