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面白くない。何なの、千聖は私のなんだから!!


千聖と一旦バイバイして教室に向かう途中、私は盛大に舌打ちした。思ってたよりその音が大きかったのか、ごみごみしてた廊下が静まり返って、私のための道が出来た。


千聖に婚約者(恋人とは認めない。絶対にだ!)がいる、と知ったのは昨日のことだった。舞美ちゃんが言うには、それを聞かされた時の私は相当取り乱していたらしい。ショックのあまりその辺の記憶はあいまいになっているけど。

心配して様子をみに来てくれたえりかちゃんには、大人ぶって大丈夫なふりをしてみせたけれど、実はいまだに私はへこみっぱなしだ。

私は初等部からこの学園にいるから、幼稚園以来まともに男の子と接したことがない。
千聖をお子ちゃま扱いしてるものの、当然、私だって恋愛に関しては本や漫画の知識以上のことはわからない。それでも、読書嫌いの千聖よりはよっぽどその辺のことは理解してるつもしだった。・・・それなのに。

私の推理だと、おそらくそう頻繁に会ってるわけじゃないんだろう。千聖は休日も基本的にお屋敷周辺で過ごしているから。それよりも私が気にしているのは、・・・千聖の気持ち。

ただの許婚なら、私は安心できた。まさか大昔の貴族じゃあるまいし、そんなに早く結婚することもないだろう。
高校行って、おそらくこの学園の附属大学に進学して、手間にならない程度に何年か働いて、それから?
その頃には私の心の整理もついてるだろうし、もしかしたら私自身にも恋人というものが出来ているかもしれない。


でも、問題はそこじゃない。私は千聖の心がどこにあるのか、それが気になって仕方がない。
もし千聖が許婚の人を本気で好きだったら?“愛して”いたら?私はどうしたらいいんだろう。まだそれを許容できるほど、私は大人じゃない。


自他共に認めていることだけど、私は独占欲が恐ろしく強い。特に、千聖に関しては自分で自分に引くぐらい。

千聖にはいつも笑っていて欲しいし、その未来が幸せなものであってほしいと思う反面、千聖が結婚相手のことを愛していなければいいのに、と矛盾した思いを抱えている。いったい私は自分が何を考えてるのか、よくわからない。
栞菜やなっきぃも千聖ラブで、私たちはよく千聖への思いを語り合っては張り合ってるけれど、それは論争しながらみんなで笑っちゃうような娯楽にすぎない。本当の“婚約”は重すぎる。
千聖みたいな立場の子がする結婚は、普通の個人同士の結婚とは違う。家と家、会社と会社。新しい組織が生まれるための礎。
天才とか言われてたって、それは私みたいな子供の手におえるようなことじゃない。本当に結婚する運びになったら、私は爪を噛みながらそれを見守ることしかできないんだ。


1人そんなことを考えているうちに、えりかちゃんから恐ろしいことを聞かされた。千聖の許婚の妹――つまり、小姑がお屋敷に来ている、と。

私はいてもたってもいられず、えりかちゃんを引きずるようにしてお屋敷へ向かった。そこで目にした光景は・・・・・もはや思い出したくもない。


そうして私の目の前に現れたさゆみさんは、あのワガママでお子ちゃまな千聖を振り回すほどの奔放さで、私達寮生を混乱の渦に陥れたのだった。


嗚呼、面白くない!ただでさえ婚約者の存在は気に食わないのに、その妹っていう立場を利用して、さゆみさんは千聖をまるでペットみたいに扱っている。
千聖も千聖だ。いつもは舞がちょっと抱きつくだけで「嫌!」なんて言って抵抗するくせに、あんなにベタベタ触られて、困った顔でうつむいてるだけなんて。

「舞ちゃん?」
「あぁ!?・・・じゃなくて、なぁに?」

気がつくと、私は教室に入って、自分の席でなにやらぶつぶつつぶやいていたらしい。怯えた顔のクラスメートたちが、遠巻きに私を見ていた。

「もうホームルームの時間だけど、移動しないの?」
「・・・あ、本当だ。ありがとね」

私は親切に声をかけてくれた子にお礼を言うと、ノートと筆箱を持って席を立った。


ずっと、千聖と寮のみんな以外、友達なんていらないと思っていた。でも、千聖と仲直りしてから、私は少しずつ周りに目を向けられるようになってきた。

クラスの子たちを空気のように扱っていたのは間違いだった。嫌な子もいるけど、優しい子もたくさんいる。それがわかって、私の世界は広がっていった。ちょっとだけど、大人になったような気がする。・・・それでも、肝心なとこはやっぱり子供だけど。
不思議なことに、周りを見れるようになればなるほど、千聖への独占欲は強まっていく。まったく、バランスが取れてるのか取れてないのかよくわからない。

ホームルームの教室は、千聖と一緒。千聖と一緒ということは、さゆみさんも来ているということ。
私は気が短い。いつまでもさゆみさんのスキンシップに困惑している千聖を見続けるのは、忍びない。


やるか、逃げるか、二択しかない。ホームルームはかんなっきぃも、イマイチつかみ所がないけれどももちゃんも一緒だ。協力は望めるだろう。


「よしっ」

そろそろ予鈴が鳴る。私は少し早足で、教室に向かって歩き出した。



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