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予想通り、生徒会室の空気はどんよりと曇りきっていた。

「ごめんね、お待たせ!」

なるべく明るい声で部屋に入ると、机に伏せっていたなっきぃが顔を上げた。

「みぃたん・・ごめんなさい、さっき。私取り乱していて。みぃたんの友達にあんなこと言うなんてどうかしてた。」
「大丈夫だよ。千奈美ももう元気になったから。もし気になるなら、あとで謝りに行こう。舞美も付き合うよ。」
「うん。」

まだちょっと赤い目元が痛々しい。
なっきぃは物をはっきり言うタイプの子だけれど、わざと喧嘩を売ったり挑発したりするタイプじゃない。それだけに、さっきなっきぃが千奈美にぶつけた言葉にはびっくりしてしまった。

「なっきぃ、ウチから舞美に話してもいいかな?舞ちゃんがあんな態度を取る本当の理由。」
「・・・うん。でもなっきぃはもう聞きたくないから、廊下にいるね。」

そう言って立ち上がりかけたなっきぃを、「待って」と栞菜が引き止めた。

「これ、耳ふさがるから。廊下は寒いし、寂しいよ。」
バッグから取り出したのは、大きなヘッドフォン。なっきぃの耳にスポッと被せて、カチャカチャと操作ボタンをいじくっている。

「・・・ありがとう」

普段のなっきぃなら「栞ちゃん!勉強に関係ないものを学校に持ってきちゃ云々」て風紀委員長モードで叱るだろうに、されるがままにもう一度席に座りなおした。

「私、お茶入れてくるね。」


愛理は部屋の端っこの洗い場にポットを持って移動した。いつものふわふわした足取りじゃなくて、どこか後ろ姿に緊張が走っている。


「先にみんなには話したんだけど。実はね、新聞部が・・・・・」


ヘッドフォンからかすかに音楽が聞こえてきたのを確認してから、えりが話を始めた。



えりは、舞が学校に復帰したあの日、直接話を聞いたらしい。千奈美は知らないと言っていたその記事の詳細を、少し言葉を詰まらせながら教えてくれた。


「舞ちゃんは、千聖お嬢様のこと本当に大好きなんだね。だからもうお嬢様が根拠のない中傷で汚されないように、自分がいなくなればいいって考えたみたい。・・・本当に苦しかったと思うよ。あんなにいつも一緒だったのに」

その時の舞のことを思い出したのか、えりは後ろを向いてハンカチで目をぬぐった。

「・・・・どうして・・・?何でそんな記事を?」

話を聞いているうちに、私の心臓の鼓動はどんどん早まっていく。
あの無邪気で可愛いお嬢様を、平気で傷つけようとする人がいるなんて。それも、嘘の内容で。

なっきぃが二度と聞きたくないと言った理由がよくわかった。気をまぎらわすように手遊びを繰り返している栞菜も、一点を見つめたまま微動だにしない愛理も、みんな表情は硬かった。

「新聞部はお嬢様のこと、嫌いなのかな?」

「・・・多分それは違うと思う。」

いつの間にかヘッドフォンを外していたなっきぃが、私の方をじっと見つめていた。

「違うって?」
「・・・・・」

なっきぃはまた言葉を探すように黙り込む。理解力の乏しい私じゃ、なっきぃの言わんとすることがわからない。仕方なく話を続けることにした。

「でもさ。嫌いじゃないのに、こんなことするのって変じゃない?これはどう考えても、悪意のある行動でしょ?」
「うーん。・・単なる悪ノリっていうか、話題性のために書いたんじゃないかな。悪意にも満たないわるふざけで」

えりはそう言うけれど、私にはそんなくだらないことで平気で人を傷つける人がいるなんて信じられなかった。・・・信じたくなかった。

「もしかして嫉妬もあったのかもしれないね。お嬢様、学校ではわりと大人しいじゃない?お金持ちなのにまったく威張らないところが、逆に面白くなかったとか。」
「千聖お嬢様が性格悪いタイプだったら、陰口で発散したりできたかもしれないけどね。有名人なんだからこれぐらい書かせろ!って意識はあったと思うよ」

―みんな、すごい推理力だ。どの意見も何だか説得力があって、私はいちいちふんふんとうなずいて聞き入ってしまう。


「・・・・私が許せないのは」


ふいに、黙り込んでいたなっきぃが口を開いた。


「許せないのは、この人たちは千聖お嬢様のことなんて何も知らないくせに、あんな捏造記事を公表しようとしたこと。
えりこちゃんの言うとおり、多分記事作った人は別に千聖様のこと自体はどうも思ってないんじゃないかな。何か、浅いもん。内容が。」

なっきぃのぷっくりした唇が少し震えた。

「よく知りもしない人のことを、ここまで中傷できるなんて信じられない。お嬢様が何をしたっていうの。
千聖様は、静かに学園生活を送りたいだけなのに。性格が悪くて友達がいないなんて、そんなわけないじゃない。
千聖様がどんなに優しくて心の綺麗な方だか何にもしらないくせに。お金で買った人間関係だなんて・・・・よくも、そんなことを」
「なっきぃ。」

私は席を移動して、なっきぃのちっちゃな頭を撫でた。なっきぃはみんなよりもお嬢様にたくさん注意やお小言を言う分、誰よりもお嬢様のことを深く理解している。怒りで取り乱してしまうのも無理はないと思った。

「お嬢様はこのことは知ってるの?」
「ううん、まだ話してない。言うべきか言わないでおくべきか、ウチが独断で決めるのはどうかと思って。どうなんでしょう、生徒会長!」
「生徒会長!」
「生徒会長!」

うぐぐ!みんな、こういう時は団結するんだから!

「えーと・・えーと・・・」

私は結構優柔不断で、みんなからの即決を求めるプレッシャーには弱い。
あわてない、あわてない。少し時間をもらってから、ちょっと気合を入れてみんなの顔を見渡す。


「決めた。お嬢様には、まだ話さない。先に、今から新聞部へ行きます。部長と話してくる。みんなはここで待ってて。」
「・・・あ、私も一緒に行っていいかな」

ずっと口を閉ざしていた愛理が、静かに立ち上がった。

「う、うん、うん。じゃあ、愛理と行って来ます。」

普段どおりのおっとりした口調なのに、愛理が纏う威圧感は相当なものだった。
それはいつも穏やかな愛理の、なっきぃとはまた違う怒りの表し方なんだろう。

有無を言わさないその態度に驚いて、私はつい二つ返事を返してしまった。



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