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私への嫌がらせは、その後すぐにパタリと止んだ。
本当に細々と、ネチネチ繰り返されてきたことだから、あっけない終わり方にちょっと拍子抜けした。
最近はもはや楽しめるようになってきていて、次どんな仕返ししようかなとかワクワクしながら考えてたのに。


「ねえねえ、なんで物隠しやめたの?」

ちょっと声をひそめて、教室の隅に固まる例の人たちに話しかけてみる。


「は?」
「意味わかんないんだけど」

しらばっくれても、わかりやすく目が泳いでいる。私は結構しつこい方だ。こうなったら、はっきり認めるまで「ねーねー」攻撃を続けてやるしかない。

「ねー、何で何で?」
「もう、嗣永さんしつこいし!」
「ねーねー、もぉ別に怒ってないよ?でも何で急にやめたのか気になるじゃーん。・・もぉが大きい声出さないうちに答えてくれたほうがいいんじゃない?」

おおいやだ、脅迫ですかももこさん!

セルフツッコミを入れながらも、私は彼女達に詰め寄る。

「・・・だから、そういうのはもうやめてほしいって言われたから。」
やがてあきらめたように、1人が口を開いた。

「誰に?」
「千・・・・いや、見てた人に。人のいやがることをするのはよくないって」

ふーん。

そんなこと言いそうなのは、私の知り合いだとくまいちょーとか茉麻とか?同学年なら、舞美も考えられるな。

「まあ、これからはもぉのこと気に入らなければ放っておいてくれればいいから。気にしなくていいよ。許してあ・げ・る♪」
わざと上から目線で言ってやると、なんとも腹立たしそうな顔で睨んでくるけど、悪いのは自分達だから何にも言い返せないみたいだ。ま、身から出たサビというやつですよ。

授業までまだ時間があったから、私は中等部の校舎に遊びに行くことにした。・・・本当に、壊滅的といっていいほど、私は高等部に仲のいい友達がほとんどいない。
舞美と佐紀ちゃんぐらいか、友人と言っていいのは。2人は人気者だから、そんなにいつも一緒にいるってわけでもないけど。


「ん?」

廊下に出ると、階段の影にサッと人が引っ込んだ。私の第6勘が働きだす。


「ちーさとちゃん♪」

手をメガホンみたいにして呼びかけてみる。なかなか出てこないから逃げてしまったのかと思ったけれど、しばらくすると、ちさとちゃんはおずおずと私の前に姿をあらわした。

「あの、こ、こんにちは」
「うん、こんにちは。もしかしてもぉに会いにきてくれたの?なーんて」

ちさとちゃんの前髪をまとめてる小さいボンボンをいじくりながら冗談まじりにそんなことを言うと、下を向いたまま、ほんの少し首を縦に振った。

「・・・えへへ。」

真顔だと大人しくて真面目そうな印象だったのに、はにかんだ顔は赤ちゃんみたいに無邪気だった。笑うと目がキュッてなくなって、リスっぽい前歯がちょっと覗くのが可愛らしい。

「うそー嬉しい!もぉも、ちさとちゃんに会いたかったよ!」
「あっ」

ギュッと抱きしめると、ちさとちゃんの身体が強張ってしまった。ありゃ、抱きつくのはダメなタイプか。
そういえばおばあちゃんちの猫も、人懐っこいわりに抱っこが嫌いだったな。やっぱり、何かちさとちゃんはペットっぽい。


「あ、あの、桃子さん」
「ん?」
「あの・・・・・いえ、いいんです。なんでもないです。あの、また、遊びに来てもいいですか?」

胸の前に手をやるのは癖なんだろうか。女の子らしいしぐさとは裏腹に、こどもっぽいふがふがした喋り方がアンバランスで面白いと思った。

「やーだよん」
「えっ・・」

ちょっとからかうだけで、ちさとちゃんはシュンとなってしまった。

「うそうそ!また来て!ていうか、もも中等部の校舎よくいるから、見かけたら声かけてよ。仲いい子多いんだ。くまいちょーとか、梨沙子とか、知らない?」
「クマちょ・・・?2年生の、とてもとても大きな方ですか?一度、図書室で本を取ってくださったわ。梨沙子さんは、スガタニさん?でしたら、同じクラスです。可愛らしい方ですよね」

・・なるほど。どうやらちさとお嬢様というのは、なかなかの天然さんらしい。
梨沙子の話だと不当にもてはやされてるみたいだったけれど、威張り散らしたり高圧的だったりすることもない。むしろ、腰が低いんじゃないのかこの子。ますます謎だ。


「それじゃ、またね。もぉ次体育だから。」
「ええ、ごきげんよう。」

ちさとちゃんは私に一礼すると、軽やかな足取りで階段を下って行った。

「・・・・・とてもとても大きなクマでーす・・」
「うわっ!」
「スガタニ梨沙子でーす・・・」
「うおっ!」

いつのまに背後にいたのか、ゾンビみたいなげっそりした顔で、くまりしゃコンビが立ち尽くしていた。

「途中から話混ぜてもらおうと思ってたんだけど・・」
身長のことを言われたからか、くまいちょーはわかりやすく凹んでいた。

「もうっ、もうっ!岡井さんていつもああなんだもん!りぃの名前覚える気ないんだもん!班まで一緒なのに!みんなが甘やかすからだもん!そういえばこないだはフジヤさんて呼ばれた!」
一方、梨沙子は心底悔しそうに地団駄を踏んでいる。

「まぁまぁ、とりあえず授業始まっちゃうから。次の休み時間はもぉがそっち行くよ!ね、ひとまず解散!」
「わかった。もも、あとで絶対遊ぼうね!」

なんとか宥めつつ背中を押し出すと、ようやく2人は連れ立って中等部の校舎へ戻って行った。


「とてもとても大きなクマさん・・・とてもとても(ry」

くまいちょーの呪詛っぽい声が段々遠ざかっていく。それと同時に、私たちの周りにいた生徒達もパラパラ教室へ引っ込んでいった。・・・聞かれてたのか。単なる生徒同士の会話に野次馬が沸くなんて。

――もしかして私、何気にすごい大物と関わっちゃったのかもしれない。



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