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「それじゃ、また休み時間に来るから。お大事にね。」
「ごめんね・・」

どうにか動悸が治まった私は、ひとまず保健室のベッドで寝かせてもらうことになった。

「梅田さん、朝ごはんは食べた?隈がひどいけど、寝不足なんじゃない?だめだよ、まだ成長期なんだから規則正しい生活をしないとね。何か悩んでいることでもあったら、先生いつでも聞くからね。」
「すみません、ありがとうございます。すみません・・」
「あらあら、大丈夫?ここにティッシュ置いておくから、ゆっくり休みなさい。」

保健の先生が優しくしてくれたのが、かえって辛い。
いつも私はこうだ。楽しいときは誰よりはっちゃけて騒ぐのに、ひとたび気分が落ち込むと、小学生みたいにいつまでもびーびー泣いてしまう。
いつぞや中等部の子に言われた“えりかお姉さま”の名に似つかわしいぐらい、悠然と構えていられるようになりたいけれど、なかなか思い描いたようにはならない。

「疲れた・・」
オジサンみたいな独り言が、無意識に口から出た。
いろいろ考えなきゃならないことはたくさんあるけれど、今は、心を落ち着る時なのかもしれない。
少しずつ瞼が下りてくる。私はゆっくり目を閉じて、ちょっと硬い保健室のベッドに身体を委ねた。





「・・さん。梅田さん。」

「ん・・」

「梅田さん、起きれる?」

「!っは、はい!大丈夫です!」

授業中に居眠りを注意された時みたいに、私はガバッと飛び起きた。ベッドサイドに保健室の先生が立っている。

「もうすぐお昼休みだけど・・・調子はどう?」
「よくなって来ました。ちょっと疲れてただけみたいです。」

たっぷり休んだから、やっと頭が働いてきた。まだちょっと怖いけれど、今ならお嬢様ともしっかり話ができそうな気がする。


「梅田さんが寝てる間にね、いっぱいお見舞いの人が来てたんだよ。」
「え・・・」
「生徒会のメンバーも来たし、同じクラスだって人や中等部の子も。梅田さんは人気者だねー」

いやいやそんな、何て照れ笑いしながらバッグを持ち上げると、小さなピンクの封筒がヒラリと落ちた。

心臓がドクンと音を立てる。――千聖お嬢様だ。
お嬢様は手紙を書くのが好きで、お屋敷のお手伝いの後、よく寮生にこの可愛らしい封筒を手渡してくれていた。
学校であった楽しかったことや嫌だったこと、いろんな気持ちが書かれたお嬢様からのその手紙が、私は大好きだった。


「ああ、それ。中等部の岡井さんが授業の合間にお見舞いに来たんだけどね、そこの机で一生懸命書いてたよ。」
封筒にはお嬢様の使っているバニラのコロンの香りがかすかに残っていて、私は無性に切なくなった。
お嬢様自身が辛くて悲しい気持ちを抱えているときなのに、わざわざ私のお見舞いに来てくれて、しかも手紙まで。

「・・・ぜんぜぇ・・・!」
「もう、梅田さんは本当泣き虫だね!しょうがないなあ」
「ごれは嬉じ泣ぎでずぅ・・・!」

気を使ってくれた先生がベッドを離れた後、私は便箋を取り出して、手紙に目を通した。


そこには私の体調を気遣う文章の後に、こう添えられていた。


“お嫌でなければ、また、千聖のことを構っていただけたら嬉しいです。わがままを言わないように気をつけます。”


何度も何度も書き直した跡の残るその一文を見て、私はガバッと跳ね起きた。カバンを掴んで、まっすぐに保健室のドアへ向かう。

「梅田さん?」
「もう大丈夫なんで、教室戻ります。ありがとうございました。」

頭を下げる私に、先生は優しい顔で「頑張って!」と言ってくれた。

「・・・はい!」


ヘタレな私も寮では最年長だから、どうしても甘える場所がなくなってしまう。優しい大人に温かく励まされて、私は「よしっ」と気合を入れなおした。


早く会いに行かなきゃ。
お嬢様は私たちが義務で自分の相手をしてると思い込んでる。それでも構ってほしいと言うその心中を考えたら
、私はもういても立ってもいられなかった。
上手い言葉なんていらないから、しっかりお嬢様の目を見て、誤解が解けるまでじっくり話したい。
舞美達がちゃんと新聞部の部長に立ち向かって行ったように、私もぐじぐじ考えていないで、行動に移すべきなんだ。

階段を降りて、渡り廊下を早足で抜けて、中等部の校舎を黙々と歩く。
角を曲がればもうお嬢様のクラス・・・というところで、なにやらざわざわ騒いでいる声が聞こえた。

「舞美、離せコラー!」
「まま待って待って桃子!」
「もも落ち着いてよ!」


中等部の生徒達の輪の隙間から覗き見ると、肌寒い季節だというのに、舞美が額に汗を浮かべてなにやらテンパッていた。横にいるのは茉麻?ちょっと角度を変えてもう一度三人の様子を盗み見てみた。

「離せー!千聖ー!出てきなさい!」

なっきぃとはまた違う種類の高音アニメ声で騒いでいるのは、舞美のクラスのツグナガさんだった。右手を舞美、左手を茉麻に掴まれて、時々若干中に浮きながら目を吊り上げてわーわーと声を上げている。
その様子は3日ぐらい前にテレビで見た“捕らえられた宇宙人”みたいで、私は思わず「んむふっ」と変な笑い声を出してしまった。


「あっ、えり!ちょっと助けて!」

めずらしくせっぱつまった舞美の声で、モーセの十戒みたいに生徒の輪が2つに割れていく。
私はちょっと慌てて、3人のところへ駆け寄って行った。



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