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「あ、ごめん話が逸れちゃったね。あの、ありがとう、新聞部のこと。」
舞ちゃんは私の指をいじくりながら、照れくさそうに笑った。

「あー、うん。まあ、直接話にいったのは舞美と愛理だけなんだよ。あの超怖そうな部長さん相手に、すごい頑張ったみたい。ウチだったら3秒で言い負かされてボロ泣きだよ。」
「・・・そう?別に怖くないよあんな人。舞、口げんかで負けたことないもん。」

当たり前のことみたいにサラッと言われて、私はあいまいな笑いを返すことしかできなかった。

「舞ちゃんさ、もうこれで千聖お嬢様とわざと距離を置くような理由はなくなったじゃない?仲直り、できない?もう、みんなの作戦に乗っかったふりしてさ。」
私の提案に、舞ちゃんのあの意志の強い瞳が揺らいだ。めったに見せないその表情は、私の心臓をズキンと突き刺した。

「仲直り・・・したい。でも、私あんなひどいこと言って、今更どんな顔して千聖に謝ったらいいのかわかんないよ。怖い。」

“もう、千聖のワガママにはうんざりなの”“一人じゃ何にもできないじゃん”

数日前、私と舞美の前で、舞ちゃんがお嬢様にぶつけた言葉がよみがえってくる。
心にもないような悪口でお嬢様を傷つけながら、自分も同じだけ――もしかしたらお嬢様以上に傷ついていたのかもしれない。

「私ね、千聖のことが大好きなの。多分みんなが思ってるよりずっと好き。」
「うん。」
「だからもう千聖が変な噂で汚されないように、自分から嫌われるように仕向けた。そんなの嫌だったけど、あの時はもう、他の方法が思いつかなくて。・・えりかちゃんに問い詰められるまでは、寮のみんなにもあの記事の話はするつもりなかったし。」


遠くで昼休みの終了を告げるチャイムが鳴っていたけれど、私も舞ちゃんもこの場を離れようとはしなかった。5限目は化学だったっけ。大事なミニテストがあるんだっけ。でも私はそんなものより、一人で苦しんでいる舞ちゃんの側にいることのほうが大切なことだと思った。

私の指をいじる舞ちゃんの手を捕まえて、強く握り締める。ちょっと驚いた後はにかんで笑う可愛い顔を見ているだけで、なぜかまた涙腺がジワッと刺激されてしまった。

「結局、私が千聖に一方的に絶交を言い渡しただけで、千聖からは何も言われなかったんだよね。途中で逃げちゃったから。
今私が千聖に謝って、もし千聖が許してくれなかったら・・・もう舞なんて嫌いって言われたら、私多分生きていけない。」
「そんな・・・」
「それぐらい、私にとって千聖は大切な存在なの。他の誰に何言われたっていい。千聖と話したり、触ったりできなくても大丈夫。・・・でも、直接千聖に嫌いって言われるのだけは耐えられないよ。」

動揺を隠せない私と違って、淡々と話すその姿が返って痛々しく感じた。
舞ちゃんがどんなに千聖お嬢様を好きなのか、私なりに理解していたつもりだった。
でもその思いは私が考えていたよりもずっとずっと深くて・・形式的な慰めの言葉なんか絶対に届かないような、神聖なもののように感じられた。

「舞ちゃん、お嬢様だって舞ちゃんのこと大切に思ってるんだよ。」

「え・・・」
「舞ちゃんがメイドさん見習いやってること、お嬢様はすごい気にしてるの。何かにつけてめぐに“舞をいじめないで!”なんてプンプン怒ってみせたりして。
栞菜のスキンシップだって、嫌がりながら楽しんでるけど・・・やっぱりどっか、舞ちゃんのいない心の隙間を埋めようとしてるようにウチには見える。
舞ちゃん、大好きな人にはちゃんと大好きって言わなきゃだめだよ。ウチは舞ちゃんが頭よくて、すごい思いやりのある子だってわかってる。でも、頭で考えてるだけじゃ伝わらないことってやっぱりあるんだよ。・・・あ、何かごめん。余計なこと言ったかも。」

舞ちゃんはびっくりしたような顔で、口をつぐんで私を見ていた。

「・・・ううん。舞、あんまり千聖以外の人に説得されたりすることがなかったから、びっくりしただけ。謝らないで。むしろちょっと嬉しい。とかいってw」
舞美の口調を真似するイタズラな表情が可愛くて、思わず2人で笑いあう。

「さっきも言ったけどさ、ウチらの作戦に乗って、お嬢様と仲直りしたらいいんじゃないかな。多分それでうまくいくと思うよ。」
「うん・・・」

私達は5限の時間をフルに使って、少しずつお嬢様と舞ちゃんの距離が縮まっていくような作戦をたてることにした。


その時はまだ、知らなかった。
私がいなくなった生徒会室に、新聞部の部長がお嬢様を訪ねて来ていた事を。



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