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―仲直り大作戦会議の前日―

「舞美どうしたの?最近不調じゃーん」
放課後の部活中、800mの測定を終えて休憩していると、千奈美が横に腰を下ろして話しかけてきた。今日のバド部は外練らしい。ラケットを振り回しながら、顔を覗き込まれる。

「わかっちゃう?」
「そりゃあマブダチのことですからー。・・・なんかあった?舞美さ、へこんでるとすぐ走りに反映されちゃうよね。うちでよければ話聞くよ?」

千奈美は暴走しまくるキャラに見えて、意外と人の変化に敏感な子だ。いつもどおり振舞ってるつもりだったのに、私の心模様を読み取ってくれた。何だか無性に甘えたくなる。

「私さ、鈍いじゃん。」
「うん」

千奈美即答。

「ええっフォローなしかい!・・・まあ、それでなんかね、寮生の舞がね、急に千聖お嬢様を嫌いだなんて言い出して・・・でもすごい無理してるっぽいから何か事情が・・千奈美?」


私が2人の名前を出した途端、千奈美の顔色があからさまに変わった。鈍感な私が気付くぐらいだから、相当動揺させてしまったのだろう。

「千奈美?」
「・・それ、多分うちらのせいだ・・・・」
「えっ、うちらって、どういうこと?何か知ってるの?」

千奈美はわたしが知ってるかぎり、お嬢様とも舞ともこれといって接点はなかったはず。でも今口ごもる千奈美の様子からすると、とても無関係とは思えない。

「千・・」

「みぃたん、その人から離れて!!!」

その時、いきなり背後から大声で名前を呼ばれた。振り向くまでもない、その甲高い声は・・・

「ちょ、待って待って!なっきぃ落ち着いて!」
「なっきぃ!」

さらにえりたち寮のみんなも後からやってきた。

「私、新聞部を絶対に許さない。よくもあんなひどいこと・・・!今日から新聞部はお嬢・・・寮の敵だから。離れて。」

千奈美がなっきぃのあまりの迫力にあとずさる。もしオーラというものが見えているなら、なっきぃはスーパーサイヤ人みたいな状態だろう。

なっきぃは生徒のお手本の模範生で、いつもみんなの生活態度には人一倍気を配っている。曲がったことの大嫌いな子だから、時にはまったく知らない生徒を叱りつけるような強い一面も持っている。
でも今のなっきぃは、叱るとかそんなレベルじゃない。完全に激怒している。こんななっきぃは初めて見た。誰も声をかけることができず、私たちの周りだけ時間が止まってしまったかのように静まり返ってしまった。


「・・・新聞部は、敵だから。」


もう一度なっきぃがつぶやいた。そのほっぺたに涙が落ちると同時に、千奈美も口を覆って走っていってしまった。

「千奈美!」
「みぃたん!」
「ごめん、何があったかわからないけど、千奈美は私の友達なの!敵なんかじゃないよ。話あとでちゃんと聞くから、今はごめん。生徒会室で待ってて。」

私はカミカミになりながら一気にまくしたてて、千奈美を追いかけた。


「・・・いた。」
「まぃ”み”ぃ・・・・」

グラウンドの裏手の水道の前で、千奈美は両足を抱えてうずくまっていた。私を見上げた表情にいつもの明るさはなくて、胸がズキンと痛くなる。

「何か、ごめんね。って私が謝っても仕方ないんだけど。」
「ううん。中島さんの言うとおりだよ。新聞部が悪い。萩原さんと千聖お嬢様を、うちらがぐちゃぐちゃにしちゃったんだ。・・・ねぇ舞美、こんな部はもう廃部になったほうがいいのかな?最低だよね。みんなを楽しませるはずの学校新聞なのに。」

千奈美の話によると、どうも新聞部の暴走記事で、お嬢様を中傷するネタがあがっていたらしい。それを嗅ぎつけた舞と部長の間で一悶着あったということみたいだ。

「うち、全然知らなかったんだ。メインの記事は担当してなかったし、バド部もあるから情報遅くて。だから記事の内容も結局詳しくは知らないまま。ただ、相当おかしな内容だったのは確かだよ。いまだに誰もその話したがらないもん。」

千奈美は手持ち無沙汰に、前の水溜りに小石を投げながら語り出す。

「おかしいよね、最近の学校新聞。ほら、先月も三年の美人な先輩尾行して、彼氏とデートしてる一部始終掲載したりしてたでしょ。その前は嫌いな先生ランキングとかやったり。
うち本当そういうの嫌で、新聞部さぼりがちになっちゃってるの今。ごめんね、舞美にまで気を使わせて。」
「そんな・・・・千奈美が謝ることじゃないよ。その記事を書いたのは、千奈美じゃないんでしょ?私は千奈美を敵だなんて思わないから。
新聞の内容は、なんていうかそこまで気にして読んでなかったから何も感じてなかった。だめだ、また鈍感まいみぃだね。
後で今までのちゃんと目を通してみる。部員がおかしいと思うような状況なら、生徒会として少し口出しさせてもらわなきゃいけないのかもしれないし。
でも千奈美、できたらこれからも記事書いて?私、いつもあれ楽しみにしてるんだよ、千奈美の担当コーナー・・だじゃれをいうのはだれじゃ!」

千奈美の投げてる石が変な方向に落下した。

「ふはっ!・・・もー、舞美ってさぁ・・・・・」
「えっ、な、何?何か変なこと言った?」
「ううん。・・・ありがとうね。そろそろ行こうか!ランニングさぼってるのバレたら怒られちゃう。」

いつもの千奈美スマイルで、私の肩を手すりがわりにシューズを履き直す。

「それじゃ、私は生徒会室行くから。」

校舎まで見送ってくれた千奈美は、ふと表情を緩める。

「・・・くれぐれも、副会長様によろしくね。このままじゃうち、なっきぃだけに、亡っきぃ者にされちゃう!」
「・・・あははははは!超ウケる!」
「でしょ!今の自信作!どうよ!」
「私、千奈美のダジャレはもっと評価されるべきだと思うんだけど!」
「そんなこと言ってくれるの舞美だけだよー!クラスとか、もう失笑の嵐ですよ!」


そんな場合じゃないのに、ついついバカみたいに大笑いしてしまった。うん、やっぱり千奈美は元気をくれる!

「あとでメールか電話するね!」

バイバイした後も楽しい気持ちの余韻が胸に残っていて、私は鼻歌まじりに生徒会室前まで来た・・・の、だ、が

ドア越しにも感じる重苦しいオーラに、思わず中へ入るのをためらってしまった。

―いやいや、私は生徒会長!あらゆる問題に正面から立ち向かっていかなくては!

深呼吸を一つして、私はドアノブをゆっくり引いた。



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