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「千聖お嬢様?うん、もちろん知ってるよ。」
「舞美も知ってるんだ・・・」

美術の実習中、私は先生に聞こえないようボソボソ声で舞美に話を振った。

「ほら、私学生寮に入ってるでしょ?あそこの管理をしてるのが、お嬢様のご両親なの。」

高等部からスポーツ特待生としてこの学校に入ってきた舞美は、親元を離れて寮で過ごしている。今現在は中等部の子と舞美の2人しかいないらしく、よくさみしいさみしいと言っている。
聞けばちさとちゃんのパパは超有名な製薬会社の副社長さんで、何かと学園に援助をしているらしい。
寮もその一環で、舞美はたまにちさとちゃんのお家にお手伝いしにいったりもしてるみたいだ。

「ちさとちゃんって、どんな子なの?」
「うーん。じつは、あんまりまだ話したことないんだ。私結構人見知りでさー。お嬢様もわりと・・大人しいタイプみたいで、何話したらいいのかわからなくって。」
「そうなの?うーん、そうかぁ?」

私もまだ知り合ったばかりだから、そんなにちさとちゃんのことを理解してるわけじゃないけれど、別に大人しいってわけじゃない気がする。
どちらかといえば単なる恥ずかしがりやさんで、本当はいろいろ言ってみたいことがあるのに、今は気持ちを押さえ込んでるだけっていうか。よくわかんないけど。


「でも、珍しいね。桃子が人に興味持つなんて。」
「ええっ?」

「そこ、喋らない!」

ちょっと大きな声を出したら、先生の注意を喰らってしまった。

「だって桃子って何か孤高の存在っていうか、いつも1人行動してるから、あんまり人に関心ないのかなって。」

―いや、それは一人行動ではなくて中等部の校舎にですね・・・もぉ軍団に会いにですね・・・

「桃子、お嬢様と、親しくなりたいの?学校でお嬢様のお世話してる人たちいるから、仲間に入ってみたら?」
「えー、もぉがしたいのはそういうお取りまきみたいなのじゃなくてぇ・・・うーん・・・」


「桃子?」


舞美と話をしながら、私は自分の心模様に少しとまどいを覚え始めていた。

来るもの拒まず、去るもの追わず。しかし自分からはリアクションを起こさない。
もともと私はそんな性格だったと思う。仲のいい梨沙子もくまいちょーも、きっかけは向こうから作ってきてくれた。
佐紀ちゃんは面倒見がいいから浮いてる私を気にかけるんだろうし、舞美にいたってはよくわかんないうちに喋るようになってたぐらい。私の人間関係は、概ね受動的なものだった。

それなのに、ちさとちゃんに関しては、なぜか好奇心が湧き上がってくる。
彼女とは“仲良くなるべくしてなる”んじゃないか、そんな気がしている。どうしてそういう予感がしているのかは、今はわからないけど。



「はい、もうあと5分ぐらいですね。チャイム鳴ったら終わりにしていいですよ。作品は提出して帰るようにね」


げっ。おしゃべりと考え事のせいで、ほとんど手についていない。今日はぶっといハリガネでオブジェを作って解説するみたいな実習で、私の目の前には中途半端に折れ曲がったハリガネが散乱している。
舞美はおしゃべりしながらちゃっかり作業を進めていたみたいだ。可愛い動物の形がいくつも出来上がっている。

私は慌てて適当にハリガネをからませて、 “飛翔の朝” 絡み合うハリガネは内なる葛藤を表していて、その中心部を突き抜ける未来へ羽ばたくための翼がどうのこうのでキュビズムとシュールレアリズムがどうのこうの
と教師が喜びそうなことを適当に書きあげた。即興にしてはなかなかいい出来だと思う。


「桃子のカッコいいね!私の“森のパーティー”とは大違い!とかいってw」
「そぉ?ウフフ」


・・・まさか製作時間3分とは言えない。


「あれ?」

教室に戻ると、机の上に次の授業の教科書とノートが乗っかっていた。
おかしいな。自分の性格上、こんな几帳面な行動は取らないはず。

「うーん。疲れてたのかな・・・」
首を傾げながらも、まあそんなこともあるかと思い直してみたのだけれど。




「・・・で?今日は朝来たら上履きが綺麗にそろって出してあったの?」
「梨沙子ぉ~もぉ怖いんだけどぉ~!」

数日後のお昼休み、中庭で魔女の本を読んでる梨沙子を捕まえて、私はこのところ身の回りに起こっている怪奇現象についてグチを言わせてもらった。

「何かね、授業で移動があって教室が空くと、その次の授業で使うものが机の上に出てるの。あと体育の後だと、チョコとか飴とか置いてあってさぁ。おいしかったけどさぁ」
「食べたの!?桃ウケるーイヒヒヒヒヒ!・・・でもそれって、桃のファンの人じゃないの?中等部にもいっぱいいるじゃん。」
「うーん。」

梨沙子の言うとおり、自分でいうのもなんだけど私は結構モテる。調理自習で作ったクッキーをもらったり、ファンです!なんて手紙をもらったり。
でもそういう子たちは、私に自分の存在をアピールするという目的があるように感じる。そういうことを踏まえて考えると、何となく腑に落ちない。


「あ・・・ところで梨沙子。話し変わるけど、ちさとちゃんは元気?最近全然見かけないんだよねー。」

まあ、ここで考え込んでても結論は出ない。そう思って話題を変えてみたんだけれど、梨沙子は眉をしかめてぶーたれ顔になってしまった。

「知らないもーん。」
「また何かあったの?」
「・・・何かね岡井さん、たまーになんだけど、授業に少しだけ遅刻してくるの。朝は普通に来てるのにだよ?
“気分が悪いので休んでいました”とか言って。でもその後はケロッとしてるし、おかしい。」


――ん?
たまに、授業に遅刻してくる?毎時間じゃなくて?


「梨沙子、今日はちさとちゃん遅刻してた?」
「んー。3時間目の数学ちょっと遅れてきてた。あっそういえばさっきさあ、岡井さんにスガタニじゃなくてスガヤだって言ったのに“すぎゃさん?”だって!ありえなーい!・・あれ、もも?」


梨沙子の話を聞き流しながら、私は時間割をチェックしていた。今日の3限・・・音楽だった。戻ってきたら古文の教科書がセットされていた。
そんでこの後の5限・・・は、移動あり!


「梨沙子、ありがとう!もぉ誰がやってるのかわかったかも。」
「ええっ本当に?すごーい!ってもう行っちゃうの?なんだよー」
「ごめんごめん、ちょっと用事思い出したの。また後で遊ぼう!」

いろんなことが、頭の中でパズルのようにはまっていく。


私は手早くお弁当を片付けると、高等部の校舎に向かって走り出した。



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