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「・・舞、ずっと不機嫌なの。話しかけても“はい”“いいえ”としか答えてくれないし」

ちょっと笑いをかみ殺しながら、部屋を出て行く舞ちゃんの背中を見つめていると、寂しそうな声でお嬢様が呟いた。

「もしかしたら村上さんに苛められてるのかしら。舞が私とこじれてしまっているから、余計に厳しくしているのかもしれないわ」
「ああ、それはあるかも・・・じゃなくて。大丈夫ですよ、お嬢様。舞ちゃん、お嬢様と仲直りするきっかけがわからないだけですから。
頭のいい人ってね、いろいろ考えすぎちゃって、ストレートに感情をぶつけられないものなんですよ。
舞ちゃんはお嬢様のこと、好きで好きでたまらないんです。なっきぃにはちゃんとわかるんです。」

わざと少し大きな声でお嬢様に語りかけたこのメッセージ、ドアの向こうにいるであろう舞ちゃんにも聞こえてるといいな。

「・・・ありがとう。私ね、舞のことも好きだけど、なっきぃも大好き。」
お嬢様はフフッと恥ずかしそうに笑いながら、目がキュッと窄まるいつもの笑顔を見せてくれた。

「なっきぃは千聖のお姉様みたいだわ」
「や、そ、そんな、私なんかより、みぃたんやえりこちゃんの方が良いお姉さまですよ!嗣永さんだって」

予想もしていなかったその言葉に慌てた私は、教科書をバサバサ取り落としながら顔を真っ赤にした。

「あら、ももちゃんはお姉様という感じではないわ。ウフフ。舞美さんやえりかさんも優しくて素敵なお姉様ですけれど、今はなっきぃがいいの。だめかしら?」

もう、どうせみぃたんたちにも同じようなこと言ってるんでしょう!なんて思いつつも、嬉しくないわけがない。
私がガミガミうるさいことを言うのは、お嬢さまのことが好きだから。そのことを、お嬢様はちゃんと理解してくださっていた。それだけで私の心は十分満たされてしまうのだから。

「めっそうもありません。嬉しいですよ、お嬢様。こんなに可愛らしい妹ができて、なっきぃは幸せです。」
「フフ。・・・それじゃ、お勉強の続きをしましょう。早くお風呂に入りたいわ。」


私の答えに満足したお嬢様は、真剣なときにだけ見せてくれる凛々しい顔になって、教科書に目を通し始めた。




「――はい、お嬢様。今日の勉強はここまでです!キュフフ、頑張りましたねー!」

約30分後、白紙だったテキストを無事に埋め終わった私たちは、顔を見合わせてにっこり微笑みを交わした。

思ったとおりだ。お嬢様は基礎の基礎からしっかり教えれば、それを理解するだけの力は十分にある。こっちがびっくりしてしまうぐらいの集中力で、お嬢様は勉強に取り組んでくれた。

「ハァ・・なっきぃ、私疲れてしまったわ。やっぱり、勉強は苦手。」

そう言いつつも、千聖のお嬢様の表情は達成感に満ち溢れていた。


「それじゃ、お風呂に入りましょうか。私、寮から着替えを取ってきますから・・」
「どうして?千聖のを使ったらいいじゃない。もう私待ちきれないわ。ね、なっきぃ?」
お嬢様は散歩待ちの仔犬のごとく、キラキラした目で私の顔を覗き込んでくる。

「キュフフ。もう、そんなにはしゃいじゃって。それでは、タオルと着替えをお借りしますね。」
「ええ、ぜひそうしてちょうだい。あら、なっきぃどちらへ行くの?お風呂はこっち」

「・・・・・え?」

部屋を出ようとドアへ向かった私を、お嬢様が引き止めた。その手が指し示すのは、ベッドの頭側にある大きなクローゼット。

「まさか・・・」
「あまり景観が良くないから、扉はこの中に隠しているの。」

レトロな金の鍵でお嬢様がクローゼットを開けると、手前に銀色の正方形の箱。その隣に2つの扉が並んでいた。

こんなに立派なお屋敷のわりに、お嬢様のお部屋はわりとこじんまりとしているなぁ、なんて思っていたけれど、それは大きな間違いだった。
さすがお金持ち、ウォークインクローゼットに、自分専用のバス・トイレ。冷蔵庫。
前にメイドさんから、お嬢様はたまに癇癪を起こして一日部屋に閉じこもることがあるって聞いたことがあるけれど、そりゃあこれだけ揃っていれば、篭城なんてわけないだろう。

「メイドに未使用の下着とタオルを届けさせるわね。なっきぃ、お好きなパジャマを選んでいてちょうだい。そこ、入ってすぐの引き出しにあるから」

私をウォークインクローゼットに押し込むと、お嬢様は内線電話でメイドさんに連絡を取り始めた。


「・・・えぇ、そう。お風呂に必要なものを一通り持ってきてちょうだい。お化粧水のセットも、携帯用のものがあれば差し上げて。ええ、よろしくね。」


命令口調ではあるものの、高飛車な感じは全くしない。命令する側とされる側の立場を守った上で、相手を思いやるような余裕さえ感じる。
それは千聖様がいわゆる成金の娘さんとかではなく、“本物”のお嬢様であることの証のようだった。

千聖様はまったく威圧的な態度を取らない方だから忘れがちだけれど、こういうふとしたことで改めて認識させられる。やっぱり、大企業の副社長様のご令嬢なんだなぁなんて。

「なっきぃ?お好みのはあったかしら?」
「へえ!?あ、は、はい!ではこちらをお借りします!」

お嬢様の所作に見とれていた私は、あわてて一番上にあったワンピース風のを手に取った。

「あら、そちらがお好みなの?ちょっと意外ね。ウフフ」
「え?」

よくよく見てみると、それは光沢があるのにふわふわしている、不思議な素材の淡いピンクのネグリジェだった。上から下まで、これでもか!というほどフリルで飾られていて、胸元には大きなリボンがついている。

「モッサー・・・」
「そちらはね、舞美さんが去年お誕生日にくださったの。」
やっぱり!あのモサ姫・・・じゃなくてみぃたんめ!

「私には全然似合わなくて、舞なんて指差して笑うんだから。でもなっきぃには似合いそうね。」
「そ、そうですか?それは・・嬉しいような嬉しくないような」



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