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めぐはキョロキョロと辺りを見回して、人気のない社会科準備室に私を手招きで呼んだ。

「どうしたの、めぐ?」
「うん・・・あの、さ」

いつもきっぱりはっきりしているめぐらしくもなく、とても歯切れが悪い。

「何か、悩みでもあるの?」


「・・・・みや。私たちさ、少し距離を置かない?」
「えっ」


――何で。どうして。


心臓が嫌な音を鳴らす。喉のあたりがキュッと狭まる。
予想もしていなかったその言葉に、私はただ呆然とめぐの顔を見ることしかできなった。
そんな私に構わず、めぐはそのまま話を続けた。

「いきなりでごめんね。でも、ずっと考えてたんだ。私とばっかり一緒にいることで、みやびの世界がどんどん狭められているんじゃないかって。
前にも言ったと思うけど、みやと仲良くなりたい子はいっぱいいるのに、みやびは私とか、仲いい何人かとだけしか交流しないじゃん。それってすごいもったいないよ。」
「ま、待ってよ。私別に友達増やしたいとは思ってないし。本当に、めぐさえいてくれれば」
「だから、それじゃだめなんだってば。みやび、もし私がいなくなったらどうするの?違う高校に行くことになっちゃったら?・・・私たち、いつまでも今のままじゃいられないんだよ。」
「何で急にそんな・・・・私のこと、嫌いになったの?ごめん、何かむかつくことあるなら直すから。」


めぐに捨てられてしまう。そう思うだけで、私は恐怖で体がすくんでしまいそうだった。


「そうじゃないよ。これからも今までどおり、一緒にご飯食べたりおしゃべり楽しんだりしよう。でもさ、もっと私たち自立していかなきゃいけないんじゃないかな。その上で、また仲良くしていけたら」
「もういいよ。どうせめぐは、私じゃなくても他にいくらでも友達いるもんね。私の相手が嫌になったなら、はっきりそういえばいいじゃん。」
「違うってば」


「・・・一緒の高校行きたいって言ってくれて、嬉しかったのに。」


まだ何か言おうとするめぐを押しのけて、私は廊下へ出た。

怒り、悲しみ、悔しさ。

いろんなネガティブな感情が、頭を占めている。

数時間前、掲示物の中にめぐの名前を発見したときのあの喜びが嘘みたいだ。まさか、こんなことになるとは思わなかった。
一生の友達だと思っていためぐ。頭をよぎるその笑顔は、今の私にとっては憎らしいものでしかなかった。



「ごちそうさま。」
「あれ、もういいの?」
「んー・・」

家に帰ってからも当然心は沈んだままで、夕食をほとんど残して、私は部屋に戻った。
ベッドに寝っ転がってケータイを開くと、めぐからの着信を知らせる表示がたくさん残っていた。
・・・メールならよかったのに。私は自分の気持ちをちゃんと口に出して伝えるのが苦手だ。
顔の見えない電話口じゃなおさら、今のこの思いはめぐに正確には伝わらない気がした。だからといって、私から連絡をするのはちょっと気が引ける。
めぐのことを大好きでも、私にだって一応プライドというものがあるから。

私とは逆に、めぐは基本的に、メールはしない。大事なことは電話で話したいというタイプだから、きっとこのまま待っていたところで私の思い描いた行動はとってくれないだろう。

結局、親友だと思っていたのは私だけだったのか。むなしいな。こんな気持ちになるなら、最初から仲良くならなきゃよかった。

もうこれ以上めぐのことを考えたくなくて、私はケータイの電源を切って、シャワーを浴びるために部屋を出た。
そのまま、朝まで一度もケータイを確認することはなかった。




「みやび・・・あのさ、」

翌日、昇降口でめぐと鉢合わせになった。何か言おうとするめぐを、テニス部の子たちが「めぐー?ミーティング遅れるよ!」と急かす。

「行ったほうがいいんじゃない?めぐは友達が多くていいね。」

ひどい嫌味だ。怒ってくれればよかったのに、めぐは傷ついた顔をして黙りこんでしまった。

「めぐ!どうしたのー?」
「あ・・・今行く。みやび、あとで話そう。」


少し慌てて走っていく後ろ姿を見つめて、私はため息をついた。

昨日はもう、めぐに裏切られたという気持ちで頭がいっぱいになってしまっていたけれど、一夜明けたら私の心もだいぶ落ち着きを取り戻していた。
めぐが理由もなく、あんなことを言うはずがない。冷静に考えたらそのぐらいのことはわかる。少しこじれたって、やっぱり私はめぐが好きだし、一緒にいたいというのが本音だった。

だけど、私はケンカの仕方も仲直りの方法もわからなかった。
こんなに深く付き合った友達は初めてだから、せっかく手を差し伸べてくれたのに、どうしていいのかわからなかった。

「はぁ~・・・」

うだうだ考えているうちに、どんどん時間は経ってしまう。
ため息とともに、4時間目の授業が終わるチャイムが鳴った。もうお昼か。

人気者のめぐは、さっそくもう周りの女子に囲まれて話しかけられている。そんな周囲を「ごめん、ちょっと待ってて」と制すると、めぐは私の机の方へ向かってきた。
自分の背中に緊張が走るのがわかった。今度こそ、ちゃんと話し合おう。そう心の準備をしていたのだけれど。


「ねえねえ、夏焼さん。」

ふいに後ろから肩をぽんぽんと叩かれた。
振り向くと、ギャル系のグループの子たちがにこにこしながら立っていた。

「お昼、一緒に食べない?」
「えっ!」
「ね、食べよ!」

彼女達はあっというまに周りの席を陣取って、私の席を中心に円ができた。

「2年の時からずっと話しかけてみたかったんだけどさー、夏焼さんいつも村上さんといるから何かタイミング掴めなくて。」
「メイク上手いよね、夏焼さん。マスカラ何使ってるの?てか、雅って呼んでもいい?」
「あ、うん・・・」

ちらっとめぐの方を盗み見ると、ちょっと拍子抜けしたような顔をして、最初に喋っていた子たちの方へ戻っていった。
気にはなるけれど、せっかく話しかけてくれたみんなを置いてまで、めぐを追いかけるのは何か違う気がした。

私だって、こうして一緒にご飯を食べる友達ぐらいできるんだ。今はこうして、新しい友達との仲を暖める方がいいのかもしれない。

“私とだけいると、みやびの世界が狭くなる”  そういったのは、めぐなんだから。


「今日放課後駅ビル寄るけど、雅も行く?」
「うん、行く!」

胸に小さなしこりを残しながらも、私はこの新しいグループに慣れるために、わざと明るい声を出した。




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