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「あのさ、変な話聞いたんだけど。」

翌日の昼休み、生徒会室に向かう途中で、私は唐突に佐紀にそう切り出された。

「話?」
「うん、何か生徒会が新聞部に殴りこみに行ったって。」

うげっ!な、何でそのことを!

「・・・その反応だと、本当のことみたいだね。新聞部の子に聞いても何かはっきり言ってくれないからさ、ちょっとモヤモヤしてて。何かあったの?」
「うーん・・」

もちろん、佐紀を信用してないわけじゃない。いつも公平に俯瞰で物事を捉えてくれるから、私はあんまり人に話せないような個人的な悩みも、佐紀にだけは打ち明けたりもしている。
でも今度のことは・・・私が今勝手に話していいものじゃない。新聞部に友達がいるならなおさらだ。

「殴りこみっていうか、最近の記事が過激になってきてたのが気になったから、そのことで注意をね。」
「そうなの?だけど、私その話知らなかったよ。生徒会として注意しに行くなら、私にも教えて欲しかったな。一応、幹部なんだし」
「あ・・そ、そうだよね。ごめん」

何となくきまずい感じになって、私達はそれきり黙って歩いた。


―ああ、もうえりかのバカバカバカ!ちゃんと周りへの配慮とか、フォローも考えておくべきだった。舞美があの通りガーッと突っ走ってしまうタイプなんだから、誰かがストッパーにならないといけなかったのに。

しかも、私はまだ舞ちゃんに新聞部とのことを話していない。完全に言いそびれてしまった。順番があべこべなまま、お嬢様と舞ちゃんの仲直り作戦だけが進行してしまっている。

どうしよう、困ったことになったぞ。
いろんなことのタイミングが悪すぎて、私は完全に行き詰ってしまった。

「あ・・・お疲れ様です。佐紀さん、えりかさん。」
「お疲れ様でーす」
「ごきげんよう、千聖お嬢様。」

生徒会室には、千聖お嬢様と茉麻とお嬢様がいた。2人して中等部の数学の教科書を見ながらお弁当を食べている。

「よかった、もう誰も来ないのかと思ったわ。あの、佐紀さん。数学のインスウブンカイを教えていただけるかしら。授業を聞いても、全然わからなくて。」
「よかった、佐紀ちゃん来てくれて。ウチも数学できないから、2人で首ひねってたとこなんだ。あはは」
「もちろんいいですよ。お嬢様は勉強熱心ですね。」

佐紀はお嬢様の横に座って、ノートと教科書に目を通し始めた。

生徒会の仕事を手伝うようになってから、お嬢様は少しずつ明るくなってきた。明るい茉麻や面倒見のいい佐紀とも心を通わせつつある。舞ちゃんが側にいなくても笑顔を見せる千聖お嬢様を、私は少し複雑な気持ちで見守っていた。

「いいですか、お嬢様。これはたすきがけという方法で解くことができるんですよ。ほら、この公式。」
「えと・・・じゃあこれは(X-3)(X-6)だから・・・」

佐紀の説明を聞きながら、お嬢様は熱心にノートを埋めていく。前は、舞ちゃんが「千聖こんなのもわからないの?やっぱり舞がいないとだめなんだねー」なんて嬉しそうに言いながら勉強を教えていたのに。
舞ちゃんはきっとこんな光景を見たら、傷ついてしまうだろう。


「ありがとうございます。佐紀さんのご説明はとてもわかりやすいわ。こっちの問題も、今の公式を使えばいいのね?」
「はい、そうですよ。お嬢様は飲み込みが早いですね。えりかに教えるよりずっと楽だわ。」
「うふふ、えりかさんもお勉強お得意じゃないものね」

いつものようにいじられただけなのに、心が沈んでいた私は不覚にも泣き出しそうになってしまった。

「どっ・・・どうせ」
「え?」
「えりか?」

「どうせウチは勉強ができませんよ!」
「ええっ?ちょっと、えりかちゃん?」

生徒会室を飛び出して、廊下をバタバタを走る。
私は運動神経がいいほうじゃないから、3人のうち誰か追いかけてきたら捕まってしまう。・・・でも、誰も私の後を追ってはくれなかった。それも余計に悲しみを煽った。

「うぁ~・・・」

私は半べそをかきながら、屋上へ上がった。誰もいないのを確認して、舞ちゃんとお嬢様の定位置―給水塔へと足を運ぶ。

寝転がって空を眺めているうちに、少しずつ冷静さが戻ってきた。・・・どうせ私は勉強ができませんよって。小学生か。ひどい捨て台詞を残していったことがだんだん恥ずかしくなって、私は1人でごろごろ転がりながら悶絶した。



「・・・えりかちゃん、落ちるよ。」
「ふわっ」

ふいに視界に陰ができたかと思うと、舞ちゃんが私の顔を覗き込んでいた。


「もう、ここは舞の場所なんだからね。人がいるからびっくりしちゃったじゃーん。」
「・・舞ちゃんだけの場所なの?千聖お嬢様と舞ちゃんの場所じゃないの?」
「え・・な、なんで泣くの?」

舞ちゃんは慌ててティッシュを取り出して私の顔を拭いてくれた。

「えりかちゃん、本当よく泣くなあ。なっきぃとえりかちゃんは泣き虫コンビだね。」
「ごめん・・・・なんかウチ今日変。何やっても上手くいかないみたい。」

舞ちゃんはいつも真剣に私の話を聞いてくれるから、ついつい愚痴をこぼしてしまいたくなる。私の横に腰を下ろして、何にも言わずに寄り添ってくれる優しさが心に染み込んだ。

「あのさ・・・最近みんな変なのは、私と千聖のために動いてくれてるからなんだよね。私にメイドさんの見習いやらせたり、千聖にベッタベタしたり。えりかちゃんが情緒不安定気味なのは、それと関係あるんでしょ?」
「え?あ、えーと・・・」

舞ちゃんがポツリともらしたその言葉に、私はとっさに反応できずに口ごもる。

「あれ、きっついよー。村上さん目力すごいし、ミスするとぶわーって怒ってくるし。ま、上手くやると褒めてくれるんだけどさ。・・・えりかちゃん?」
「舞ちゃん、あのさ」

このタイミングしかない。私はずっと言いそびれていた、新聞部のことを舞ちゃんに打ち明けた。特に驚いたり怒ったりする様子もなく、舞ちゃんは私の顔をジッと見つめていた。


「・・・舞ちゃんの承諾もらってないのに、みんなに話してごめん。ウチ、早く舞ちゃんとお嬢様に仲直りしてほしかったの。」
「いや、別にいいよ。ていうか、大体様子見てればわかるって。みんな知ってるんだろうなって何となく気付いてた。
それに、寮のみんなは私にとって家族だから、知られて困るような人はいないよ。・・まぁ、あの、有原さんのことはまだよく知らないけど。千聖に優しいから悪い人じゃなさそうだし。」

そうはいいつつも、やっぱり栞菜のお嬢様への過激なスキンシップはお気に召さないらしい。舞ちゃんの鼻にしわが寄っていた。



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