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「でね、さゆみ思ったの。千聖ちゃんがいずれうちにお嫁に来るなら、道重家にふさわしいレディになってもらわなきゃって」
「はぁ・・・」

さゆみさんはトランクを破壊せんばかりに怒り狂うめぐを尻目に、お嬢様の手を引っ張ってお屋敷の中に入った。部屋に着くなり、テーブルの上にあったキャラメルスコーンをつまんで口に放り込む。

「あ、おいしい。でもうちのコックのスコーンの方がおいしいかな」

なっ何だとこのアマ!瞬間的に鬼の顔にでもなっていたのか、愛理が「まあまあ」と私の手を押さえた。しかも文句言いながら2個食ってるし!


「千聖ちゃん、確かにかわゆく育ってるけど・・・もうちょっと女の子らしくなると尚いいと思うの。送ってくれる写真見てても、外で遊んでるのばっかり。こんなにこんがり焼けちゃって!」
「うー!」

さゆみさんにほっぺたを両側からムギュッとつぶされて、お嬢様はまた半泣きになってしまった。
「あの!お嬢様はあんまりベタベタされるのは好きじゃなi」
「まあこれはこれでわんちゃんみたいでいいけどね。千聖ちゃんは手芸やお料理はしないの?」

クッ・・・!このアマ!話を聞きやがらねえ!


「手芸はあんまり・・・お料理なら、たまにします。あまり上手ではないけれど。えりかさんが教えてくださるの。」

そう、お嬢様は結構アバウトな性格なので、家庭科的な分野が苦手だ。
いつだったかお裁縫の授業で、ミシン針を5本折った上に、布を押さえてくれた菅谷さんの手ごと縫いそうになったという逸話を思い出した。めぐの指導でお屋敷の掃除をすれば飾り物の陶器を破壊し、洗濯機を回したら廊下まで泡まみれ。
お料理の方は、すごく適当にいろんな調味料を入れてるのに、なぜかおいしく仕上げるというゴッドハンドを持っているから問題ないけれど・・・たしかに今の状態でお嫁に行ったら、おっぱっぴーさんの家は1日で壊滅状態に陥ってしまうだろう。

「そう、そうでしょ?わかる。そんな感じする。だからね、今日からしばらく、さゆみが付きっ切りで教育してあげることにしたから。」
「えっ!」
「何か問題でも?」

だって・・・こう言っちゃなんですけど、さゆみさんも決して家事がお得意そうには・・・


「じゃあ、明日からビシビシ行くからね!千聖ちゃん。今日はもう寝ようね。小間使いさんたち、ご苦労様。今日は上がってよくてよ。」

こここ小間使いって、わしらのことか!

「あら、さゆみさん。えりかさんと愛理はそちらの、窓の外にある寮に住んでいるのよ。お手伝いさんじゃないの。こちらが寮の皆さんのお写真。」
お嬢様はおっぱっぴーもとい兄重殿の写真が納まったアルバムをぺらぺらめくって、寮生とお嬢様で撮った1枚をさゆみさんに見せた。


「へー。可愛い子ばっかりだねー。さゆみが一番可愛いけど。」
「あら、さゆみさんたら。ウフフ」

―誰か、誰かツッコミ役を!お嬢様は天然だから、一緒にぽわぽわ笑ってるだけで、さゆみさんの暴走を止められない。私1人じゃこの強烈キャラの防波堤にはなれなそうだし、愛理は放置モードに入ってしまった。
これはもう、あのシラフ酔っ払い3人組を煽るしかない!

「千聖ちゃん、ほらベッド行こ?さゆの隣においで。一緒に寝るの。」
さゆみさんはまるで我が家のように、ドレスのままお嬢様の大きなベッドにポーンと横たわった。
「あ・・・は、はい。でも、お着替えは?」
「千聖ちゃんの貸して。あ、でもさゆみの方が背大きいから入らないかな?ここは同じぐらいだけどー」

そういってさゆみさんは、あろうことかお嬢様のむ、む、胸をぷにゅっと突っついた。

「きゃん!・・・えっ・・えりかさぁん・・・・愛理・・・!」

お嬢様は警戒してる仔犬みたいにぴょーんと飛びのいて、私達の後ろに隠れてしまった。


“オルァアアァアァァアア!ワレ何さらしとんじゃあ!”
“こいつはワシのマブじゃけぇ・・・落とし前つけてもらおうかのぅ”


頭の中で、グラサン舞ちゃんとガラシャツ栞菜がくだを巻く。高下駄なっきぃはみかんを投げつけている。

「お嬢様、今舞ちゃんたちを呼んで来ますから、少しの辛抱ですよ」
「ちょっとー!辛抱って何!千聖ちゃん、今日さゆと一緒に寝るんやろー?さゆは千聖ちゃんの家族になるんやろー?」
「うう・・」

ご家族と離れて暮らしているお嬢様は“家族”という単語に弱いらしい。びくびくしながら、おそるおそるさゆみさんのほうへ歩いて行った。

「はい、じゃあまぁ、お2人はまた明日ということで。おやすみなさい。」

さゆみさんは私達を廊下へ押しやると、ドアを思いっきり閉めて指を挟んだ。自爆。


「痛ーい!」
「あら、さゆみさん?どうなさったの?お怪我?」

お嬢様の慌てた声が聞こえる。

「2人にして大丈夫かな・・・(いろんな意味で)」
「まあ、明日の朝早めに様子見に来ようよ。ていうか、私達が行かなくても、多分・・・」
「だね。」

何だかどっと疲れが出て、私と愛理はマヌケな顔で苦笑し合った。



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