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「なっきぃ、よかったら背中を洗いっこしない?」

二つ並んだシャワーで身体を温めていると、お嬢様が小首をかしげて私を見ていた。

「洗いっこ。」
「あ、でもね、いつもは自分で洗うのよ。でもでも、せっかく一緒に入る人がいるならって・・もう、笑わないで!」

お嬢様は子ども扱いされることをとても嫌がる。真っ赤になりながら慌てて言い訳するのが可愛くて、思わず顔を緩めてしまった。

「キュフフ、わかりました。では、まず私が」

暖房が効いたバスルームは、身体にタオル一枚巻いただけでも寒くない。お風呂用の椅子を持って、お嬢様の背後に腰を下ろす。

「お願いね。」
髪をクリップでまとめて、お嬢様は洗い安いように少し顔を下に向けた。
普段は肩ぐらいの髪を垂らしたままアレンジしているから、こうしてアップにしているのは何だか新鮮だった。

「失礼します。」

柔らかいスポンジでもこもこの泡を作って、お嬢様のつるんとした背中を撫でる。

「ふ、ふふふ。なっきぃくすぐったいわ。もう少し強くして。」
「あ、ごめんなさい。」

うーん、加減が難しい。人の背中を洗ってあげることなんてめったにない上に、相手がお嬢様となると緊張はひとしおだ。

綺麗な肌だなあ。かんちゃんや舞美ちゃんは「お嬢様パイオツカイデーとかいってw」とおっさんみたいなことを言ってるけど、胸よりもこの小麦色のお肌の方が魅力的だと私は思っている。
外遊びの好きなお嬢様らしく、適度についた筋肉が健康的でうらやましい。私は白くて骨も細くて頼りない感じだから・・・なんて、前に言ったらお嬢様は怒っちゃったんだっけ。

「今度はどうですか?」
「んー・・・気持ちいい。」

すっかりリラックスモードになったお嬢様は、即興で歌を歌いだした。私はスポンジを動かしながら、目を閉じてその声に聞き入る。

独特の甘さと、耳に残る力強さを兼ね備えたお嬢様の歌声が、私は大好きだった。
お嬢様は歌うことが大好きだけれど、なぜかあまり人前では披露してくれない。
こういうご機嫌な時にだけ、無意識に口ずさんでいるのを聞くことができるから、私は余計な口を挟まないよう、ひたすら無言でお嬢様の身体を洗い続けた。


「なっきぃ、そろそろ代わりましょう。とても気持ちよかったわ、ありがとう」

しばらくして、お嬢様はくるっと振り返って私の手からスポンジを取った。

「あ、あの私はいいですよ。自分で洗いますから」
「どうして?千聖に洗われるのは嫌?」
「そんな、滅相もありません!でも、お嬢様に洗っていただくなんて!」

いくらこうして親しくさせていただいてるとはいえ、やっぱりお嬢様と寮生は基本的な立場を守るべきだと私は思っている。
みんなは頭が固いというし、お嬢様が望んでいないことだと知っているけれど、守るべき立場を守るのが私なりの誠意だから。

「・・・・なっきぃは、私のことが嫌いなの?」
「えっ!」

あからさまに落ち込んでしまったお嬢様を見て、私はうろたえた。

「違います、そうじゃないです!でも、私とお嬢様はお立場が」
「千聖は、そんなこと気にしないでっていつも言っているのに・・・」

ああ、どうしたらいいんだろう。こういう時、自分の融通の利かなさが嫌になる。

「ちさ・・・」


バタン!!


その時、突然浴室のドアが開いた。
丈の長いメイド服を捲り上げて、ツカツカと歩いてきたのは・・・

「舞ちゃん!?」
「・・・お嬢様のお願いを聞かないのは、適切な判断とは言えないと思いますけど。」

呆然とする私を椅子に座らせると、舞ちゃんはお嬢様の手を取って、私の背中をごしごしと洗わせた。

「いたっいたたたた!」
柔らかいスポンジが舞ちゃんの手の力でくしゅっと潰れて、添えられたお嬢様の爪が私の肌をひっかいた。

「言っときましゅけど、舞はお風呂の掃除に来ただけでしゅから。ごゆっくりどうずょ。」
「キュフフフフ・・・」

噛み噛みなその口調が、舞ちゃんが今勇気を振り絞ってここに突入してきたことを証明してるようなものだった。

「・・・ごめんなさい、お嬢様。私本当に頭が固いっていうか・・・でも、私だってみんなに負けないぐらいお嬢様のこと好きですから!もちろん、舞ちゃんにも負けてないつもりです!」

ズコー

視界の隅で、モップを持った舞ちゃんがすっ転びながら私を睨んだ。

「ウフフ、わかったわ。でも、たまには私のお願いも聞いてちょうだいね。こうして洗いっこできるの、とても楽しいわ。」
「わかりました。」
「それより、さっき引っかいてしまったところ、赤くなってるわ。なっきぃは肌が白いから、傷が目立ってしまうわね。ごめんなさいね。後でお薬を塗りましょう。千聖の手の力はどうかしら?気持ちいい?」
「ええ、とても。」

離れて暮らしているとはいえ、お嬢様には3人の妹弟がいて、しっかりもののお姉ちゃんな一面もある。
私の背中をごしごしするその手は力加減が絶妙で、本当に気持ちが良かった。

「・・・ねえ、お嬢様。せっかく舞ちゃんもいるので、ちょっと真面目な話をしたいんですが・・・」
「え?」

のんびりしたこの空気を壊すのもなんだけど、なかなか進まない2人の仲直りをこの機会に進展させたい。そう思って、私が姿勢を正した時だった。


「は・ぎ・わ・ら・さん!!!そこかぁ!失礼しまっす!!」

再び乱暴にお風呂の扉が開いて、今度はめぐぅこと村上さんが目を吊り上げて入ってきた。

「何やってるの!」
「・・・お風呂掃除ですけど」
「あのね!お嬢様がお風呂ご使用になってる時に掃除するアホがどこにいますか!」
「・・・・・チッ」
舞ちゃんの首ねっこを掴みながら、村上さんは一礼して出て行こうとした。


「あ・・・めぐ・・村上さん」

何か言いかけるお嬢様を制して、村上さんはジェスチャーで“あとで舞ちゃんを部屋に寄越すから”と伝えてきた。

「仕事が終わってから。」
いいジェスチャーが見つからなかったのか、最後の一言だけは口頭だったけれど。



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