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「お嬢様、そろそろ上がりませんか?なっきぃポカポカしてきちゃった」

ドロリとした感触のお湯はあんかけみたいに熱を閉じ込める効果があるみたいで、長風呂派の私も、いつもよりずっと早く体が温まっている感じがした。

「そうね。お部屋に戻って、さっき録画した時代劇を見ましょう。」

お互いの体にへばりついてるドロドロを落として、洗面所でパジャマに着替える。ふんわり残るみかんの香りが心地いい。

「うふふ、なっきぃお姫様みたいね。よく似合っているわ」
モッサーなネグリジェを纏った私を見て、お嬢様が微笑みかけてくる。
「そ、そうですか?なんかフリフリすぎるかなあって思ってたんですが」

私はどちらかというと、今お嬢様が着ているシンプルな水色のナイトドレスの方が好みだったりする。

「本当、素敵よ。私もなっきぃみたいに、色白で可愛らしいお顔に産まれたかった。どうしたらお肌が白くなるのかしら。私、全然可愛くない。頭も良くないし」
「お嬢様・・・」
「ああ、嫌だわ私ったら。こんなこと言うべきじゃないわね。ごめんなさい」

お嬢様は一つ不安なことがあると、どこまでもネガティブになってしまう。お風呂から出て、これから舞ちゃんと話し合うことを考え始めたら、急に怖くなってしまったのかもしれない。

「行きましょう、なっきぃ」

お化粧水で肌を整えた後、約束どおり、お嬢様のお気に入りのケーブルテレビの時代劇に2人して見入った。



“一つ、人の世の生き血をすすり・・・・”



「千聖様?」
「えっ?ど、どうかなさって?」



いつもなら一緒にセリフを真似たり、大立ち回りに大興奮のはずのお嬢様は、やっぱりどこか上の空だった。


「・・・なっきぃ、手をつないでもいい?」
「ええ、もちろん」

おずおずと差し出された手を握ると、心なしか震えているように感じた。
お嬢様はまだ、舞ちゃんの本心を知らない。まだ嫌われていると誤解したままなのかもしれない。
でも、私も寮のみんなも今まであえて何も言わなかった。肝心なことは、舞ちゃんがお嬢様に直接言わなければいけないと思っているから。

「お嬢様、私がそばにいますから。大丈夫です。」
「なっきぃ・・」
「何も悪くない人たちが傷つかなきゃいけないなんて、絶対におかしい。そんなことは、あってはいけないことなんです」

テレビの中で悪を成敗する主人公に乗せられるように、私の正義感がむくむくと湧き上がってきた。

「お嬢様と舞ちゃんが元に戻れるよう、私いくらでも協力します!だから元気だしてください。お嬢様は、笑顔が一番素敵なんですから。」
「・・・ありがとう。なっきぃ、大好きよ」

お嬢様は少し照れくさそうに笑いながら、赤くなった顔をクッションで隠した。


――コン、コン


「お嬢様ー?村上ですけど、今よろしいですか?萩原さんも一緒ですー」
「あ・・・」


来た。思わず身構えて「ど、どうぞ!」とお嬢様に許可も得ずに返事を返してしまった。

「・・・失礼します」

めぐに押されるようにして、眉間に皺を寄せた舞ちゃんが部屋に入ってきた。お仕事はもう終わったみたいで、2人ともラフな格好をしている。


「夜分にすみません、お嬢様。」
「いいのよ。座ってちょうだい。」

お嬢様は隣に人が座れるよう、私の方へ体を寄せてきた。気を使っためぐが私の横に座って、必然的に舞ちゃんがお嬢様の隣に座・・・るはずだったんだけど。

「ちょっと、萩原さん」

舞ちゃんは強引にめぐの横に腰を下ろして、お嬢様から一番遠い位置になるようにしてきた。

「あのね・・・」

ヤバイ。めぐのこめかみがピクピク引きつって、今にも大噴火しそうな気配がびんびん伝わってくる。本能でわかる。この人は、キレたらかなりまずいタイプだ。私のガンギレなんて比にならないだろう。

「舞はここに座りたいの。」

おろおろする私とは正反対に、舞ちゃんはめぐをまっすぐ見返して言い返す。めぐの大きな目がカッと見開かれた。


「・・・いいわ、舞はそこにいなさい」

その時、一触即発の空気を、お嬢様の柔らかい声が遮った。


「でもっ」
「ふふ。めぐったら怖い顔。」

お嬢様は不敵に笑うと、おもむろに立ち上がった。そのままソファの後ろを通って、舞ちゃんの横へ腰を下ろした。

「な、何で」
「あら、ここは千聖のお部屋なんだから、千聖が座りたい場所に座って当然でしょう?」

よく見るとお嬢様の顔は少し緊張していた。どうしても舞ちゃんとの関係を修復したい、という強い気持ちで、自分を奮い立たせているんだろう。
わがままで甘ったれで、泣き虫だったお嬢様は、どんどん強くなっていく。私はなぜか誇らしい気持ちになった。


「キュフフ、舞ちゃん、もう観念したら?」

席を立とうにも、お嬢様とめぐに挟まれていてはどうしようもない。もちろん、私だって隣に来させるつもりはない。舞ちゃんはちょっと悔しそうな顔をしながら、「・・・・それで、話って何ですか村上さん。」と不機嫌そうに口を開いた。



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