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「話があるのは、私じゃなくてあなたでしょ?萩原さん。それとも、何のことかわからないのかな。天才なんでしょう?」

めぐの表情は私の位置からじゃ見えなけれど、挑発された舞ちゃんはさらに不愉快そうな顔をした。

「舞ちゃん、もう何も心配しなくていいんだよ。早くお嬢様と仲直りしようよ。」
「・・・何のこと」

私はソファを立って、舞ちゃんのまん前に立った。私の言わんとすることを理解した舞ちゃんは、それでも素直になれないみたいで、相変わらずお嬢様の顔を見ようともしない。

「だから言ったじゃん。舞はもう千聖のことはどうでもいいの。千聖だって同じに決まってるんだから」

それが本心じゃないことは、私にはよくわかっている。多分、めぐも。
お嬢様が風評に傷つけられないよう、自分から離れて行ったその切ないぐらいに一途な思いも、お嬢様にもう嫌いだと言われることを恐れて、仲直りのための一歩を踏み出せないことも、傍で見ていれば痛々しいほどに伝わってきてしまう。
舞ちゃんは強気で素直じゃないけど本当は優しくて、同時にとても臆病でもあった。

「舞・・・、私は、舞を嫌いになったことなんて一度もないわ。今でも、舞と前みたいに笑い合いたいと思っているの。」

そっぽを向いたまままの舞ちゃんの背中に、お嬢様の丸っこい指がそっと触れた。

「でもね、舞が私と関わることが苦痛でたまらないなら、もうここには来なくてもいいのよ。」
「お嬢様、そんな」
「私は本当に、舞のことが大事なの。だから、舞の望んだとおりにしてほしいの。だからせめて、舞の口から、今思っていることを聞かせてちょうだい。」


どうして、こんな風になっちゃうんだろう?胸が痛くて、涙がこみ上げてきた。どうして、何も悪くない2人が、こうして苦しまなきゃいけないんだろう?
お嬢様も舞ちゃんも、純粋すぎるほどの愛情でお互いを思っているのに、あと一歩踏み出せないだけで、こんなにすれ違ってしまうなんて。
寮のみんなと決めた「必要以上に口を挟まない」という約束を、もう私は破ってしまいそうになっていた。


「・・・・何で、黙ってるの」

重い沈黙は、めぐの低い声で裂かれた。


「大事な友達と二度と笑い合えなくなるってことがどういうことだか、あんたわかってるの?」
「めぐ、落ち着いて。そんな言い方しないで。舞ちゃんだってそんなつもりじゃ」

私の制止も聞こえないみたいに、めぐは舞ちゃんの腕を掴んで、強く揺さぶっていた。

「寮生のみんながどれだけ2人のことを心配して、協力してあげてると思ってるの?何でこういうことになったか知らないけどね、いつまで甘えてるんだよ。
いっぱいチャンス作ってもらって、お嬢・・・・千聖からも手を差し伸べてもらっても、萩原さん逃げてばっかりじゃん。少しは自分で動こうとか思わないわけ?」
「・・・・・」
「ああそう、そうやって黙るんだ。わかった、じゃあ今日でメイド見習いもおしまいね。萩原さんは千聖をちっとも大切に思ってないみたいだから、お屋敷のお手伝いも」



「もうやめて!!!」



なおも舞ちゃんに迫ろうとするめぐを、お嬢様が遮った。

「いくらめぐでも、舞を傷つけたら許さないわ!」
お嬢様はほっぺたを涙で濡らしながら、舞ちゃんをかばうようにめぐの前に立ちはだかった。

「千聖。でもいくら千聖がそう思ってたって、結局その人はお嬢様と仲直りする気ないみたいじゃない?私だって、これ以上千聖が悲しんでる姿は見たくないよ」
「でもっ」


「・・・勝手に決めないでよ。何にもわかってないくせに」


掠れた声に振り向くと、千聖お嬢様の背後から、舞ちゃんが鋭い目つきでめぐを睨んでいた。

「舞・・・」

「私だって、千聖のことが好きなんだよ。大好きなの!でもね、私といたら千聖は変なこと言われたり、嫌な思いをさせられるだけなの。だったらもう、離れるしかないじゃん。千聖のこと守りたかったんだもん。他に何ができたっていうの。」


―ああ。


私はたまらなくなって、舞ちゃんを抱きしめた。


「えっ・・・なっきぃ・・・」
「ごめん、舞ちゃん。辛かったでしょ。私たち、舞ちゃんが何でも自分でできるって思い込んでた。きっかけさえ作ったら、そこから頑張ってくれるんじゃないかって。
でも、舞ちゃんだって怖かったんだよね。お嬢様のこと大切すぎて、動けなくなっちゃったんだよね。何も気付けない、頼りないお姉ちゃんたちでごめん。」

「泣かないで、なっきぃ。舞ちゃんとわかってたから。みんなが舞と千聖のことをすっごく考えてくれて、仲直りさせてくれようとしてたの知ってた。それを活かさなかったのは、舞の方だから。」


「それで、どうなの、萩原さん。千聖のこと、どう思ってるの」


感傷的な私たちとは裏腹に、めぐは相変わらず冷徹な雰囲気をまとったまま淡々と語りかけた。


「だから、好きだっていってんじゃん!舞のほうが、村上さんよりずっと千聖のこと好きなんだから!」



「・・・・・・なんだ、ちゃんと言えるじゃない。」
「え・・」



舞ちゃんの答えを聞いて、めぐは目を細めて笑った。びっくりして固まっている舞ちゃんのほっぺを軽くつねる。

「自分の言葉に、責任持ってよ。今度千聖にあんな顔させたら、次は許さないからね」

そのまま、私たちの横をすり抜けて、めぐは部屋を出て行った。


「待って、めぐ!」

私はお嬢様と舞ちゃんを残して、あわてて廊下を走ってめぐを追いかけた。

「早貴ちゃん。いいのに・・・」
何て声をかけたらいいかわからなくて、私はめぐと手をつないで、黙って歩いた。


「・・・さっきの、完全に個人的な感情だわ。」

しばらくすると、独り言みたいに、めぐがポツリともらした。

「あーあ、千聖に嫌われたかもね。あんなに萩原さんのこと罵ったら」
「そんなことないよ。お嬢様も舞ちゃんも、人の思いやりがわからないタイプじゃないから。」

今日の一件で、めぐはとても気が強くて、どこまでもまっすぐで、自分の気持ちを曲げることのできない不器用で優しい人だとわかった。
めぐの言う“個人的な感情”が何を示すのかはわからないけれど、もしかしたら過去に同じような何かがあったってことなのかもしれない。


「めぐ、めぐだって私たち寮生にとって大切な仲間だよ。もし、協力してほしいこととか相談事があったら言ってね!友達なんだから」

私が慌ててそう言うと、めぐはちょっと驚いたように目を丸くした後、「やっぱ、寮生ってお人よしばっかだね」なんて言って笑った。



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