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「桃子ー待って待って!保健室?桃子ー?」
「ひええええええ」

どんなに穏やかなわんちゃんも、目の前を全力疾走する生き物がいれば本能で追いかけてしまう。
そんな定説を裏付けるかのごとく、散歩中の大型犬みたいな表情をした舞美が半笑いで追いかけてくる。

陸上部期待の星である舞美と、内またくねくね走りの私じゃ最初から勝負はついているようなものだ。

私は舞美をかく乱するために、1階下の1年生の階で階段を降りるのをやめて、再び廊下を走った。

「わわっ!もも?」

幸か不幸か。角を曲がったところで、お裁縫箱を持った茉麻に激突しそうになった。

「まーさ!助けてっ舞美に追われてるの!」
「ええ?」

とっさに茉麻の後ろに隠れて、息を整える。

「あっ茉麻だ!家庭科?おつかれー。桃子見なかった?って後ろにいるじゃん!かくまったな!とか言ってw」
「え?あ、うん?え?え、何だコレ?」

茉麻は私と舞美を交互に見比べて、不可解そうに首をひねった。

「まーさ!もぉと舞美どっちを信じるわけ!」
「ええ?わけわかんない!・・・まぁ、でも舞美ちゃんだよね」


くっ!

こういう時は日ごろの行いがものを言う。追手が2人に増えてしまった。


「キャ~!」
「待て待て、桃子!」
「もも、逃げるなんて卑怯だー!」

やばいやばいやばい。

どうにか高等部と中等部の渡り廊下まで逃げ込んできたものの、私の体力は限界に近づいてきていた。
千聖に会いたい。その気持ちだけで無理矢理足を動かしているようなものだった。


「ももおぉ!捕まえたぁ!」
「わああ!?」

2年生の教室まであと少し、というところで、いきなり手前の階段から茉麻が飛び出してきた。は、挟み撃ちとは卑怯な!

「はなせー!」
「桃子、ちょっと静かにしてよー。授業中なんだからね。トイレ、もういいの?なら教室戻ろう」

前門の茉麻、後門の舞美。あっという間に2人に手首を掴まれて、連行されそうになる。
もう、これしかない。

「ち・・・ちさとー!!!出てきなさーい!!岡井千聖ー!いるのはわかっているんですよー!!」
「もも!?」
「離せこらー!私は千聖に用があるんだー!」

私はサラ金の取立てのごとく、その場でギャーギャー騒ぎ出した。千聖のクラスは廊下の手前側だから、私の声は届くはず。


ざわ・・・ざわ・・・


異変を感じた生徒が、少しずつ廊下に集まってきた。でもまだ千聖の姿は見えない。


「舞美コラー!はなせー!ちさとおおおうおお」
「桃子、落ち着いてよ!おなか痛いんじゃなかったの?なんでお嬢様?」

どうにか振り切ろうと、ジャンプしたり腰をくねらせたりして抵抗するも、パワーファイター2人の握力には到底かなわない。

「あっえり!ちょっと助けて!」

突然、舞美が前方に向かってテンパッた声を上げた。溜まっていた生徒達が2つに割れて、奥のほうから高等部2年のウメダさんが現われた。
相変わらずの派手顔美人っぷりに、ハァ・・・なんてため息がどこからともなく聞こえる。

「舞美・・・」

ウメダさんは私と舞美と茉麻を何度か見比べた後、視線を私にロックオンしてきた。


「・・・」
「な。何よっ」


「・・・舞美、ごめん!」
そう一声放つと、ウメダさんはおもむろに舞美のわき腹をくすぐり出した。

「うはははははは!えり、やめてー!あはははは」
「嗣永さん!」
「へえっ!?あ、うん!」

ウメダさんの意図を読み取った私は、力の緩んだ舞美の手を振り切った。その勢いで、茉麻のおなかをコチョコチョする。

「ひゃひゃひゃひゃ!お、おなかはダメーはははは!」

こちらの手もどうにか手首から引き離して、私はウメダさんに投げチューをした。
「オウエェエエ全然嬉しくない!」という声を背に、ついに千聖の教室に侵入する。



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