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「はい千聖ちゃん、あーん」
「あ、あの私自分で」
「違うのー。千聖ちゃんがさゆに食べさせて?」

目の前で繰り広げられるバカップル(一方的にだけど)行動を見て、目を見開いたなっきぃの手から焼きたてパニーニが落ちた。
私達は基本的に朝ごはんは寮で済ませるのだけど、今日はめぐの取り計らいで、舞美と愛理も呼んでお嬢様と朝食をご一緒させてもらうことになった。

「おいしいね。」
「ねー、チーズとろとろ」
お屋敷の朝食はシンプルだけどおいしくて、私や愛理舞美は結構感激していたのだけれど、舞栞なっきぃはそれどころじゃないみたいで・・・


「怨恨呪醜妬怖恐霊・・・」

舞ちゃんが日本語を超越した呪詛の言葉をつぶやく。栞菜の指がテーブルの下で触手のようにしなる。なっきぃの鼻の穴が膨らむ。
明るいリビングの中で、3人の空間だけが奇妙に歪んでいる。あな恐ろしや。


「アノ・ナゼ・サユミサンハ・ガクエンノ・セイフクヲ?」

顔を激しく引きつらせながら、なっきぃがカタコトで問いかけた。


「これ?似合うでしょー。可愛いさゆみにぴったりな可愛い制服だと思うの。うふふ」
「キ゛ュフゥ・・・」

赤いチェックのプリーツスカートと、同配色の大きめリボン。グレーのブレザーに身を包んださゆみさんは、首を傾けてウフッと笑った。自分で言うな自分で!
たしかにさゆみさんはお年よりも若く見えるし、これが高等部の青リボンなら違和感は少なくて済んだのかもしれない。
だけど、赤は中等部のカラー。お嬢様や舞ちゃんと同じ制服を着るにはちょっと、いやかなり無理が・・・

「スペアの制服は、お嬢様には少し大きめサイズだったから。さゆみ様にはぴったりですね。」
「でしょー?貴女、出来たメイドさんね。寮の子達ったら怖い顔でにらむんだから」
「うふふ、光栄です。」

おすまし顔でさゆみさんのお相手をするめぐは、鋭い視線を投げつける舞ちゃんにペロンと舌を出してからかった。

「でも、今日一日制服で過ごすのは窮屈じゃないですか?それとも外出なさるとか?」

舞美が問いかけると、さゆみさんはきょとんとした顔になった。

「外出っていうか、さゆみも行くの。千聖ちゃんの学校に」


「はあああ!?ありえないですっ!学校は勉強をしに行くところなんですよ!そんな勝手なことが許されるとでも」

風紀委員モードのなっきぃが腕章を突き出す。

「でも、千聖ちゃんの知り合いなら見学に来ていいって言われたの。さっきそちらのメイドさんが学園に電話でお問い合わせしてくれて、ね?本当によく出来たメイドさんね。」
「うふふ、光栄です。」
「めぎゅぅ・・・・」

みるみるうちになっきぃがしぼんでしまう。

「千聖ちゃん、さゆみと一緒に授業受けましょうね?ラッコ抱っこしてあげるからね」
「抱っこ・・・ですか?えと・・」


だ・・・だめだコイツ・・・早く何とかしないと・・・



無言の舞ちゃんからそんなメッセージを受信して、私はゾクッと身震いしたのだった。



「じゃあ、行って来まーす!」
「お気をつけてー」

朝食の後、私達はお嬢様のお仕度を待って、一緒に学校へ行くことになった。
いつもは車通学のお嬢様だけれど、舞ちゃんの「今日は一緒に行くの!」に押し切られて、久しぶりに歩いて登校すると決めたらしい。

「千聖、今日時代劇見るの付き合ってあげる。2人で舞の部屋で見よう。あと勉強も教えてあげるから寮に来て。」

いつになく必死なご様子の舞ちゃん。でも、天然なお嬢様はその心情があんまりわかってないらしく・・・

「あら、それではさゆみさんがお1人になってしまうわ。さゆみさんと2人で伺うわね」
「何それ。それじゃ意味ないんだけど!」
「どうして?舞はさゆみさんがお嫌いなのかしら?」
「っ・・・そうじゃないけど・・・もう、千聖のドンカン!お子様ランチ!」
「おっぱい!」
「何ですって!舞、お子様ランチってどういう意味なの!栞菜も待ちなさい!何てはしたないことを言うの!」

どうやら口説きは失敗に終わったらしい。お嬢様は舞栞とおいかけっこをしながら、先に林道を走っていってしまった。

「はあああ・・・」
「なっきぃ、大丈夫?」

そんな2人を見ながら、隣にいたなっきぃが盛大にため息をついた。

「何か、何か、いろいろショックすぎて・・・」

トレードマークのサイドポニーも、今日は何だかしおしおになってしまっているように見える。

「お嬢様はいつまでもなっきぃの可愛いお嬢様でいてくれると思ってたけど、そうじゃないんだよね。私は本当のお姉様にはなれないんだよね。
婚約とか許婚とか、私達にはわからない世界をお嬢様は少しずつ受け入れて大人になっていくんだね。」
「なっきぃ・・・」

“私、えりかさんのことお姉様だと思っていいかしら?大好きよ”
数ヶ月前、お嬢様がそんなことを言っていたのを思い出した。きっとなっきぃも、同じようなことを言われていたのだろう。

「お嬢様、意外と大人なとこあるからね。なんだかんだ言ってさゆみさんともうまくやっていきそう」
「・・・そだね。それはいいことなんだろうけど・・」

なっきぃの気持ちは、私にもよくわかる。お嬢様には、まだしばらくは無邪気で泣き虫でワガママで、誰よりも笑顔の可愛らしい寮生のマスコットでいてほしかった。・・私の知らないところへ行ってほしくはなかった。

「にょーん」
「うわっびっくりしたぁ!」

暗いムードの私達の間をぬうように、愛理がにゅっと首を突っ込んできた。

「さゆみさんと舞美ちゃんと話してたんだけど、何かこっち側がしんみりしてたから。ケッケッケ」

後ろを盗み見ると、さゆみさんのマシンガントークに、舞美が汗をかきながらあいづちを打っていた。愛理はうまいことドロップアウトしてきたらしい。

「いやぁ、何かね、お嬢様が遠くへ行っちゃうような気がして寂しいねって話してたの」
「寂しい?どうして?」
「え・・だって」

愛理は目をパチパチさせて、私達の顔を見比べた。

「婚約者が居たって、千聖お嬢様は千聖お嬢様でしょ?今までと何にも変わらないよ。これからも、私達の大好きなお嬢様のまんんまだと思うけどなあ。」
「あれ、愛理ちゃーん?まださゆの話終わってないんだけどー!」

はいはーい、と軽やかに返事をして、愛理はまた後にくねくねしながら走って行った。

「大人だ・・・」
「ね・・・」

いつもはマイペースで掴み所のない愛理は、こういう時、寮の誰より大人っぽくて感心させられる。いつもどおりの悠然とした態度に感化されて、私となっきぃも顔を見合わせて笑い合った。



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