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「ももー、こっちこっち。あったよー!」

昇降口のすのこをひっくり返していた私を、裏のゲタ箱にいたくまいちょーが大きな声で呼んだ。

「ここ、ここにあった。」
「ほうほう、今日はまた新しい場所ですな。・・ってアホクサ。」

体育の授業で校庭に出ている間に、私の上履きは消えていた。まあ初めてのことじゃないから別にどうってことないんだけど、今日は中等部との合同授業で、くまいちょーと一緒だった。
別にいいって言ったのに、くまいちょーは上履きの捜索を始めてしまった。くまいちょーの場合、あんまりかたくなに拒むと逆効果になる。
あくまで“隠された”ではなく“なくした”ということにして、ひとまず探索を手伝ってもらうことにしたのだった。


「ありがとうー。ここかぁ!ここじゃ気付かないよね。くまいちょーの身ch・・・じゃなくて、捜索能力がないと。」
「でもさ、もも、何でこんな高いとこに置いたの??ていうか、どうやって?ももの身長じゃむりじゃない?」

本日の上履きの隠し場所は、反対側の下駄箱の一番上の隅っこ。じっくり探したつもりだったのに、ちびの私じゃ目が届いてかなかったらしい。
くまいちょーは身長のことを言うと激怒する(まだ伸びてるらしい。成長の神秘!)から、あんまりそこは引っ張らないことにした。

「いやぁ、何か1人宝探しごっこみたいなノリ?もぉ自分で隠した場所すぐ忘れちゃうからさぁー。」
「えーそれ、面白いの?やっぱりももって変人だよねー。」

かなり無理のある説明だったのに、なぜかくまいちょーは納得した。
これで実は上履き隠されてましたなんてバレたら、真面目でマジレッサーなくまいちょーは、私を引きずって職員室に乗り込んでしまうところだ。危ない危ない。

「じゃあ、私教室戻るね。上履き、見つかってよかったね!」
「ん、ありがとぉ。またねー」

るんるんスキップのくまいちょーの背中が遠ざかっていく。優しいなあ。自分のことみたいに喜んじゃって。

「さて。」

私は救出された上履きを履いて、こっそり下駄箱に引き返した。

犯人はもうわかっている。私のことを気に入らないらしい、同じクラスの4人グループ。
今までも靴隠しはもちろん、教科書隠しとかやられたことがある。もっとも、少し探せば見つかるぐらいの範囲でだけど。
バレてないつもりなのかもしれないけれど、そんなのは風評で大体伝わってくる。

「あほくさー。」

彼女達は、決定的なイジメ行為はやらない。いや、できないんだ。チキンだから。どうせやるなら、もっと徹底的に仕掛けてくればいいんだ。例えば・・・おっといけない。黒桃子が出てくるところだった。

とはいえ、やられっぱなしでスルーできるほど私は人間ができていない。
弟の机から拝借してきた小さいスーパーボールを、4人の上履きにこっそりしのばせておいた。これ踏んづけて地味に痛い思いしやがれ。


「ん?」

ふと顔を上げると、柱の影に誰かが引っ込んだのが見えた。
あのグループ・・じゃないな。やつらは1人じゃ行動できない。
ちょっと気になって、抜き足差し足で忍び寄ると、いつものブリッコ桃子で「ハロー♪」と言いながらにゅーっと顔を出した。


「きゃあっ!?」


「えっ?大丈夫?ごめんごめん、そんな驚くと思わなかった。」

ぺたんと女の子座りで腰を抜かしているのは、見たことのない子だった。赤いリボンだから、中等部の子か。
男の子みたいなショートカットで、一見地味な顔に見えたけれど、よく見ればパーツのはっきりした、よく整った顔立ちだった。浅黒い肌に、切れ長の深い茶色の瞳が印象的な子だ。
私も人のことは言えないけれど、ずいぶん背がちっちゃい。何となく、近所にいる毛足の短いミックスの小犬を思い出した。この子、犬顔なんだな。

「あの・・・あの・・」
「ん?あぁ、やだぁもぉったら!かわいいからついなでなでしちゃったぁ。ウフフ」

私は無意識に、手を伸ばして頭をなでなでしていた。ちょっと怯えたような表情が可愛らしい。

「ねえ、名前はなんていうの?私、桃子だよ。高等部の1年生。」
「・・・」
「中等部でしょ?学年は?」
「あの・・・えと・・」

はずかしがりやさんなのか、話しかけてもモゴモゴ言うだけでなかなか答えてくれない。ちょっと質問を変えてみることにした。

「あのさ、さっきのあれ・・・見ちゃった?」

私はジェスチャーで、スーパーボールをポンと落っことす仕草をしてみせた。

「あ・・」
その子は無言でコクコクとうなずく。

「やぁだ、見られちゃったんだ!これ、もぉとあなたの間の秘密にしたいんだけど、どう?だめ?」

もちろん、偶然見てしまったこの子に非はない。彼女が誰かに言いつけたいというならそれはそれで構わないのだけれど、極力面倒なことは避けたいから、ちょっと首を傾げて、ぶりっこのポーズで迫ってみた。

「あ・・えと、わ、わかりました。私誰にも言わないです。」
舌足らずなフカ゛フカ゛口調でそう言うと、その中等部の子はいきなり立ち上がって、渡り廊下の方へ走って行った。

「えっもう行っちゃうの?ねー名前ぐらい教えてよー!・・ちぇー。」

何か妙に構いたくなるタイプの子だったから、もうちょっと喋りたかったのに。
まあ、しょうがない。もうすぐ本礼がなってしまう頃だし、ひとまず教室に戻ろう。
あのいやがらせ4人組に今日はどんな皮肉を言ってやろうか、黒桃子モードで思案しながら、私は廊下を歩き出した。

「え、それって岡井さんのこと?」
「梨沙子、千聖“お嬢様”でしょー。」
「ぶー。何でー。」

帰りのホームルームの時間、私は梨沙子とくまいちょーに、さっきの女の子について尋ねた。
どうやら有名な子だったみたいで、身体的な特徴を言っただけなのに、2人はすぐに誰のことだか理解したみたいだ。

「おかいちさと?お嬢様?」
「うん。1年生。お金持ちで、みんなお嬢様って呼んでるよ。梨沙子同じクラスなんだよね。」
「ふんっ」

あれ。梨沙子はちさとちゃんのことをあまりお気に召さないみたいだ。色白のほっぺたをぷっくりふくらませて、そっぽを向いてしまった。


「・・・だってさ、何か、岡井さんってずるいんだもん。いつもみんながいろいろやってあげて、全然めんどくさいこととかやってないんだよ。
掃除も、クラスの係も、一番楽なことばっかり。先生も岡井さんだけは難しい質問したりしないし。ずるい。」
「え、でもそれってさあ、千聖お嬢様が悪いんじゃなくて、周りの人がいけないんじゃないの?」

おおっなかなかいい意見じゃないですか!くまいちょーにのんびりした口調でそういわれて、梨沙子はちょっと興奮状態になった。

「だ、だってさ変じゃん!同じ生徒なのにさお嬢様とかあばばばば」
「わかったわかった!声、大きいって!」

注目を浴びているのを感じて、私は慌てて梨沙子を宥めた。

「・・・でもさ、くまいちょーもちさとお嬢様って呼ぶんだね。梨沙子と一緒で、そういう特別扱いみたいなの嫌いそうなのに。」
「特別扱いって?お嬢様って、ただのあだ名でしょ?私も友理奈お嬢様って呼ばれたいなあ」


――相変わらず、くまいちょーは鋭いんだか鈍いんだかよくわからない子だった。



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