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その日の夜。
どうにもこうにもな素面酔っ払い3人組を舞美に任せて、私は愛理と一緒にお嬢様に会いに行った。

「あら、いらっしゃい。ウフフ」
お嬢様はめぐと一緒に、バラエティー番組を見てケラケラ笑っていた。
「キャラメル味のスコーンを焼いたので、一緒に食べませんか?」

ピンクの紙袋を軽く振ると、まだ勤務中だっためぐがお仕事モードな顔に戻って「お茶、お入れしますね」と部屋を出て行った。

「どうぞ、おかけになって。この番組、とても面白いわ。一緒に見ましょう。」
「はぁ・・・」

昼間あんな大胆爆弾発言をしてみんなの度肝を抜いたというのに、お嬢様の態度は全くいつものままだった。

「あの、お嬢様。今日の放課後お話してたことなんですけど・・」
「放課後?」
「その・・・お嬢様に、お付き合いしてる方がいるって」

あぁ、とお嬢様は軽くうなずいて、私と愛理の顔を交互に見比べた。

「ええ。そのことが、何か?」

普通、こういう話題の時は、誰でも恥ずかしがったり照れたりなんてリアクションがあるものなのに。お嬢様はやっぱり、天気の話でもしているかのように、いつもどおりの顔をしている。


「お嬢様は、いつからその方と交際なさってるんですか?」
「いつ?そうね・・・私が、幼等部を卒業する頃、そんな話が出たみたいですけれど。」
「ええっ!」

10年越しの付き合いか!
「あの、失礼なご質問なんですけど・・・相手の方は、いったいどういった方で?」

おそるおそる、という感じで愛理が聞く。

「どういった、と言われても・・・そうね、大学を卒業して、今は家業を引き継いでらっしゃる最中と聞いてますけれど。」



ブハーーーー!!



「・・・すいません。」

いきおいあまって愛理とお嬢様の顔を紅茶まみれにしてしまった。だ、だだだだってあんた、それは・・・ちょっと年齢があのその

「写真とか、あります?」
気を取り直して質問を変えてみると、お嬢様は「ちょっと待ってて。」と机の方へ駆けて行って、すぐに小さなアルバムをパラパラめくりながら戻ってきた。

「こちらの方よ。」
「ほー・・・」


ピィーヤwwwwラスタピィイーヤwwwwww



ちょっと賞味期限切れのネタが、私の脳裏をよぎった。


「・・・なんていうか、小島よs・・・顔立ちの、はっきりしていらっしゃる方なんですね。」

愛理が横で吹き出して、私の膝を軽く叩いた。


「お忙しい方ですから、ほとんどお会いしたことはないの。最後にお顔を見たのは・・・3年ぐらい前かしら?写真はよく送ってくださるけれど。」

相変わらず、一向に恋愛の匂いを感じさせないその態度を見て、私は核心に触れることにした。

「あの・・・ごめんなさい、もう1つ。お嬢様は、この方のことを、えっと・・つまり、・・・・・あ、愛していらっしゃるんでしょうか?
「愛・・?」

お嬢様はあっけにとられた顔で、黙って私の顔を見つめている。さすがに直球過ぎたかもしれない。


「・・・・よくわからないわ。」

しばらく沈黙した後、お嬢様はポツンとつぶやいた。

「わからない、ですか。」
「ええ。私はまだ、愛というものはわからないの。えりかさん、愛って何かしらね」
「えっ!」


愛・・愛ってなんだ?ためらわないことさ?じゃなくて。

「ということは、あの・・お嬢様は、愛しているかわからない男性とお付き合いを?」
「ちょっと、愛理ってば」

さすがに気が動転してたのか、愛理がらしくもない直球な質問をぶつけた。

「そうね。でも私は、将来この方と結婚すると決まっているみたいですし。恋人というのは、結婚を約束している男性と女性のことを言うのでしょう?だから、この方が私の恋人。」
「それは・・・」

うーん、これは難しい。私のような庶民はもちろん、愛理もわりと裕福な家庭に育っているけれど、こういういわゆる“許婚”みたいなのはピンとこないらしい。

「でも・・・あの、お嬢様は、それでいいんですか?」
「え?」
「だって・・・」

一度も恋愛しないで、あらかじめ決められた人と結婚して、子供を産んで、家庭を作って。

私だって大した恋愛経験があるわけじゃないけど、そして人生恋愛がすべてじゃないのもわかってるつもりだけど、何だかそれはとても悲しいことのような気がした。


「もう結婚相手が決まっているというのは、そんなにおかしなことなのかしら?私、今まで考えたこともなかったわ。」

あんまり私達2人の反応が微妙だったからか、お嬢様は少し深刻な表情になって考え込んでしまった。


「あ、あの、なんか、すみません・・・」
「いえ、大丈夫よ。ごめんなさいね。・・私の感覚は、どこかずれているのよね。だから、学校でも浮いてしまうことが多いのかしら。」
「お嬢様・・」


一度落ち込んでしまうと、お嬢様はそれを結構引きずってしまう。捨てられた子犬みたいなその表情を見てたら、何か胸がツキンと痛んだ。

「お嬢様、良かったら気分転換にお散歩でも行きませんか?」
「お散歩?」
「夜のお散歩ですよ。お屋敷の敷地内ですし、3人で行けば安心ですよ。ケッケッケ」

暗い雰囲気を変えようと思ったのか、愛理が明るい声でお嬢様を誘った。

「そうね。楽しそうだわ。えりかさん、お付き合いただけるかしら?」
「もちろん。」

そんなわけで、私達3人は連れ立って外へ出ることにした。一応めぐに一声、と思ったけれど、なぜか姿が見当たらない。
仕方なく、他のメイドさんたちに外出の旨を伝えて、玄関を後にする。

「あれ??」


門の前がなにやら騒がしい。遠くてよく見えないけれど、あの後姿は・・・めぐだ。

“困ります!アポイントもなしに”
“違うの、さゆにはそんなの必要ないの。だってさゆは千聖ちゃんの”


何だ何だ、不審者?お嬢様を愛理に任せて、めぐに加勢しようと思ったその時


「・・・さゆりさん?」


お嬢様がつぶやいて、あっという間に門の前まで走っていってしまった。


「お嬢様、ちょっと待ってください!」

寮内でも運動神経ドベを競う私と愛理も、慌ててその後ろ姿を追いかける。


「さゆりさん!」


お嬢様の大きな声に、押し問答していた2人が振り返った。

「千聖ちゃん。」


外灯の下で若干発光している、真っ白すぎる肌。めぐの向かいにいたのは、どことなく怒ってるような顔つきの綺麗な女性だった。
中世ヨーロッパの貴族が着るみたいなドレスを着て、頭に薔薇のついたハットをかぶって、夜なのにレースの日傘。どう考えても不審者です本当に(ry


「あの、お久しぶりで・・・」
「ちさとちゃーん!!!やだもう、さゆりじゃないから!さゆみ!さ・ゆ・み!」

その人はお嬢様の顔を見るなり、トランクをめぐに押し付けて走ってきた。その勢いで、ギューッとお嬢様に抱きつく。

「きゃん!」
「やだーかわいいー!やっぱりさゆみの思ったとおり。わんちゃんみたいに育ってる!」

「ちょっと、お嬢様を離しなさい!」

めぐと2人がかりでベリリと引き剥がすと、抱きつかれるのが嫌いなお嬢様はもう涙目になっていた。

「あの・・・お知り合いの方なんですか?」

今にもつかみかかろうとするめぐを宥めながら、とりあえず“さゆみ”さんとやらに質問を投げかけてみる。


「知り合いもなにも、さゆみは千聖ちゃんのお姉ちゃんだから。義理のだけど。張り切って正装で着ちゃった。ふふ。」

「・・・・・えーっ!!!それって、じゃあ、つまり」
「夜分に申し訳ないけど、さゆみね、いろいろ思うことあって来ちゃった。お泊りしていいでしょ?千聖ちゃん。」
「え?えと・・・」

「つまり、おっぱっぴーの、妹さん・・・・」
愛理が私の耳にだけ入るぐらいの声でつぶやいて、ケッケッケと笑った。



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